五の二 日が落ちようとしている
日が落ちようとしている。今日が刻限だ。明日の朝、おれたちは、だれかを。
「村のだれかを殺せというのか?」
決められるものではない。そんなこと、できるわけない。
「若殿様がそんな非道いこというわけががねえ」
「このお触れに書かれておる!」
おれは字が読めぬだとか、花押が伊之助様のものではないだとか。そんなことばかりで、話は一向にまとまらない。
「殺すのではない。護り神様になるのだ」
「だれかが死ぬのに変わりねえだろうが!」
このまま、何も決めなかったらどうなるか。伊之助様がだれかひとりを決めてくださるだろうか。そんなわけがない。決めなくては、だれかが死ぬ。ひとりやふたりではない。もっと多くの者が餓えて死ぬ。
「ひとりが死ぬか、みな死ぬかだ。決めよう」
「なにか策はないのか?」
だれも死にたくない。だれも殺したくない。
そうか。
「アヤを立てよう」
「気が狂ったのか佐吉! おめえの娘だぞ!?」
おれはまともだ。これしかない。
「伊之助様はアヤをたいそう慕っておる。そのアヤを立てるといえば、伊之助様も諦めてくださるだろう」
これは賭けだ。しかしきっと、伊之助様は解ってくださる。
アヤじゃ。アヤじゃ。皆の意見がまとまった。




