四の三 触れをだしてしばらく後の夜
触れをだしてしばらく後の夜。古橋の村の大人衆が訪ねてきた。夜が更けてから訪ねてくる者など普段ならば追い返すところだが、今宵はわけが違う。私は大人衆を迎えいれた。
大人衆はぜんぶで五人。
「決めたのだな」
大人衆は誰も答えない。かがり火の薄あかりに照らされた顔は俯いたままだ。
「して、誰を」
大人衆は俯いたまま互いを見やった。誰も口を開こうとしない。
無理もない。この者たちはみずからの手で、見知っただれかを殺すのだ。自分たちが生き残るために。彼らはみずからを卑しいと嘆くだろうか。いつまで嘆くだろうか。どうすれば良いのか。
そのようなことを考えていると、大人衆のひとり、佐吉が口を開いた。
「アヤでございます」
顔をあげた佐吉のまなざしには強い意志があった。
佐吉はアヤの父だ。父が、みずから娘を差しだすといっている。人柱として。
なんということか。辛かろう佐吉は唇をきつく締め、毅然としてこちらをむいている。
「アヤはなんと申しておるのだ」
「『喜んでお受け致します』と」
アヤは本当に、仏になろうとしているのか。
「そうか」
佐吉がいうのだ。やむを得まい。
目からひと筋、落ちた。




