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暗黒騎士と鏡の剣  作者: 十奏七音
ミラーソードの家族
79/502

79. 4日目 - 母達の呼び声

「「ミラー」」


 すっげえ怖ぇ。

 一言で言うとこうだ。二体目の分体を新たに創造した俺の力は、鏡の剣の中に俺を隔離した当初よりも更に減じている。レベル4の魔術師だった俺は今やレベル2だ。ここまで弱体化してしまうともう、できる事の方が少ないのではないか? レベルは自己鑑定して確かめた。

 二体も分体を作ると俺の本体の力が随分と喰われるようだし、二人に増殖した母はどちらも全力は出せなくなったのではないのかね。扱える占術の水準が低くて詳細はさっぱりだが、本体に幽閉した母が試みて来ている接触が力を弱めたように思う。それでも聖獣二匹を瞬殺した母は強過ぎると思うのだ。


「聞こえているな。貴様の声も聞こえたぞ」


 貴様呼ばわりだよ!? せめて我が子と呼んでくれ、母さん。でないと俺は怖過ぎてとてもではないが出て行けない。言われてみると聖獣との戦いの間、俺は悪態を口走ったような……?


「そのような態度では出て来るものも出て来るまいよ。

 我が子よ、私達は別に怒ってなどいないし貴様を殺そうとは思っていない」


 やっぱり貴様呼ばわりじゃないか!! 母は嘘が下手だ、本当に下手糞だ!! ダラルロートにでも習ってから言ってくれ!

 嫌だ、俺は返事をしないぞ! 殺そうと思ってるんだ、俺には解るぞ!! 解ってしまった。父の住まいの中、心地よく抱いてくれているスライムに縋り付いて泣く。俺は出て行かないし、返事もしないからな!! 今や俺はレベルたった2の非力な魔術師だ、レベル20でも25でもない!! 高位の暗黒騎士二人なんざ怖くて当たり前だ! 俺は悪くない、悪くないから!


「……思うに、私達は嘘が下手なのではないか」

「……否定はできぬな」


 母の分体が二人して何事か話し合っている。


「ミラー、貴様にそのように隠れられては話ができない」

「ミラー、私達が我が子を害する事はない。

 但し神子(みこ)とは無事や五体満足の解釈は少々異なるかもしれぬ」


 どうあっても殺される未来しか見えねえよ!! 嫌だよ、俺は鏡の剣の中に永住するんだ! どうして俺は母を二人も拵えてしまったんだ、完全に悪夢じゃねえか。そんなに母親が好きか、ミラーソード! 俺の馬鹿野郎!!


「……正直ならいいと言うものでもないぞ、私よ」

「……ならば何とする、私よ」

「一先ず、傷の治療を頼んでも?」

「ああ、癒え切っていないのだな」


 ……母二人も困ってはいるようだ。傷の深い本体に対して分体が治癒術を行使し、流された多量の血を補う施術も併せて施したような呪文が聞こえた。ちらり、と外界を見れば本体の左肩から生えていた槌のような烙印は縮み、翼状に戻っていた。本体の生命活動に別状はないと知り、一息吐く。

 どうすっかな、これ……。俺はどうしたらいいんだ、神よ。母を二人も前にしてまともに口を利ける気がしない。俺の母はあまりにも美しく、強過ぎる。見ているだけで目が潰れそうだ。


「「ミラー」」

「私は叱り飛ばしたい訳でも締め上げたい訳でもない」

「望むなら抱き上げて撫でてやるから、出ておいで」


 怖い。

 俺は母達の呼び声が恐ろしい。特に分体の方、ダラルロート辺りに入れ知恵されちゃいないか? 優しい声を耳にした精神体がふるふると震えて拒絶反応を起こしている。ダメだ、これはいかん、幽霊恐怖症の発作並みに本当にダメだ。俺の母は彼自身の笑顔がどれほど怖い顔か自覚するべきだ。


「……逆効果なのではないか」

「……慣れぬ事はするものではないな」


 そら見ろ!! なんでそんなに嘘が下手なんだ。せめて俺を外に出すくらいの嘘を言ってくれよ、母よ! 愛している、愛しているが恐ろしいんだ!


「それとも、そなたは支配してやるから出て来いと言われたいのか?」

「私達は支配する以外の愛し方を知らないのだ、我が子よ」


 ……俺は泣いた。父の住まいのスライムに縋り付いてさめざめと泣いた。支配されたいと思う俺自身の性根が嘆かわしくもあったし、強大だが不器用過ぎる母の本質にも泣けた。鏡の剣の中に閉じ篭り、俺はただ朝まで泣き続けた。

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