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暗黒騎士と鏡の剣  作者: 十奏七音
暗黒騎士ミラーソード
45/502

45. 聖火堂の暗黒領域

 聖火堂を本拠地とする聖火教はリンミにおいて支配的な宗教だ。三等市民以上のリンミ市民の八割、全市民であれば約六割が聖火教を奉じていると聞く。地上部分には信仰の中核たる絶えざる油壺と満たされし聖釜を安置している。俺が転移したのは聖火堂の地下。善良なるリンミ市民であれば生涯に渡って無縁の暗黒領域だ。無為無能を晒した為に階級を剥奪された元市民。或いは収賄、強盗、密通、強姦、殺人、内応、反逆に類する重罪を犯した者達。俺に捧げられる者のみを隔離し、幽閉する空間だ。


 目的は二つ。俺の術と血を全快まで回復させる。犠牲に応えて絶えざる聖火を燃え上がらせる油壺を起動させる。この二つは問題なく両立する。その為にこそ新興宗教などと言うものをでっち上げたのだから。

 聖火堂の地上においては余す事なく民を救貧すべく市民に振舞われる聖釜の白いスープ。俺が大量の魔力を散々に注ぎ込んで建造した術具。飲む者に滋養と満足感を与え、一日の労働に耐えるだけの活力を賦与し、自省の時間を求め、安らかに眠らせ爽やかに目覚めさせるスープが釜を満たし続けている。スープ自体は完全に善きものである事を製作者ミラーソード自身が保障しよう。

 聖火堂の地下、暗黒領域においてスープの意味合いは変わる。供物を俺が刈り取るまで生かし続けるべく強制的に体内に投入される栄養分だ。スープは口から飲まなくてはならない訳ではない。点眼でも、鼻腔から喉への注入でも、腹に穴を開けて管で注いでやっても効く。忠実なるリンミ市民であれば決して知る事のない事実だ。暗黒領域を緩やかに飛翔し、俺は牢から生贄を三つ選び出した。スープの管と枷から放ち、食卓へ乗せる。一方通行の転移陣を刻んだ食卓へ。


 俺の眼には生贄の臓器に絡み付く血管と神経の束が視えている。脳や手足の管に栓をし、抵抗を完全に封じた処理済の生贄を前に祈る。俺の血統の父、名を知られざる腐敗の邪神。コラプション スライムの祖たる邪神へ。


「捧げよ」


 聖句の一節と共に命喰らいを解き放つ。邪神に吹き込まれた異能を。抗う力を持たぬ者から命を召し上げ、俺へと吸い上げる不可視の触手を。今宵は知識と経験を喰らう時間はない。生きていた生贄が急速に萎れる勢いで吸い上げて糧とし、我が身を命で満たす。命は血の力を賦活(ふかつ)し、魔術を準備する術力を回復させる。なおも残る命と肉を、正しく弔われるべき者を俺は父なる邪神への供物とする。


「然らば与えられん!」


 聖句の二節目に反応して転移陣が起動する。食卓に乗っていた俺と三つの骸は地上へと転移する。絶えざる油壺が大口を開ける真上へ。俺自身は壺を満たす油へは落ちずに飛翔し、骸は油へと没入する。捧げられた犠牲に油壺が反応する。油壺から聖火が噴出し、戦術級術具としての真価の一端を見せる。最高火力を出したいならばより多くの生贄が必要だ。

 俺は聖者ではない。本性は中立悪属性の人食いスライムだ。だが、自作した術具の火が己を傷付けぬよう設定する事でそれらしく演出できる程度には魔術に長けている。高威力の聖火は俺の身を毛の一本たりとも害さない。聖火教の神官らも同様に傷付けない。ただ暗黒領域の残滓、血と死の匂いを浄化の魔力で拭い落とすのみ。


「燃えるがいい、罪と共に!」


 ……俺に呪文は必要ないのだ。以下は単に、宗教的陶酔を生じさせる目的の文言だ。


「汝らの罪科は浄罪の火により清められ、遺灰は湖へと弔われるであろう」


 然程の時間を要さずに骸は焼き尽くされ、油壺の底に遺灰として蓄積する。聖火教は遺灰を勺で掬い上げ、湖へと水葬する役割を担っている。

 聖火教の神官どもが俺に跪く。昼夜を問わず、油壺と聖釜を守る者を必ず置いている。聖火教に帰依する市民は俺の説く三つの美徳「よく働き、よく眠り、よく見よ」に従って相互監視に精励し、聖火堂を害そうする者を官憲に報せ、市民自らも積極的に防衛する。聖火堂を害そうとすれば多数の一般市民を相手にする事になる。正しく善なるアガシアの信徒にさて、手が出せるかな? 救貧を求めてやって来る貧しき者、弱き者も常に異物に対する監視の目を光らせる中で。


「毎回思うけどノリノリだよね、ミラー」


 俺の食事を手伝っていた鏡がそんな事を言う。


「我こそは暗黒騎士ミラーソード。……報告があるなら聞くが?」


 聖火堂の様子を見る限り、アガシアの第一使徒とやらは聖火堂の術具狙いではなかったようだ。リンミにおいてアガソスの重点攻撃目標は三つある。聖火堂、太守ダラルロート、暗黒騎士ミラーソードだ。

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