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魔法の香水 前編

 「また駄目だった。」


 俺の名前は小金井 隆、25歳。

 恋人いない歴=年齢の冴えないサラリーマンだ。

 告白しては玉砕、告白しては玉砕を繰り返してもう30回はフラれている。

 実は今日も同じ仕事場の同僚に告白してフラれたところだ。


 カランコロン


 失恋には熱いコーヒーが良い。

 俺は喫茶店で心を癒して行く事にした。

 何気なしに入った喫茶店は、人気が無いのかガランとしていて、人の気配はない。


 カウンター席には執事風の老人が1人だけいて、コップを磨いている。

 白髪のオールバックに燕尾服といった風貌で、映画とかで良く見る執事長みたいだ。

 よし、この人はこれから執事長と呼ぼう。


 執事長はイケメンだし、これならコーヒーが不味くても執事長目当てで客が来そうな物だけど、俺のタイミングが良かっただけかな?


 「おや、お客様ですかな? どうぞこちらの席の方にお座りください」

 「あ、はい。えっと、おススメのコーヒーを1つ」

 「ふむ、ではエスプレッソでよろしいですかな?」

 「じゃあそれで。」


 執事長の入れてくれたコーヒーは驚くほどに美味しく、何でこの店がこんなにガランとしているのか、ますます分らなくなった。

 もしかしたらこの店、出来たばかりなのかもしれないな。

 考えてみればこの道は結構通っているのに、こんな店があるなんて知らなかった。


 「お客様、失礼ですが、何か悲しい事でもあったのですか?」

 「なんでいきなり?」

 「あぁ、すいません。頬に涙の跡が見えたものですから、つい。」


 そう言われて、ハッとする。どうやら俺は泣いていたみたいだ。

 慣れないものなんだな、もう何回もフラれてるってのに。


 「言いにくいのなら別に良いのですが、言った方が楽になる事もありますので。」

 「ありがとうございます。実は———」


 気が付けば俺は執事長に今日フラれた事から、今まで彼女が出来たことがない事まで洗いざらい喋っていた。

 執事長が聞き上手だったのもあったけど、俺も随分と不満がたまっていたんだろう。


 「そうなんですか。もし宜しければですが、そんな貴方にピッタリな物がありますよ」

 「なんですか?」


 執事長が店の奥から出してきたのは1つの瓶だった。

 香水の容器みたいっていうか、多分香水の容器だと思う。


 「実は私は魔法使いなんです。これは魔法の香水ですよ。」

 「何言っているんですか? 魔法使いとか、あなたは……」


 あんた何歳だよ。

 どうしよう、電波な店だから客がいないのか。

 コーヒーも雰囲気も悪くないのに勿体ない。


 「まぁまぁ、この香水はですね、なんと体に振りかけるだけで人の好意を操れる魔法の香水なんです」

 「はぁ、そうなんですか」


 執事長が言うには、この香水の中に対象の体の一部を入れて使うだけで、24時間は対象の心を操れるようになる良いらしい。


 「この香水は重ねて使う事で効果が増していきます。1回使うと友好的に、2回で恋に落ち、3回で対象はあなたの事を愛するようになります。勿論、それは効果時間の間だけですが。」

 「それ本当ですかぁ?」

 「何だったら試してみますか? 2つの約束をしてくれればこれは無料でお譲りしますよ。」

 「約束とは?」


 店主が出した約束は2つ


 ・この事は誰にも言わない

 ・死んだ場合、自身の魂を【幻夢堂のマスター】に譲渡する


 「この2つ目は、どういう意味ですか?」

 「あぁ、それはあなたが死んだ時、あなたの魂を私がもらうって事ですね。

ほら私、魔法使いですから。」


 あぁ、雰囲気作りってやつか。

 しかし、今知ったけどこの店の店名、幻夢堂っていうのか。

 喫茶店なのに変な名前だな。あとこの人が店のマスターなんだな。

 そりゃ流行らんわ。納得の電波だもの。


 「まぁ、死んだ後の事なら別にいいですけど。」

 「では、契約成立ということで。」


 店主はそれっぽい紙とペンをカウンターから出して俺の前に置いた。

 その紙にはさっきと同じ内容が書かれている。


 「ずいぶん本格的なんですね」

 「そっちの方が面白いでしょう?」


 店主はニッコリと笑って瓶を渡してきた。

 まぁ、実質タダだし、試すだけ試してみるか。

 俺はそんな事を考えながら紙にサインをした。


 「そうだ、1つだけ注意したいことが」

 「なんですか?」

 「この香水を効果時間内で重ねて使うのは3回までにしてください。4回以上使ってしまうと大変な事になりますので」

 「どういう事ですか?」

 「この香水は、何度も使う事で効果を重ねる事が出来るのは先ほど説明しましたが、4回以上だと効果が出すぎてしまうのです」

 「はぁ、そうですか」

 「くれぐれも、それだけは守ってくださいね」


・・・


 次の日、俺はさっそく香水を使ってみる事にした。

 会社のマドンナの髪を引き抜いて魔法の香水に入れる。

 皆からは変な目で見られたけど、会社の底辺である俺の事なんて眼中にないみたいで、見事に無視された。別に無視されるのには慣れてるからいいんだけどさ。


 「えっと、ここに髪の毛を入れれば良いんだよな?」


 髪の毛を香水の中に入れて軽く振ってみる。

 香水に変化はない。髪の毛はそのままだし、香水の色も変わったりしていない。


 「時間を置いた方がいいのかな?」


 まぁ、無料のもらい物だしな。

 香水なんて生まれてから使ったこともないし、使うだけ使ってみるか。

 取りあえず2回使ってみる。


 「匂いはしないな。」


 香水なのに無臭って、水が入っているだけとかじゃないか?

 あのジジイ、悪戯が過ぎるだろ。

 帰りに寄って文句を言ってやろう。金を払った訳じゃないけど、期待はしたんだし。


 「あの、小金井さん」

 「はい? なんでしょう、か……」


 帰りにどんな文句を言ってやろうかと考えていた俺に声を掛けてきたのは、先ほど髪の毛を抜かせていただいた会社のマドンナである綾瀬 凛子さんだった。

 あのマドンナが恋する乙女のように顔を赤くしながらモジモジしている。

 さっきまで俺の事はゴミ虫を見るような目でしか見てくれなかったあの綾瀬さんが!

 俺を見て顔を赤くしている? どうしてこうなった!?


 「えっと、ご迷惑じゃなかったら一緒にお昼行きませんか?」


 しかも俺をご飯に誘っている!?

 マジかよ。意味がわからないよ。何かの罰ゲームですか?



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