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暗黒騎士と鏡の剣  作者: 十奏七音
ミラーソードの家族
68/502

68. 本体と分体

クラスチェンジ説明回

本体セットアップ『暗黒騎士ミラーソード』 暗黒騎士4, 魔術師20.

本体セットアップ『名を喪った暗黒騎士』 暗黒騎士20, 魔術師4

分体セットアップ『堕ちた聖騎士』 暗黒騎士20

分体セットアップ『リンミの大君ダラルロート』 幻魔闘士18, 魔法騎士2

分体セットアップ『スタウロス公爵アステール』 魔法騎士20

 俺が力の源泉としている主要な四人のうち、母は分体よりも本体を好んでくれていると言う話はしたと思う。父は鏡の剣に宿っていて、残りの二人は分体ばかりだ。アステールの意識が妙にダラルロートの動向と本質に詳しかった理由でもある。


「こうして茶にお誘いするのも久し振りですねえ」

「大君になって多忙なのは理解しているさ」


 ダラルロートに点てられた茶を口にするのは何日振りだろうな。太守時代と較べ、服装には大君としての格を示す装飾品が増えている。長い黒髪の男が俺を見ている視線を認識しても肉体が強張らなくなるまでには随分と母の力を借りた。克服できたとは思う。思いたい。売り渡された肉体の上げる不平不満など知った事か。

 貴様には会いたくなかったと正直な本心など言わない。粘液質の化け物を喜ばせ、本性を現しかねない。ミーセオのリンミ守護にしてアガソスのリンミ伯爵と言う立場からリンミニア領の大君となったダラルロートが多忙だったのは本当の事だ。俺は何も嘘など口にしてはいない。ダラルロートは化け物だが、それでもお化けよりは可愛い存在だ。


「ダラルロートはその姿の時、源泉から魔法騎士を混ぜて使っているのだよな」

「ええ。御存知の通り、アステールと私は元は師弟でした。

 ミラー様の父君や母君のお力をお借りするよりは馴染みがよいのです」

「いやさ、鏡としてはダラルロートに混ぜられるの嫌なのよ」

「父君の叡智をお借りすると魔術が随分と扱い易くなるのですがねえ」

「褒める分にはもっと褒めてくれていいのよ? 遠慮しなくていい」


 アガソス風の茶器を浮かべながら宙に浮く鏡が褒め言葉に機嫌よく反応する。褒めてくれるならダラルロートでも構わない、と言う鏡の無節操さには呆れる事もある。俺の父は嘘吐きでいい加減で気分もころころと変わるが、魔術師としては間違いなく大魔術師だ。


「そうさな。アステールが貴様の事に詳しくて助かった。来い、アステール」


 両肩の烙印の神力を認識しながら指差して命じればリンミの大君は消え、亡国の公爵に姿を変える。俺がダラルロートへの苦手意識を克服するまでの間、アステールも活用したよ。気分が悪くなったらダラルロートを消してアステールにすればいい、と言う考え方ができるようになってどれほど楽になった事か。鏡がいそいそと新しい杯に茶を淹れてくれる。


「鏡の茶芸を見てやってくれ」

「儂も茶に呼ばれる身分になったと思えば感慨深い事だ」

「ふふん、鏡はとても機嫌がいい。褒めたいならいつでも来るがいい」


 鏡が振舞うアガソス風の茶菓子は焼き菓子が多い。リンミではアガソスの文化とミーセオの文化ならアガソス由来の文化が色濃く混在しているが、今後促進する人口増加策で文化的な比率も変わって来ると思われる。


「アステールは魔法騎士としての力だけで分体の器を埋められるのだな」

「儂に限らず、鏡殿とあの聖騎士には空の器を満たすだけの力がある」

「よそから借りて来ないと分体の枠を満たせないのはダラルロートだけよ。

 ミラーソード四天王の中で最弱はダラルロートって訳」

「四天王ってなんだ、鏡よ……。初耳だぞ」


 自己鑑定してみると四つの人格がそれぞれ代表しているクラスのうち、ダラルロートの幻魔闘士だけほんの少しだけ弱い。鏡に言わせると「四人の中でダラルロートだけが第一使徒の水準に達していない」と言う話らしいが、あれが最弱と言われても釈然としない。


「それでな、鏡よ」

「うん? どうしたの、ミラー」


 アステールが茶を一杯干した頃合を見計らい、俺は努めて笑顔を貼り付けて甘い声を出した。俺が主体でいる間は中立にして中庸なるミラーソードらしい声だ。手を伸ばして鏡の剣に触れ、柄に吊るした蛙の玉飾りを撫でてやる。鏡の剣を鞘に戻し、アステールを指差す。


「アステール、父に代わってくれ」

「ああ、そうね。僕もできなくはない」


 いつもは鏡の剣の刀身の中で像を結んでいる魔術師が姿を現す。妖しく輝く銀髪は神子(みこ)の証なのだそうだ。どの人種の特徴とも微妙に合致しない顔立ちの中で、緑の瞳がきょとんとして俺を見ている。ああ、まだ解っていないんだな。(よこしま)な歓喜が俺の身を震わせる。両肩の烙印が熱く焼け、俺達の精神を高揚させた。


