85. 夏の権能
ティリンス地方への出征準備にはそれなりの時間を費やした。
俺には弱点がある。情けないとは言わないで欲しい、常に毅然とした俺の母でさえも恐怖症を引き受けさせられた状態ではまともに行動できてはいなかった。それでも俺よりは随分と果敢だった、とも思うがね……。
俺は白い肌で筋肉質な男性めいたバシレイアンと言う種族に似た人型をしているが、コラプション スライムと言う妖怪の血を受け継いでいる。スライムは知っているだろう? 粘液質な液体もしくは流体状、或いは弾力のある肉体をした魔性で、暗く湿った洞窟などに生息している事が多い。
レベルで言うと下は1から、中間だとリンミ湖にぷかぷか浮かんで非好戦的に暮らしているジュエル スライムでレベル8から12、俺のようにレベル25の個体もいる。言ってしまえば俺はスライムのエリートさ。王子様か王様みたいなもんだ。
これまでに喰らった命の知識と経験を使い、幾つかのクラスの力を切り替えて発現させる芸もある。普段は魔術師をレベル20、暗黒騎士をレベル4にしている。逆にもできるし、他にも使えるクラスがある。
レベル25だと言ったのに1足りないのは、血肉と力を割いて分体を一体拵えているせいだ。分体は俺の意を受けて行動し、何よりも重要な点として俺の弱点を共有しない。俺が恐怖で身動き取れなくなっても自発的に行動してくれる。戦争に連れて行かない理由はないのだが、さて誰にしたものかと思っていた所へ立候補があった。リンミニア大君の館の地下にある小さな礼拝堂で俺は立候補の動機を聞かされた。
「エムブレポとの戦いなら儂が役に立てるぞ。戦の供にどうだ?」
「確かにアステールはエムブレポについて詳しそうだがな」
スライムに喰われてなお人格を留めていられる命など滅多にいない。現に、俺の中で残留できている意思は四つだけ。くすんだ白銀の鎧を着る仮面の老騎士アステールはその一人。アガソスのスタウロス公爵アステールだった魔法騎士だ。今は亡きアガソス随一の騎士だったとは言ってやっても良かろう。何しろ奉じる神に第一使徒として選ばれ、じいやと呼ばれながら親しく仕えていたのだから。高度な魔法操作に通じた元素術の達人であり、両手に一振りずつ持った十字双剣の二刀流で戦う。強かったが俺には敗れた。そんな男だ。
「ミーセオ軍の支援だぞ? 俺が貴様の立場ならやる気しねえ」
滅ぼした立役者の俺が言うのも何だが、アガソスは既に存在しない。契約していた王族を全て殺害され、アガシアの契印をアディケオに捧げられた事でミーセオ帝国に併呑された。スコトスが俺に命じた仕事はミーセオ駐留軍の支援だ。アガソスの公爵だった男が申し出て来た深慮を図りかね、仮面で表情を隠している老公爵に訊いた。
「双頭の狂魚神イクタス・バーナバは夏の権能を持つ精霊神だ」
「夏の権能とは何だ? スコトスとの会談では聞かなかった話だ」
「四季の権能の一つだね。この世界だとイクタス・バーナバなんだ?」
「そうだ」
夏の権能と言う単語に反応し、腰に佩いた鏡の剣から声がした。俺の分体であるアステールには鏡の声を聞き取れる。
「現地に出向けば卿にも視認できる。イクタス・バーナバが版図に組み込んだ土地は須らく常夏の密林と化すのだ。支配された土地は狂属性が強まり、狂神の恩寵を受けて生まれる者が爆発的に増える」
「夏の権能の説明としては理解したが、どうして貴様が打って出る理由になる?」
「夏の権能は強大だ。蔓延るのを許せば境界を押し戻すのに三倍は歳月を要する」
三倍の歳月と言われて俺は考える。
季節一つ分、ある地方をイクタス・バーナバに支配されたとしたら季節三つ分の月日を費やさねば押し返せないと言う事か? 奪回に一年も費やしていては俺に課せられた仕事が終わらないではないか。
「……今から出向いて間に合うと思うか、アステール」
「卿が全力を振るい、儂と鏡殿が支援するならば辛うじて」
