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暗黒騎士と鏡の剣  作者: 十奏七音
自称暗黒騎士ミラーソード
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4. 行商と変成術

 魔術に関して、俺は鏡から多くを学んだ。その日も、俺は正面に浮く鏡の剣の言葉を聴いていた。


「いいかいミラー、君の変成術は強力だ。強力無比だ。血肉に染み付いた力だ」

「そうだな」


 俺が最も得意とするのは変成術だ。命ある血肉の形を変え、筋肉の力強さとしなやかさを増し、魔素そのものを操作し、無から有を生み出す。疑いなく強力な系統だ。


「だけど、よく知らない事は上手く操れない。

 ミラーは身体強化がとても得意だけれど、生き物の体に栓をするのは上手くない。血管の外や臓器の外へ出鱈目に()を付けても効果的ではない。中を塞ぐから()と呼ぶんだ」


 依然として、俺の目には鏡の言う臓器や血管の束は見えない。今もまだ、栓をする課題は喉を塞ぐくらいしか上手くやれていない。

 一度見えるようになったらずっと見えっ放しになる、と聞かされて恐れているのかもしれない。隣人の脳や肺が常に透けて見えるとしたら、人付き合いなどできるのだろうか。できまいな、と認識はしている。


「君は胡椒や香草は随分と上手に作れるようになったけれども、お料理をぱぱっと産み出すのは上手じゃないよね。理解が浅いんだよ」

「鏡の料理の方が旨いからな。必要を感じない」

「あらやだ、褒められると鏡は嬉しいな。でも訓練だよ、ミラー」

「……ああ」


 そうさ、訓練は人付き合いの為だ。遠方からやって来る客人は歓迎せねばな。

 俺と鏡は山中深くに家を建てて暮らしているが、時折行商人がやって来る。目当ては俺が変成術で生み出す金品だ。僻地に篭る俺に会いに来るのは一苦労でも、行商人が街まで運べば多額の利益が出るのだと言う。


転移陣(ワープサークル)で家と街を繋いでもいいとは思うのだがな」

「街に溢れている恐ろしげな有象無象が近寄って来てもいいの?」

「ああ、俺が血迷っていた。忘れてくれ鏡よ」


 ……陣法の扱いを学んだ時に吐いた血迷い言を思い出してしまった。

 転移陣(ワープサークル)は遠距離間を瞬時に移動する為の魔法陣だが、俺の家には設置できない。街には恐ろしいものが数多く蠢いている。俺は絶対に奴らを近付けたくないのだ。

 召喚陣の扱いについては飲み込みが早くて描画も正確だと鏡に褒めて貰えたが、呼び出す対象にはよくよく気を付けるよう念を押されており出番は少ない。鏡が最優先で俺に求めているのは変成術に対する習熟だ。


「変成術で毒を作るにも知識が必要だね。

 どんな毒なら効果的に敵を殺せるか常に考えて、切磋琢磨しないといけないよ」

「俺の作る毒薬は高く売れると聞いている」

「そうだよ。君ほど強烈な毒を産み出せて、しかも譲渡してくれる魔術師なんて滅多にいないからだよミラー」


 行商人には一度にあまり多くの毒物を与えない。俺が必要とするものを行商人はそれほど多く提供できないし、一生安泰なほど稼がせたらそれきりやって来なくなると鏡に止められている。俺は商品の代金として金銭は受け取らない。一度の取引につき、俺が渡すのは一瓶の原液。行商人は俺の為に生き物を捕獲して連れて来る。俺は行商人とそんな約定を交わしている。




 結界を抜ける為の護符を持たせた者の通行を感知する頃、講義と毒物の精製は終わった。

 正午を過ぎた頃合いには、フードを目深に被り籠を背負ってやって来た行商人を家に招き入れる。俺達の取引は秘密裏のものだ。こやつは俺の感性からすれば矮躯だが、俺の住まいを嗅ぎ付けた才覚と、相互にとって有益な取引を提案して来た機転は買っている。


「指定の品だ。自由に検めよ」


 いつも男は虫や小鳥を連れて来る。糸を使い、ほんの微かな量を盛って効力を検めれば満足げに笑う。致死毒さ。俺自身が創造(・・)しない限り解毒手段は存在しない。こやつが誰に売ろうと、或いは暗殺に用いようとも知った事ではない。


「ミラー様にお納めする今回のスライムはこちらです」


 対価として籠を差し出される。籠には体積相応の重みがあり、少しばかり弱った生物の気配を内包していた。籠の中で小さくなって座り込む暗く澄んだ橙色を目にした時、俺は胸を射抜かれたような衝撃を感じた。


「……今回はよい取引だった」

「この子は特別だね、ミラー」


 俺が努めて平静を装う中、行商人には聞こえぬ声で鏡が言った。

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