神子(みこ)よ」

「げっ……」


 母の声が口を突いて出る。ああ、腐敗と堕落が与えてくれる陶酔感が今日は格別に熱くて甘い。卓を囲んでいた格好だった父が弾けるように立ち上がる。


「分体に収まったそなたにならば私の手が届くであろう?」

「ちょ……これは……ミラー!?」

「我が子がくれた機会を無駄にはしない」

「……共犯かよ! 僕の髪の毛一本触ってみろ! リンミを滅ぼしてやるぞ!!」

「髪でなければ良いのだな」


 凝視し、触れてやる。シャンディにやってみたらその場で腰が砕け、丸々一刻ほど立ち上がれなかった堕落者の凝視だ。母は美しいからな、無理もない。それに、こんなに愉しい事を止めるなんて勿体無い。


「僕には効かんぞ! 効かないから!」


 詠唱破棄した長距離転移を一回、二回と試みて失敗したらしい父が焦った声を上げる。暗黒騎士としての力を大きく引き出した状態の俺の自力ではろくな結界一つ張れないのだが、今日はダラルロートに命じて結界を張る術具を置かせておいた。父でも簡単には解除できない強度の結界を用意したよ。


「ミラー! 止めないと怒るよ!」

「父も楽しめばいい」

「その声はうちの子じゃあない! 下手な皮の被り方しやがってから!」


 正解である。母は嘘があまり上手ではない。道理で俺に嘘を言わずに導いてくれた訳だ。嫌がる様子の父とても母の歓喜に触れれば解るだろうに。この心地の良さに抗えるものか。言われた通りに髪には指一本触れず、俺の唇で父の唇を存分に味わった母が昏い歓喜に震える様を俺は少々客観的に眺めた。


「そうかあ……リンミは滅びてもいいくらいには優先順位が低いのね……」


 剣呑な声を出す父は気付いた。俺の体を使っている以上、今の母には弱点がある事に。父の召喚術もしくは幻術が喚んだ身体の透けて見える何者かを直視した母が肉体を硬直させ、その場に崩れ落ちる。心の底から怯える母と言うものを俺は初めて見た。

 母は俺の肉体を使ってはいるが、高位の暗黒騎士は身体的な特徴が少し違って見える。だから容易に『俺ではない』と認識できる。俺の泣き顔だと思うと苦笑しか出ないが、母の泣き顔だと思えばそそる物があるのは不思議だな。


 俺は発動遅延させていた幻術を現実に投影してやる。俺はここからだと声を出せなくてさ。俺の声だけが予定していた簡単なメッセージを伝える。


「いやな、母の要望だけを聞くと間違いなく鏡に殺されると思ってさあ。

 喧嘩両成敗が好みの父も楽しんでくれたら嬉しいね。

 あ、俺はちゃんと観客席を確保したから。息子のミラーソードより」


 伝言を聞き終えた父は笑った。震えて動けなくなった母を見下ろして心の底から愉しそうに笑って言う父は、間違いなく腐敗の邪神の神子(みこ)その人だった。


「いいよ、僕が真の恐怖と言うものを教えてあげる。

 たっぷりと時間を掛けて、どんな下らないものが超重篤な幽霊恐怖症持ちの行動を制限してくれるのかじっくりと味合わせてあげる。インストラクションが済んだら最初はお話を、次は君自身の想像力で苦しめて、それから僕の知る限りの現物を順番に呼んであげよう。アガシアの放った聖霊が飛び回る隠れる(きみ)の御所ツアーなんて最高だろうな!! ……僕の怯えを嘲笑っていた君にも狂神の恩寵を心行くまで愉しませてあげるよ」


 父が跪き、母の顎を掴んだまま言う。


「卒倒して逃げてもすぐに起こしてやるから安心してね。

 死のうとしてもすぐに治癒してあげる。舌を噛み切るなんて温い事では死ねないからな。アガシアほどではないが、ミラーも治癒は大得意なんだよ? たとえ全身を瞬時に腐敗させようとも僕が即座に再生させてあげる」


 父が招けば幽霊がするりと半透明の霊体の腕を俺の体に突き入れると言う世にも恐ろしげな光景が眼前に広がったが、俺は冷静に眺めている。母はと言えば自制もへったくれもない高い悲鳴を上げている。ああ、これが恐怖症の怖い所だよ。どんな下等な亡霊の類であっても暗黒騎士ミラーソードが形無しだ。名を喪った堕ちた聖騎士、と言った方が俺の精神衛生にはよいか?

 あの透ける何かは幽霊でも亡霊でも聖霊でもない。父が創り出した幻影であろうな、と俺は察している。下等な亡霊の類であれば俺の懐にある聖句の御札が退けるからな。


「泣いて懇願しても止めて貰えない辛さは君にも味合わせたいと思っていた。

 ああ、ミラー。十日くらい僕に頂戴。いい機会だ、徹底的に躾けてやる」


 十日か。いいよ、俺も鏡の中の暮らしに興味があった。

 ああ、俺の母はどんな風に幽霊だの聖獣の類を恐れるのかね? 正直な所、息子としても(よこしま)な興味が尽きない。俺は母の退路をきっちりと断ち、内側に逃げ込めず卒倒もできないよう分離の細工をした上で意地悪く笑う。母は致命的な弱点持ちの気持ちを一回は知るべきだ。俺の弱点の幽霊恐怖症は今、母にだけ押し付けてある。母を騙し切った事は不正の恩寵を与えてくれたアディケオに感謝しようじゃないか。


 俺は父も母も裏切ってなどいない。ほんの少し、家族の心の距離と言うものを近付けさせる努力をしただけだよ。鏡の剣の中で俺は忍び笑いを漏らし、父と母の行為を愉しんだ。

分体セットアップ『腐敗の邪神の神子』 魔術師20


ミラーソードは現時点でレベル25

分体を一体出すとミラーソード本体のレベル上限が1下がる

分体は一体ならレベル20で活動させられる

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