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僕は地縛霊に恋をする  作者: ホオジロ
二 わし
17/28

二の三 わしは眼が醒めた

 わしは眼が醒めた。水の流れる音がする。明るい。寒い。雪を降らせそうな雲が西の山に被さっていた。

 わしは橋の上にいた。流された筈の橋の上だ。しかしちと違うのは、橋の材がまさらな檜であることだ。

 大人衆は橋を架け終えたのだろう。立派な橋である。

 姫はご無事か。わしははたと心配になり、姫の屋敷に向かった。向かったは良いが、ちと様子が違う。姫の屋敷が見当たらぬ。それだけではない。村の人間が、みなわしの知らぬ顔なのだ。

 わしは村じゅうを駆け回り姫を探したが、やはり見当たらぬ。宛てもなくさまよっていては埒があかぬので、わしは川向こうの殿の屋敷を目指すことにした。

 橋のたもとに、見覚えのない祠が建っているではないか。苔むした小さな祠であった。

 そして、祠の傍らに立つ人影がある。まごうことなき姫であった。

「姫!」

 わしは喜んで大声をあげた。

「姫ではありませぬか」

 姫は右に首を傾げて。

「あなたは?」

 と言った。

「わしは」

 そこで気づいた。わしには人間のような名がない。名乗ることができぬのだ。

「姫様の好きなようにお呼びくだされ」

 わしも姫を勝手に姫と呼んでいるのだ。だから姫も、わしのことを好きに呼んで良いのだ。わしの頭ではこの答えしかでてこない。

 すると姫は、今度は左に首を傾げて。

「じゃあ、平蜘蛛」

 と言った。

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