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魔法の香水 後編

 結論を言うと、この香水は本物の魔法の香水だった。

 だって、あのマドンナが突然俺に惚れたんだから。

 効果時間が24時間なのも間違いなさそうだ。


 翌日の昼までは恋する乙女だった綾瀬さんが一瞬で俺をゴミ虫みたいな目で見てきたからね。

 あれは今思い出しても辛い。

 最近はそう言う心の傷を増やさないために、必ず朝の7時に香水を使ってから出勤するようにしている。


 今の魔法の香水には綾瀬さん以外の女性の髪の毛も沢山入れてある。会社の美人どころは全員俺の彼女になっていた。

 魔法の香水を3回使えば、彼女達は俺の言う事なら何でも聞く奴隷に成り下がる。

 今まで見下されていただけあって、気分がすこぶる良い。

 彼女達は、俺が言えば仕事中だろうが股を開く。王様気分ここに極まれりってやつだ。


 だけど、そんな王様生活ももうすぐ終わってしまう。

 何故なら香水の量が残り僅かだからだ。あれから幻夢堂があった場所に行ってみたけど、何故か空き地になっていた。

 場所を間違えたかとも思ったが、いくら探してもあの店は見つけられなかった。


 「あと2日分くらいしか残ってない。」


 こうなってくると、あの店主の言葉を思い出す。


 【4回以上だと効果が出すぎてしまうのです】


 香水を4回以上使ったらどうなってしまうのか?

 3回使っただけでも彼女達は奴隷みたいに何でもいう事を聞くようになった。

 これ以上があるのか?


 もしかして、4回使うと香水の効果が切れなくなったりして?

 そうか、あの店主、次は高い値段でこの香水を売ろうと考えていたんだ。

 だけど、予想外にも俺が訪ねる前に店が潰れてしまった。

 理由は分らんが、結構な年齢に見えたし、寿命でも来たのかもしれない。


 「最後だし、使ってみるか。」


 俺は思い切って残りの香水を全部使ってみる事にした。


・・・


 やっぱり俺の予想は正しかった。

 香水が無くなって1週間が過ぎたけど、その効果が切れることは無く続いている。

 もっと早くにこうすれば良かったと思う。


 「ねぇ、隆くん。今日はみんなで鍋パーティするんだけど来ない?」

 「あぁ、行くよ。いつものメンバーだろ?」

 「そうだよ」


 最近は誰かの家に集まって飯を食ってからの乱交パーティが当たり前になっていた。仕事は俺がやらなくても彼女たちが勝手に終わらせてくれるし、人生イージーモードとはこのことだ。


 「じゃあ、仕事が終わったら私の家に集合ね。材料とか調理とかは私たちでやっとくから」

 「いつも悪いな」

 「気にしないでよ。やりたくてやってるんだし」


・・・


 「ふ~、食った食った。みんなあんまり食べてなかったけど、どうしたの? ダイエット?」

 「実は私たちにはデザートがあるの! だからあんまり食べなかったんだ」

 「マジかよ。ズルいなぁ。俺の分はないの?」

 「ごめんね。隆君の分はないんだ。」

 「だって、デザートって隆の事だもんね」

 「なに? 俺を食べるのは何時もの事だろ? 今更何言ってんだよ」


 さっそく乱交開始か。そう思ってベッドの方に行こうとしたら、上手く体が動いてくれない事に気付く。あれ、どうなってるんだ?


 「隆ってモテるじゃない? みんな隆と一緒になりたいんだけど、隆は1人しかいないから無理だよね。」

 「いきなりどうしたんだよ、お前ら変だぞ?」

 「だから隆をみんなで分ける事にしたんだ。」


 凛子がバッグからノコギリを出しているのが見える。

 他の連中も何かしら俺を分ける道具をバックから取り出しているようだ。

 冗談はよせよ、なぁ———


 「私は左手」

 「私は上半身もらいっ!」

 「じゃあ私は右足」

 「私、下半身貰っていい?」

 「私は頭がいい」

 「それじゃ私は右手かな」

 「残りは左足かぁ。別にいいけど」


 「ちょ、と、まて」


 ゴリゴリと俺が分解されていく音が耳に響く。

 全身がマヒしているのか痛みは無い。それなのに、意識がハッキリしているのが怖かった。

 死ぬのが分る。体が冷えていくのが理解できる。

 こんなはずじゃなかったのに。


 「大丈夫、隆君は私たちの中でずっと生きていくんだから。」


 —————安心して良いんだよ。


 凛子がそう言いながら優しく微笑んでいるのが、俺が見た最後の景色だった。


・・・


 カランコロン


 「おや、随分と早く死んだんですね。私的には早い方が嬉しいので別にいいのですけれど」


 深夜の喫茶店に人の気配はない。

 カウンターに一人の執事風の老人が佇んでいるだけだ。

 老人は嬉しそうに手招きをした。


 「では、貴方の魂は私が美味しくいただきますね」


 バクン

 

 老人の口があり得ない程に広がって、俺を飲み込む。

 だけど、俺は抵抗することが出来ない。だって、そういう契約なんだから。


 「ごちそうさまでした。」


 喫茶店には執事風の老人が1人、佇んでいる。

 入口の扉が開くのを今か今かと待ちながら。


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