四の一 空は晴れている
空は晴れている。昨日までの雨風が嘘のようだ。
私は村の様子を見てまわることにした。庄之助が、率先して私についてきてくれた。
庄之助は長らく式守の家に仕えている。
「朝がだいぶ冷えるようになりましたな」
「老体には辛かろう」
馬のひづめの音に乗せて冗談を言いながら、私たちは峠道を下った。近場の村むらに被害はほとんどなく、残るは古橋の村だけだった。
だったのだが、峠を下りて愕然とした。村に通じる橋がないのだ。崩れ落ち、水に流されてしまっている。わずかな瓦礫が残るのみである。しかし渡らねばなるまい。
「これでは渡れませんな」
「老体には辛かろう」
私は濁った川に、馬とともに飛びこんだ。
水量は多いが渡れぬことはない。庄之助もあとを追ってきた。
「お待ちくだされ! 殿!」
「老体は無理するな」
「そう老体老体と言わんでください」
「しかし、早いところ橋を架けねばならんな」
「そうですな」
古橋の村は酷い有様だった。流された家ははなかったものの、刈り入れ間近の稲穂がことごとく泥水に浸かり駄目になっていた。
村の大人衆が稲穂を前にして項垂れている。
「どうか、年貢を免じてください」
「お願いします」
「お願いします」
皆、頭を下げて願いでた。
「よし解った。できるだけ、良いように取り計らおう。しばし待たれよ」
そう言うと、大人衆は口ぐちに礼を言い、手を合わせて拝むものもあった。
とは言ったものの、古橋の村だけを優遇すれば、他の村から不満がでるだろう。かといって、すべての村の年貢を免じることはできぬ。
帰りがけ、庄之助が渋い顔で訊いてきた。
「一体、どうなさるお積りで?」
どうすべきか。私には分からぬ。




