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僕は地縛霊に恋をする  作者: ホオジロ
二 わし
18/28

二の四 姫は既に死んでいた

 姫は既に死んでいた。わしも既に死んでいた。

 雪が降り始めた。初雪だろうか。雪は風に吹かれ、姫の体を通り過ぎていった。

「なにかご用があればお申しつけくだされ」

 わしがいうと。

「殿にお会いしたい」

 姫なひと言だけ呟いた。

 そうだ。わしも殿を探しておったのだ。いやしかし、わしが殿を探していたのは姫を探すためであって、姫はここにいる。だからもう殿を探す必要はない。

 いやしかし、姫が殿に会いたいというので、やはり探す必要があるのか。

 わしはすこぶる頭が悪い。つくづく、そう思わずにはおられぬ。わしは人間のように利口ではないのだ。

「ならば屋敷に参りましょう」

「私はここを離れない」

 姫はもう一度、呟いた。

「ここから離れようとすると、脚が重く動かなくなるのです」

「ならば、わしが殿をお連れして参りましょう」

 わしは屋敷の場所を姫から聴いた。これはさすがに、頭の悪いわしにも解る。峠は一本道だ。峠を越えて鳥居をくぐり、初めの辻を右に折れて真っ直ぐ。

 しかし、鳥居はなかった。屋敷もなかった。いくら探そうとも、殿を見つけることはできなかった。

 姫が死んでから、既に結構な月日が経っていたのだ。

「殿は?」

 姫が訊ねた。

「殿はどちらに?」

「殿は川の向こうに」

 姫を悲しませてはならぬ。わしはそう思った。わしは頭が悪い。

「姫と同じように、殿も動けぬようです。しかしご安心くだされ。わしが、姫と殿の間を取り継ぎましょう」

 わしは姫に嘘をついた。川の向こうに殿がいると、嘘をついた。それからずっと、ずっと。わしは嘘をつき続けている。

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