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暗黒騎士と鏡の剣  作者: 十奏七音
自称暗黒騎士ミラーソード
35/502

35. その夕食時

 そろそろ食事を用意しようじゃないか、と鏡が言うので俺は自宅の居間にいる。手持ち無沙汰な時間は苦手だ。


「ステータス」


 呪文は必要ないのだが、敢えて口にして詳細鑑定の占術を起動した。料理が食卓に並び出すまでの間、己自身を眺めて過ごす。



***************************************************

偽名 : ミラーもしくはミラーソード

年齢 : 1

性別 : 無性

属性 : 中立悪

種族 : スライム 分類 : 祝福されたハーフ コラプション スライム第二世代

レベル : 22*

クラス : 暗黒騎士2, 魔術師20*

状態 : 活性化

抵抗 : 頑健30, 反応24, 意志31, 魔素44.

攻撃回数 : 3回/5回 二刀流時6回

機動速度 : 高速 / 超低速

武芸 : 戦槌開眼, 刀剣開眼, 二刀流, 重装鎧熟練, 剣75, 槌62, 弓52, 盾40, 水泳I, 騎乗V, 騎乗戦闘V, 神威の一撃 1回, 舞踏の如き回避.

魔術 : 防衛的発動, 詠唱破棄, 触媒不要, 威力最大化, 範囲拡大V, 範囲内対象任意選択, 請願契約, 多重詠唱, 多段詠唱, 輪唱, 前借発動, 発動遅延, 高速付与, 人形練成, 結界, 陣法, 大儀式, 魔力回路, 魔力解体, 超速魔素吸収, 呪詛返し, 低級魔法無効, 中級魔法発動阻害, 上級魔法抵抗力強化.

術適正 : 理力91 , 元素90, 変成130, 占術100, 幻術92, 召喚75, 神聖100, 暗黒100. [▽準備]

適正外 : 死霊術【恐怖】, 精霊【暴走】.

擬呪 : 理力91, 変成130, 占術100, 神聖100, 暗黒100. [▽準備]

異能 : 不老, 命喰らい, 腐敗, 邪視, 増殖, 堕落, 創造, 祝福, 無呼吸, 無視界, 美, 不正, 統治.

耐性 : 斬撃V, 刺突V, 打撃V, 腐敗V, 毒V, 酸V, 病気V, 精神V, 魔素V, 欺瞞V.

技能 : 調理88, 裁縫95, 清掃75, 給仕100, 農夫93, 酪農97, 鍛冶80, 彫金80, 大工95, 革加工80, 仕立95, 細工83, 工兵52, 商業II, 交渉III, 威圧V, 虚言I, 真意看破II, 潜伏I, 柔軟I, 脱出I, 隠蔽I, 監視V, 支配V, 政治V, 拷問II, 懲罰IV, 筆記I, 速読V, 礼法V, 兵学V, 魔法学V, 神学V, 歴史V, 錬金術V, 調合V.

弱点 : 幽霊恐怖症【超重篤】 [▽難易度130]

***************************************************


「何度見てもしみじみと弱点だけがどうにもならん感じだね、ミラー」

「本当にな」


 軽口を叩く傍らの鏡の剣に応じながら自身の鑑定状態を維持する。考えたくない事は可能な限り考えない。さもないと狂気の淵まで連れて行かれてしまう。俺の弱点であり邪神の祝福、その手のものへの恐怖症は酷いとしか言えない。


「素直に大魔術師として慎ましく生きようじゃないか。何でも作ってあげられるよ?」

「俺は暗黒騎士だ」

「これを見てもまだそう言えるミラーを鏡は少しだけ尊敬する」


 初めて意識を持った直後の混乱を抜け出した俺は、辿り着いた人里で指先ほどの大きさの銀の宝珠(オーブ)を柄に嵌め込んだ剣を一振り打った。魔力を籠めて《非破壊》の魔力回路を刻んでやった剣そのものは鏡のような刀身に仕上がったが、いざ喋り出した鏡の剣は相当に人格が捻じ曲がっていた。どう考えても俺だった。気の狂いそうな記憶の混乱の中で話し相手にと創造したが、俺の(ミラー)でしかないらしい。人里で名がないのは不自然に思い、(かがみ)に映る俺自身もミラーと名乗っている。もしくは暗黒騎士ミラーソードと。

 俺は剣技には騎士を名乗れる程度には熟練している。ミーセオの流儀でもアガソスの作法でも両方行ける。二刀流の技を生かす為の二振り目を作らなかったは迂闊だったが……。「粗忽者(そこつもの)ぶりは元になった四匹のうちどれの責任なのか」は鏡と一刻論じた挙句「どう言い繕ってもどうせ俺のせい」と言う事になり、素直に二振り目を打った。鏡の剣は二振りある。宝珠(オーブ)のあるものと、ないものが。



