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僕は地縛霊に恋をする  作者: ホオジロ
五 おれ
15/28

五の一 稲の刈りいれが近い時期である

 稲の刈りいれが近い時期である。おれは色づき垂れた稲穂を眺めていた。

「おっとう!」

 アヤの声に顔をあげる。アヤと、その傍らに伊之助様が立っている。おれは立ちあがり頭をさげた。

「おっとう! ちょっといってくる!」

「伊之助様! そのようなことはなさらんでも」

 アヤは手に持った水桶を振っているが、その隣で伊之助様も同じようにしているのだ。

「なあに、好きでやっておるのだ。私にはこれが性に合っておる」

 笑顔の伊之助様に、おれは頷いて頭をさげた。いつものことだ。こののやりとりは半ば決まったものだった。

 伊之助様はいつもおれたちを労ってくださる。皆の名をすべて覚えてくださっている。こんなに良い領主様はほかにない。

 稲穂が、伊之助様に頭を垂れているようだ。刈りいれが近い。大事な時期だった。

「こうなると知っていれば」

 青田刈りもできた。

 悔いてても遅い。と、分かっていても、言わずにはいられない。おれたちは皆、稲が倒された田の前で嘆いていた。

「この有様で年貢を納めたら、わしらの食うもんがなくなっちまうぞ」

「どうすりゃええんじゃ」

 いまからでも刈りいれて、干せば食えるようになるか。どれだけが食えるか、足りるか。すぐに麦を撒いて、来年の夏まで。売れるものはなんでも売って、食いものに替えて。そうすれば、冬を。

 越せぬ。どうあがいても年貢が足りぬ。食糧が足りぬ。

 頼るべきは。

「若殿様だ」

 そうだ。

「伊之助様に頼みこんで年貢を免じて貰おう」

「そんなことができるのか?」

「わからん。でも、できなきゃどの道、おれたちは飢え死にだ」

 そうだ。頼らねば、どうにもならぬ。

 若殿様じゃ、伊之助様じゃ。皆の意見がまとまった。

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