「予想以上の大仕事ではないか」
「まあ、やる必要はあるんじゃないの。ミラーにしかできそうにないよ」
スコトスめ、解っていて命じて来たか? それとも鏡が言うように、俺にならできるとアディケオが判断したのか。後者だと思いたい所だ。
「ティリンス侯さえ存命だったならエムブレポの侵攻など許さなかっただろう」
「故人についてとやかく言っても仕方あるまいよ」
「儂はアガソスが狂土に呑まれるのは我慢ならぬ、それだけだ」
嘘は言っていないように思うが……。正しく善なる者の考える事など、中立にして悪の俺からすれば非常に理解し難い。交わる所が何もない発想だ。喰われてさえ人格と属性を色濃く留めている老騎士の意志力は強く、俺とは全く違う発想をする。
「父よ、母よ。どう思う?」
俺は鏡の中に住まう両親に意見を求めて呼び掛けた。普段喋り散らしているのは父だが、鏡の剣の中には俺の母も住んでいる。
「いいんじゃないの、アステールならダラちゃんよりやる気あるでしょ」
「良いのではないか。敵兵を殺せと言うのなら幾らでも殺してそなたに新鮮な命を喰わせてやろうが、私では境界の押し戻しができまい」
反対意見は聞こえないな。軽薄な調子の男とも女ともつかぬ父の声に対し、俺の母の深みのある男声の頼もしい事よ。父は魔術師、母は暗黒騎士。俺自身も心は暗黒騎士だ。
「良かろう、出征中は戦時だ。
貴様を使ってやろう、アステール。相応の装備も返却もしくは貸し与える」
「承った。エムブレポの精霊徒など儂の元素術を前にして立たせてはおかぬ」
アステールが遣したのはアガソス流の敬礼なのだろう。俺は記憶からアガソスの礼法を探り、上官としての返礼を返してやった。
俺自身と分体達を詳細鑑定しもしたが、今回の仕事にはアステールが適切だと結論した。騙しが得意なダラルロートには大軍の相手は荷が重く、父は外を歩かせるには貧相で鏡の中から支援して貰う方が有り難い。実質的には母とアステールの二択だったと思う。そして俺の母は強いが、魔術に疎い。四人いても得手というものは被らないものだな。
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氏名 : ミラーソード
年齢 : 1
性別 : 無性
属性 : 中立悪
種族 : スライム 分類 : 祝福されたハーフ コラプション スライム第二世代
レベル : 25 (分体1体活動中, -1)
クラス : 暗黒騎士4, 魔術師20
クラスリソース : 魔術師20, 暗黒騎士20, 幻魔闘士18, 魔法騎士20.
状態 : 活性化
抵抗 : 頑健33, 反応24, 意志34, 魔素48.
攻撃回数 : 3回/5回
機動速度 : 高速 / 超低速
武芸 : 戦槌開眼, 戦槌攻撃範囲拡大III, 重装鎧熟練, 剣80, 槌100, 盾40, 水泳V, 騎乗V, 騎乗戦闘V, 神威の一撃 2回, 舞踏の如き回避, 憤激.
魔術 : 防衛的発動, 詠唱破棄, 触媒不要, 威力最大化, 範囲拡大V, 範囲内対象任意選択, 請願契約, 多重詠唱, 多段詠唱, 輪唱, 前借発動, 発動遅延, 高速付与, 人形練成, 結界, 陣法, 大儀式, 魔力回路, 魔力解体, 超速魔素吸収, 呪詛返し, 低級魔法無効, 中級魔法発動阻害, 上級魔法抵抗力強化, 魔力循環V.
術適正 : 理力91, 元素105, 変成130, 占術100, 幻術92, 召喚80, 神聖100, 暗黒100, 治癒105. [▽準備]
適正外 : 死霊術【恐怖】, 精霊【暴走】.
擬呪 : 理力91, 元素/水105, 変成130, 占術100, 神聖100, 暗黒100. [▽準備]
異能 : 不老, 命喰らい, 腐敗, 邪視, 増殖, 堕落, 創造, 祝福, 無呼吸, 無視界, 美, アディケオの不正, アディケオの水【強】, アディケオの統治.