 視線をやれば、厨房でくるくると食材や食器が飛び回っている。俺一人用の食事の用意にしては大仰だと毎日思う。


「特に変化はないな?」

「ないよ、ミラー。もうミラーは簡単に成長するレベルじゃないからね。

 ただね、言わせてもらえば戦士として生きるのは諦めてくれた方がいいと思うね」

「……俺は剣が好きなんだ」

「どこからどう見ても立派な大魔術師様が何を言ってるんだい。レベル20だぞ、レベル20。

 ちょっと睨んでぴゃーっと魔力を描き直したらぐいっとやってどーん、でいいんだよ?

 君に解らない部分はこの忠実な鏡がフォローしますよって。任せてくれなさい」

「その軽さが不安だ」


 こてりと鏡の剣が傍らで転び、すぐに自ら自立する。誰に似たのか考えるまでもない軽薄さだ。もう良かろうと自己鑑定を打ち切る。


「ひどいなあ。神の供応だってやって見せる自信あるよ? 君の鏡は君だけの味方だよ。

 何しろ君がそうあれかしと創ったんだ。違うまいミラー? こら、返事は? 無視するなら配膳しないぞ。

 今晩の主菜はミーセオ風五目海鮮餡かけ炒め御飯に、バシレイア風水牛のステーキ。食後には点心の用意もある。どうだい、旨そうだろう」

「そうだな。匂いは悪くはない」


 飯炊きの湯気が芳しい魚介と肉を包むような香辛料の香気を運んで来る。鏡は恐ろしい凝り性で、鏡的には失敗作判定の食事に「悪くないのではないか」と失言した日には完全に(へそ)を曲げる。匂いしか嗅がされていない段階で味について言及するのは御法度である。だが美味いのは間違いない。掴み切れない己自身の力の扱いを助ける為に創造したはずが、どうしてこんな人格になったのか俺には心当たりしかない。どうせ俺のせいだ。


「お飲み物はどうしましょうね?」

「老酒の甕が合うようならそれで」

「好きだよねえ、ミーセオのお酒。いいよ。次の甕も買って来ないといけないね」


 酒の選択肢は多い。正解がある場合に誤答すると鏡が拗ねてしまう。「君が修めた技能を使っているだけだぞ」と鏡は言うが、俺が用意する料理はそれほど味が良くならず品数も減る。俺の意識下では調理と給仕の技量を上手く引き出せない。特に給仕が見劣りする。性格的な問題だとは思う。身体は戦士としての戦い方を覚えているが、鏡は「今更物理に路線変更は遅いんじゃない」とにべもない。


「ミラー、仕上げの胡椒をちょっとだけちょうだいな。黒いのがいい」

「ん」


 変成術の要望を出され、俺は皿を創り出す。次いで挽いた黒胡椒を盛ってやる。(こと)、変成術に関しては気軽なものだ。欲しい物があるなら創ってやれる。まあ、できて当然であるが故に鏡に褒められた事はないが……。

 創造した挽き黒胡椒の出来は問題ないとは思うものの、振る量は鏡に裁量を委ねる。俺が目分量で胡椒を振れば鏡は確実に機嫌を損ねる。「ミラーのお馬鹿! 離婚だあ!」などと言い出すのは本当に理解できない。俺がいつ鏡と結婚したと言うのか。余った黒胡椒は適当な容器を作り、封入しておいてやる。厨房にはこのようにして創った調味料の小瓶が山と詰め込まれており、瓶が増える一方だ。そろそろ処分しよう。


 こうして俺に少しは料理を覚えさせようと訓練しているのだろう、とは理解している。もどかしいほど進歩は遅く、自己鑑定を信じるなら相当な技量はあるはずが実際に作ってみると勝手が違い過ぎる。料理と言う奴は奥が深い。


「鏡よ、俺は暗黒騎士ミラーソードなんだ」

「どうあってもそう言い張るんだね、ミラー。

 ま、用意ができたから召し上がってね、暗黒騎士様?」


 準備万端整えられた食卓を前に喜色で促す鏡の剣。

 鏡のような刀身に映るのは妖怪ではなく人間型の男。金銀混淆の髪の下で黒の両眼は安らいで見えた。


「お夕飯を用意したのは鏡だよね?」

「……有難く頂くとしよう」

「よろしい」


 小言の多い鏡に謝辞を述べ、俺は湯気の立ち昇る夕食にありつこうとした。


「御相伴に与ります」


 見知らぬ誰かが相席していた。

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