表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗黒騎士と鏡の剣  作者: 十奏七音
暗黒騎士ミラーソード
53/502

53. 開戦

 ミーセオ悪国はアガソス正国に対して宣戦を布告した。散々に破壊活動をやった後の宣戦布告であるが、戦後の統治を視野に入れた手順、様式美と言うものだ。即日にミーセオ陸軍によるアガソス侵攻が開始されている。


 アガソスの命運を見限った周辺諸国のうち二国はミーセオに続いてアガソスに対して宣戦を布告。親アガソスだった正もしくは善寄りの三国は沈黙を守っている。

 既に王族の過半を失っているアガソスに肩入れしても間に合わぬぞ、とミーセオから外交経路で釘を刺してはあろう。仮に援軍を送って来るとしても、他国の防衛に高位の使徒を遣わす神はまずいない。侵略に使徒を投入する神が大胆不敵などと言われる程度には、多くの神々は使徒を王族の防衛目的で使っている。今回の戦争において定命の者の軍は占領と統治に必要なのであって、大規模な会戦は少ない予定だ。



 神の契印を奪う為には神と契約している王族を根絶しなくてはならない。神と交わって子を成した祖先からの契印を受け継ぐ者が全て絶えた時、国土そのものと結び付けられた契印の護りが消え去り安置された場所から持ち出す事ができるようになる。

 それほど難しい事ではない。契約できるのは王家の血統を受け継ぐ定命の者に限られ、神の血の濃さを問われる為に契約できる王族の人数も決して多くはない。ただ王族の血筋を引く者が生きていると言うだけでは契印を介して神と契約を交わしている事にはならない。契印に直に触れ、神の承認を受けた王族が侵略側の根絶すべき対象者だ。


「第四王女さえ殺せばいいのだな」

「ええ。アガソスの大地とアガシアを結び付けている契約は解かれ、王族以外の者が契印に触れられるようになります」


 アガシアの契約者であると言う意味合いにおいて、生き残っているアガソスの王族は一人。アステール自らが守備しているアガソスの第四王女だ。アガソスの王宮に垂れ流すようにして浄化される度に繰り返し撒かれた俺の毒と病を生き延びた者、第四王女さえ殺せば契印を奪取可能だ。


「アステールも少しは弱体化したのか?」

「リンミでの我々との戦い以降の交戦記録は二例。

 第一使徒による一方的な蹂躙であった為に弱体化度合いは不明です」


 いい報せではないな。ダラルロートと俺で直接戦うにしてもあの堅さがアガシアの信奉者の減少、ひいては神力の減少に影響を受けていればいいが。

 卓上には大量の詔勅、密書、命令書と言った書簡が並び、地図を隠してしまっている。重なっていた一部を取り除ける。アガソスに隣接する国家は六国あるが、援軍を出して来そうな友好国が一国もないとはアガシアは愛の女神の渾名を返上し時であろう。

 ミーセオ宮廷を介して届けられたリンミからの便りに手を伸ばす。スコトスが持って来たものだ。手紙の配達をしてくれたのは有難いが、夜這いは要らなかった。


「アステールはリンミを制圧しましたが、統治に人材を送って来てはおりません。

 司教殿はめっきり放置されているようで楽な仕事だと嘯いておりますな。

 冒険者どもが多少活動しておりますが、制圧できているようです」

「送って来れる人材がいないと言うのはいい報せだ。

 ミーセオはアガソスを統治できるのだろうな?」

「領地と任官を望む五男、六男、七男、八男と大量に余っておりますからねえ。質は少々落ちますか」

「ミーセオニーズは子沢山で結構な事だ」

「うちの子にも真っ当なお嫁さんを見つけて欲しいんだけどね」


 茶を点ててくれた鏡が耳の痛い事を言って来た。俺とても増殖の衝動は感じている。眼前の化け物を使う気にはなれないだけだ。


「……無政府状態にならない程度に人材がいるならよかろうよ。

 俺に染められたリンミニアンは統治者が無能でさえないなら勤勉だ」


 鏡の小言には聞こえなかった振りをした。

 毎日毎日アガソスの命日を早めるべく働き、ようやっと漕ぎ着けた開戦だ。

 暗黒騎士ミラーソードとリンミの太守ダラルロート自ら外征に励んだ成果と思いたいものだ。俺は完全武装で待機しながら茶を飲む暮らしを終え、帰宅して術具を作るなり何なりしたい。ダラルロートやスコトスの夜這いを警戒する就寝時間はもう要らぬ。アガソスの滅亡に必要だと言うのなら俺は求められるだけ残忍になれる。



 水盤を覗きに行く。アガソスの第四王女に照準を定め、追う状態に設定してある。映るのはアガソス王城内にある塔の一つだ。表向きには古い時代には罪人を幽閉する塔だったとされている、白い花を咲かせる蔓性の植物に絡み付かれた古びた塔が水盤に映っている。


「第四王女はここで確定と考えて良いのだな」

「アガシアの契印が安置された空間にもこの塔からしか侵入できません。

 おそらくアガシア自身が守ろうとするでしょうな。

 アガシアのアディケオに対する拒否は徹底したものですので」

「アガシアさえ折れるならアガソニアンもミーセオの支配下で繁栄できたであろうにな」


 アガソスの抵抗は弱い。宣戦布告よりも前にミーセオに恭順していた諸侯が相当数いる。血族を攫い属性転向を施した人質或いは刺客とし、或いは統治者自身が悪への属性転向を受けてなお徹底抗戦の意思をぶれさせなかった者はスタウロス公爵アステール以外にさて何人いたものか。

 殆どのアガソス兵は下位のアガシアの使徒自らが督戦に回ってようやくミーセオ兵と戦う有様だ。アディケオも下位の使徒はミーセオ軍に付けてやり、下位使徒に対抗させている。


 アステールを相手に時間稼ぎだけでもできる人材は少ない。ミーセオ軍が戦で支払う血の大半はアステールが単騎で流させたものになるであろう。第一使徒とはそうしたものだ。

 今日は開戦から4日目だ。アステール一人の手で無残に殺された多くのミーセオ兵の亡骸がきちんと弔われているのかと案じる気持ちもあるが、俺に求められているのは第四王女の殺害だ。蔓に覆われた塔に一歩でも侵入すれば、アステールが他の案件を全て投げ出してでも守備に戻って来る。これは予測ではなく確定事項だ。



 王城で目的を達成したのだろう。けろりと啼く蛙の声を聞いた。


「出陣だね」

「ああ」

「参りましょう」


 今日の為に用意した戦闘用の金属人形数体を転移させる。続いて俺達も。王城を守っていた転移阻害結界がミーセオ軍の尖兵によって魔力解体されたのだ。今、俺達は直接塔の近辺へと飛べる。厳重にアガシアの神力で守られ、アディケオ直々の占術であっても内部を覗けなかった神の胎内とでも呼ぶべき塔へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