耐性 : 斬撃V, 刺突V, 打撃V, 腐敗V, 毒V, 酸V, 病気V, 精神V, 魔素V, 欺瞞V.
技能 : 調理90, 裁縫95, 清掃75, 給仕100, 農夫93, 酪農97, 鍛冶80, 彫金80, 大工95, 革加工80, 仕立95, 細工83, 工兵52, 商業II, 交渉III, 威圧V, 虚言III, 真意看破IV, 潜伏I, 柔軟I, 脱出I, 隠蔽I, 偽証I, 贈賄I, 監視V, 支配V, 政治V, 拷問II, 懲罰IV,
筆記V, 速読V, 礼法V, 兵学V, 魔法学V, 神学V, 歴史V, 錬金術V, 調合V, 茶芸V, 盆栽V.
弱点 : 幽霊恐怖症【超重篤】 [▽難易度130]
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■ミラーソードの分体
1体なら本体のレベルを-1して24、分体はレベル20。
2体目を出すと本体のレベルは-4されて21。分体はレベル18。
以下はレベル20の分体を一体だけ出した場合で装備込みの性能
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分体『仮面の老騎士』
氏名 : アステール
精神年齢 : 182
性別 : 男性
属性 : 正善
擬態種族 : アガソニアン
レベル : 20
クラス : 魔法騎士20
状態 : 認識欺瞞 [強度115]
抵抗 : 頑健25, 反応25, 意志30, 魔素25.
攻撃回数 : 5回 / 二刀流10回
機動速度 : 中速
武芸 : 刀剣開眼, 二刀流, 連続攻撃/刀剣, 重装鎧熟練, 刀剣100, 弓80, 省みぬ一撃, 手加減, 有情ある斬撃, 詠唱粉砕, 打ち砕かれぬ矜持, 護国の二刀, 威風堂々, 迎撃, 守護者の宣誓, 挑戦, 憤激, 喝破, 崇高なる鉄壁, 騎乗V, 騎乗戦闘V.
魔術 : 防衛的発動, 詠唱破棄, 二重詠唱, 威力最大化, 魔力循環V、魔力解体, 発動遅延, 陣法, 高速魔素吸収, 低級魔法無効.
術適正 : 理力80, 元素100, 占術80, 召喚80.
擬呪経路 : 元素100, 神聖100.
異能経路 : 命喰らい
耐性賦活 : 斬撃V, 刺突V, 打撃V, 腐敗V, 毒V, 酸V, 病気V, 精神V, 魔素V, 欺瞞V.
技能 : 園芸99, 政治V, 筆記V, 交渉III, 博識/アガソスV, 歴史V, 兵学V, 礼法V, 魔法学V, 威圧V, 真意看破V, 茶芸V, 盆栽V.
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分体『リンミの大君』
氏名 : ダラルロート
精神年齢 : 65
性別 : 男性
属性 : 中立悪
擬態種族 : リンミニアン/ミーセオニーズ
レベル : 20
クラス : 幻魔闘士18, 魔法騎士2.
状態 : 認識欺瞞 [強度100]
抵抗 : 頑健22, 反応36, 意志28, 魔素28.
攻撃回数 : 5回 / 二刀流10回
機動速度 : 超高速
武芸 : 刀剣開眼, 二刀流, 軽装鎧熟練, 毒物塗布習熟, 刀剣100, 陽動, 突破, 急所貫通, 警戒, 苦痛増幅/斬撃及び刺突, 無明の活路, 不誠実な太刀筋, 幻術師の隠し刃, 反応強化, 舞踏の如き回避, 稲妻の如き疾駆, 捕らえ難き陽炎, 騎乗V.
魔術 : 防衛的発動, 詠唱破棄, 多段詠唱, 発動遅延, 結界, 低級魔法無効.
術適正 : 理力80, 占術100, 幻術92, 召喚80, 心術100.
擬呪経路 : 占術100, 暗黒100.
異能経路 : 命喰らい
耐性賦活 : 斬撃V, 刺突V, 打撃V, 腐敗V, 毒V, 酸V, 病気V, 精神V, 魔素V, 欺瞞V.
