表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗黒騎士と鏡の剣  作者: 十奏七音
暗黒騎士ミラーソード
47/502

47. 反省会

「とまあ、やっては見たが結果が先刻御覧の有様でな。今からリンミ首脳部反省会だ」


 琥珀の館の一室に三人の腹心を招き、俺は鏡に茶を淹れさせている。鎧は脱ぎ、絹衣を着て太守に贈られた眼鏡を掛けている。三人の腹心の顔は可能な限り眼鏡を通した視界で見るようにする。俺本来の視界だと脳が見えてしまって顔色が解らぬ。


 太守は幾らかは防護を施した私服に着替えた格好だ。長い黒髪が平素よりは翳って見える。生気を髪の一筋にまで行き渡らせる余裕がないからだ。

 魔女は俺が与えた紐と布の中間のような衣装のまま。露な肌には魔力回路の刺青が広範囲に入っている。術具に封じた魔術を超遠距離から放っては下がると言う行動を繰り返した心労の為か、顔色がよろしくない。もしもアステールに斬られたなら、魔女は確実に死んでいた。

 温和に見せている司教にも疲労の色が滲む。第二案に移行すれば、司教は更に心労が増えるであろう。最高齢の腹心なので状況は調整したい。


 卓上には幾つかの術具。黒い布の上に乗せているものはアステールに通用しなかったもの。白い布に乗せているものは通用したもの。青い布の上には試す時間もしくは機会がなかったもの。


 鍵になったのは耐性突破の補助術具だった。アガシアから美の恩寵を手厚く授けられた第一使徒には、精神的な干渉に対する完全耐性が備わっている。アガシアが司る美は強い正属性を帯びた権能で、授けられた者の姿形を美しく保ち、精神を正しく律する。

 俺がダラルロートを食い殺して得た美の異能は、元はと言えばダラルロートがアガシアから盗み出したものだ。アディケオの加勢を受けて盗み出した美であればこそ、土着神その人に反逆した後も召し上げられていない。戦いで消耗していてさえ、俺の髪と肌には艶があると思わないか? 美の異能の効力なんだよ。


 ともあれ、通常ならばアステールに対して精神に作用する魔術―――麻痺、魅了、示唆、命令の類は通用しない。対象の耐性を無視して心術を通すべく誂えた特製の術具と術式を用意した上で、どうにか太守が撤退を促す示唆を通したと言うのが実際の所だ。


「リンミ単独で倒せるなら倒すのが最善ではある。後何回やりたい、ダラルロート?」

「次回以降は精神干渉ではない手管で臨みたいですねえ。今宵は退かせましたが、アステールは対策を取りましょう。容易くは討てますまい」


 治癒術で負傷と疲労を完全に回復はさせたものの、太守はまだ術を行使する為の魔力が戻り切っていない。茶に手を付けず、不味いが効きの強い水薬の瓶を空にし続けている。

 俺からすると当てられないよう器用に戦っているように見えていたが、アステールの剣を直接受けた後となれば俺もこうなるだろうか。隠れて支援に徹していた俺には正直な所、実感がない。ダラルロートにしては態度の解り易い嫌がり方が心愉しいくらいだ。第一案『殺せそうなら殺す』路線はもう止めろ、とはっきり言っている。


 俺は大儀式を執り行い、精神耐性を乗り越えられる示唆を篭めた術具を拵えていた。示唆は心術もしくは暗黒系統の精神操作を施す術式で、対象に一つ提案をする。本来であれば示唆は取るに足らぬ下級術だが、耐性突破の性質を持たせようと術式を弄った結果として最上級術に相当する術式になってしまった。

 アステールが祈願を連打して少しは疲れた時点で、それなりに妥当な慎ましい提案「アガシアが呼んでいるから帰れ」を囁く事でやっと通った代物だ。元気溌剌に唾を吐いている間は無理そうであった。


「第一使徒であの程度と思えば、むしろ大人しい攻撃力だったとは思う」

「正気で仰っておられます?」

「元素の最上級しか高威力の範囲攻撃がない時点で、俺の使う治癒術で及ばない可能性は激減していた。

 それでもダラルロートが首を撥ねられたら死ぬ人材だったなら、負けていた。

 シャンディはもうちとそなたの師に敬意を払うがいい」

「あんな迷惑そうなクソジジイが師の師になるのは嫌です、ミラーソード様」

「……そうでしょうねえ」


 魔女は心外そうに言う。太守も同様に。

 相応に痛くはあったが、それだけだ。アステールの技量を把握した上で作戦を立てた太守の読み通り、俺と太守であれば耐え切った。暗黒騎士にして魔術師と言うよりは神官の振る舞いだったと思うが、俺がアステールに斬られたら長くは持たないと踏まれ、あのような作戦になった。

 治癒術を多重詠唱と多段詠唱と発動遅延を駆使して垂れ流し、躊躇いなく即座に癒せば太守の負傷共々治し切れた。周囲の魔素は俺が独占的に奪取してアステールには渡さなかったしな。アステールの弾数を多少は削った。多少でしかなかったが。


「俺とダラルロートがあと百人いたら押し切れるのではないかとは思う」

「非現実的ですじゃの」


 控えていた司教も唸る。司教の場合、流れ弾が当たっただけで地獄へ逝きかねず、相当に距離を離してあった。俺の支援下だったにしても、アガシアの第一使徒相手にあれだけ粘れたダラルロートはやはり化け物だ。俺の認識欺瞞がアステールには破られないと解っただけでも、先行きに随分と希望を持てる。


「もしくはシャンディ並に強化した魔術師団が千人規模でいれば死ぬんじゃないか」

「リンミの魔術師団は現在十六名です、ミラーソード様」

「そうよな。ヤン・グァンはどうだった。

 聖火教団員でアステールの威圧を前にして動けそうな者はいるか?」

「司教たる臣も恐怖耐性の護符を頂かねば動けぬかと」

「じゃあ魔術師団共々、護符なしだと全滅ね」

「そう言うこっちゃな、嬢ちゃん」


 一応は聞いてみようと言う慰労会だからな。リンミ市民には聞かせられぬ話もする。


「アステールは一人で軍を殺し切れる存在だ。第一使徒とはそういうものだ。

 各員、よく防いでくれた。先程の戦いがリンミ最後の日でもおかしくはなかった」


 鏡が追加の果物を切り分け、酒器を運んで来た。我々の雰囲気を察してか珍しく無口だ。


「第二案への移行採決の前に反対意見はあるか」


 酒を注ぐ。酔うと言う感覚を俺は知らないが、飲み物として今は酒が欲しかった。司教は付き合ってくれて、魔女は茶を選んだ。太守もようやく薬瓶を置き、酒杯を受けた。


「ございません」

「ないです」

「ございませぬ」

「鏡もない」

「決定だな。第二案で行くぞ」


 我々も仲良くなったものだと思わないか。手下と杯を交わす。鏡には柄の銀の宝珠(オーブ)に触れてやった。

 作成済みの術具を詰め込んだ箱を引っ張り出し、追加分と補充分を配った。随分と夜なべしたからな、予備はまだまだあるぞ。


「アガソス国内でのテロを全面強化し、開戦を早める。アステールには乾涸びて貰う」


 俺は戦争の準備をしていた。

 正面からの戦いを避けてテロに走るとしても、戦争には違いあるまい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