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暗黒騎士と鏡の剣  作者: 十奏七音
自称暗黒騎士ミラーソード
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9. 外出準備

 結局、俺と鏡は夕食後に連日の会議を重ね、熟慮の上で一つの結論を出した。


「鏡としてはおカネで解決する事を提案する」

「よく言った、それでこそ俺の股肱(ここう)(しん)

「鏡をもっと褒めてくれていいよ?」


 金銭で命を買い集める。ようやく出した有望と思える結論を受け、俺と鏡は換金に適した品物作りに着手した。


 狩りによる食糧集めを手控えた分は変成術で食糧を創造する事で補い、様々な物品に魔力付与を繰り返した。魔素の浪費が続いた結果として住処の魔素がちと薄くなったと思えば、俺が縄張りを主張している山の外へ遠征もした。


 作るのは術具だ。俺が換金効率の良い品物を作るならば術具一択だ、と言う点については早々に鏡と意見が一致した。何を売るべきか相場の下調べが甘い点を鏡は懸念していたが、俺はどんな胡乱なものと出くわすか知れたものではない都市部には長居したくないと主張して事前調査の要望を退けた。


 毒物や薬品は売り捌き辛い点で却下だ。買い叩かれても構わないならば良かろうが、縄張りから回収できる魔素は無限ではない。割に合わない取引はしたくない。

 変成術による貴金属の生成も好ましくない選択肢だ。大量の魔素を吸引して金塊や宝玉を生成するとなると換金効率がいいとは思えない。そもそも、原材料を卸すと言う発想がよろしくない。交易に臨むならば加工品を提示すべきだろう。


「間違いなく高価な品を作ればそれで良かろうよ」

「ミラー、買い手の財力の問題があってだね。例えば貴族でもカネのある奴とない奴がいる。家門を継承する長男はおカネを動かせるが、予備の次男や三男以下の有象無象はおカネを持っていないぞ。

 それに、完成品を押し付けられるよりも注文通りに作らせたがるだろうね。ああだこうだと注文を付けられて、割に合わないお仕事になるかもよ?」


 鏡はごにょごにょと申していたが、俺には考えがあった。

 俺とて鏡めいた刀身を持つ剣やら、俺にとっては程好い重量の戦槌を売ろうと思うほど考え無しではない。小刀に魔力付与を施し、魔除けなり守り刀として売ってやるのだ。俗人が俺の嫌いなものに対抗し得る手段であれば、寛大な心で世に撒いてやろう。どうだ、これこそ相互に利益のある取引と言うものではないか?


「考えている事を言って御覧よ、ミラー。鏡は心配している」

「俺が作る毒物なり術具は最上級品だ」

「変成術の産物については最上級も軽く跳び超えているけどね。超級とでも呼ぶべきか。

 例の行商人には本来の値打ちよりも随分とお安く売っているのだよ、ミラー」

「相互に有意義だと認めた取引ならよいではないか。鏡こそ輸送費を忘れてはいないか?

 俺は正当な取引だと考えている。この家に彼女を連れて来た実績は買っているぞ」

「何も考えていない訳ではないんだね、ミラー」


 俺の膝の上に暗く澄んだ橙色をした愛らしい彼女を乗せ、眼前に抜き身を晒して浮く鏡の剣を横目に言い返す。彼女に差し出す命は小さな彼女にとって食べ易いものを。俺に必要な命は知恵と魔力のある力強い命だ。なあに、所望の品がどこで手に入るか俺は知っているぞ。鏡に映る俺は少々悪い顔をしている。


「衣装に不自然な所はあるか?」

「似合うと思うよ。さる国の王侯貴族と取引がある大豪商もしくは大貴族の馬鹿息子でござい、と言ってもまあ通らない事もあるまいね」

「そうだろう。記憶を頼りに異国風の衣装を縫わせたがこんなものだと思うのだ」


 絹布を金糸に銀糸、宝石と魔石とで飾り立て帯と飾り紐を惜しみなく用いた装束の出来は決して悪くはない。俺の髪は金銀混淆だ。白髪ではないぞ。ならば衣装も金銀で装うのが似合いであろう。何しろ、どんなに地味な格好をしても髪を晒したなら顔を覚えられる有様だ。であれば最初から俺に似合う衣類を着る方がマシと言うもの。


「下手な板金鎧を着込むよりもミラーお手製のお洋服の方が確実に強いよね」

「俺は鎧を着たいのだがな」


 裁縫は専ら鏡に任せたのだが、調子に乗って魔術を編み込み過ぎたであろうか。

 俺が身に着ける武器防具には例外なく魔力付与を施している。修理の要求頻度を下げる耐久性能増加。少々の傷からは再生する自動修復力。武器は刃の鋭さと打撃の重さを増す。防具は周囲に害意への反発力を帯びる。

 純粋な戦闘能力を底上げする以外の防護はあまり付与していない。必要ないからだ。人間型だが厳密には人間ではなく、魔術を修めた俺に対する魔法的な干渉は困難だ。下級は問答無用に打ち消し、中級は俺が場に在るだけで発現を阻害し、上級に対しては通常よりも高い抵抗力で抗う。俺の前で暢気に呪文詠唱などする手合いに対しては、敵が集めている魔素を散らしてくれよう。警戒が必要なのは最上級以上に対してのみ。

 そして蛮族に最上級術の使い手は少ない。小さな街程度の集落であれば、一人いるかいないかだそうだ。栄えた都市国家であれば、少数ではあっても複数を抱えていようか。超級に至っては、俺以外に使い手がいるとすれば只者ではない。超級術の行使には異能や大儀式が欠かせない。


「魔術で戦うなら、少数の蛮族相手にはほぼ確実に今の君でも負けない」


 鏡が俺を諌める。何度も何度も、くどくどと。


「武芸で戦う事に拘るのなら少数相手でも負ける可能性は出て来る。

 ミラーよりも使える相手に対しては最初から遊んではいけない。

 三発殴ったらお返しで倍は痛い六発殴って来る筋肉達磨がこの世界にはいるからね?

 そして熟練者は技量を隠している事がある。占術を使っても結果を信じ過ぎるな」


 解っている、と繰り返し言ってはいるのだが。


「誰に対しても手加減などせず粉砕してやればいいのだろう。我を畏れよ、と」

「そうね、ミラー。恐れるべきなのは基本的には使徒と神だけだ」


 使徒と神。

 その二つの単語に対して俺には奇妙な敵愾心がある。俺と同格かより上位の力量を持ち得る存在への興味がないと言えば嘘になる。その命を喰らう事ができれば、きっと俺は満たされる。


「力を見せ付ければ弱い者は恐れ慄くけど、より強い者の関心を惹くよ。

 お山の外で君はとても目立つ。とてもとても、尋常でなく目立つ。

 お外でミラーと出会って会話した蛮族の記憶は鏡が細工するからね」

「鏡はちと過保護なのではないか?」

「鏡にとって、ミラーはとても大切なんだよ。なに、精神を破壊まではしないよ」


 全く、外出する準備だけでこんな有様だ。鏡は何か不都合があれば『俺と言葉を交わした』と言う理由だけで蛮族の精神を叩き壊して平然としているだろう。鏡は非道を平然とやる。まあ、俺に鏡を詰る資格はない。術具を創造し、所有する主人としての責任は感じている。

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