技能 : 陶芸90, 統治V, 虚言V, 真意看破V, 潜伏V, 詐欺V, 偽造V, 贈賄V, 脱出V, 歴史V, 礼法V, 茶道V, 審美V, 演劇V, 詩歌V, 舞踏V, 宦官V, 毒物V, 神学II, 魔法学IV.
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分体『名を喪った聖騎士』
氏名 : ■■■■■■■【喪失】
精神年齢 : 42
性別 : 男性
属性 : 狂悪
擬態種族 : バシレイアン
レベル : 20
クラス : 暗黒騎士20
状態 : 通常
抵抗 : 頑健28, 反応21, 意志28, 魔素22.
攻撃回数 : 6回
機動速度 : 中速
武芸 : 戦槌開眼, 戦槌攻撃範囲拡大V, 重装鎧熟練, 槌100, 徒手100, 盾40, 勇敢, 突撃, 猪突, 強打, 突破, 蹂躙, 激昂, 打ち倒し, 骨砕き, 止め処なき流血, 掴み強化, 投げ強化, 粉砕する蹴撃, 手加減, 苦痛増幅/打撃, 構造物防御無視V, 魔法破壊, 腐敗の瘴気, 眩惑の瘴気, 堕落の闘気, 恐怖の闘気, 腐敗の接触, 麻痺の接触, 堕落者の凝視, 神威の一撃 12回, 挑戦, 憤激, 叩き落し, 篤信の啓発, 断罪の宣告, 英雄の雄姿, 騎乗V, 騎乗戦闘V.
魔術 : 信仰の庇護
術適正 : 召喚70, 神聖100, 暗黒100.
擬呪経路 : 神聖100, 暗黒100.
異能経路 : 命喰らい
耐性賦活 : 斬撃V, 刺突V, 打撃V, 腐敗V, 毒V, 酸V, 病気V, 精神V, 魔素V, 欺瞞V.
技能 : 工兵52, 筆記I, 速読V, 礼法V, 監視V, 支配V, 神学V, 虚言I, 真意看破II, 威圧V, 拷問II, 懲罰IV.
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分体『腐敗の邪神の神子』
氏名 : 【存在せず】
精神年齢 : 2
性別 : 無性
属性 : 狂中庸
擬態種族 : 【該当種族なし】
レベル : 20
クラス : 魔術師20
状態 : 通常
抵抗 : 頑健16, 反応18, 意志23, 魔素40.
攻撃回数 : 2回
機動速度 : 低速
武芸 : 水泳I
魔術 : 防衛的発動, 詠唱破棄, 触媒不要, 威力最大化, 範囲拡大V, 範囲内対象任意選択, 請願契約, 多重詠唱, 多段詠唱, 輪唱, 前借発動, 発動遅延, 高速付与, 人形練成, 結界, 陣法, 大儀式, 魔力回路, 魔力解体, 超速魔素吸収, 呪詛返し, 低級魔法無効, 中級魔法発動阻害, 上級魔法抵抗力強化.
術適正 : 理力91, 元素90, 変成130, 占術80, 幻術80, 召喚80, 暗黒100.
適正外 : 死霊, 精霊.
擬呪経路 : 神子の任意で切替
異能 : 命喰らい, 腐敗, 邪視, 増殖, 堕落, 創造, 祝福, 無呼吸, 無視界.
耐性賦活 : 斬撃V, 刺突V, 打撃V, 腐敗V, 毒V, 酸V, 病気V, 精神V, 魔素V, 欺瞞V.
技能 : 調理90, 裁縫95, 清掃75, 給仕100, 農夫93, 酪農97, 鍛冶80, 彫金80, 大工95, 革加工80, 仕立95, 細工83, 虚言II, 真意看破II, 潜伏I, 柔軟I, 脱出I, 隠蔽I, 魔法学V, 錬金術V, 調合V, 茶芸V.
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要約 :
ミラーソード本人は喰った命の力を引き出せるが限界もある。
作中唯一の善属性魔法騎士、防御寄りだが剣技と魔術は両方達者。
リンミの大君こと化け物、絡め手が得意な回避特化かつ文武両道。
母さん暗黒騎士、物理攻撃力なら四天王最強。筋肉達磨。
父さん魔術師、肉体的には弱い。給仕100。魔術師としては強大。




