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暗黒騎士と鏡の剣  作者: 十奏七音
夏の都のミラーソード I
193/502

192. 法と掟

 母とアステールが戻って来ない事には俺、スダ・ロンから目を離す訳にいかんのだよ。サイ大師が何かしようとした時、マカリオスとゼナイダだけでは厳しいはずだ。妻を最も強く現世に降ろせるのは今の所俺だ。女王の見舞いにも行けやしない。

 陽銀の部族の中でも掟の口伝に詳しい精霊導師、女王の補佐官のような事をしている王族、スダ・ロンと官僚連中と言った顔触れが婚姻周りの互いの法解釈について質疑を重ねている。


「エムブレポの婚姻制度について伺いたく存じます」

「婚姻か。女は夫となるべき男を奴隷として養うか、部族の男に妻として望まれるよう己を厳しく磨き上げる。部族の男は己を夫として望んだ女の中から、よく磨かれた好ましい女を選ぶ」


 エムブレピアンが他国から人を略奪して来ると奴隷として扱うのだな。その点は特に疑問ではない。


「男性は何人の妻を持ち得るのです?」

「ミーセオの者は異な事を訊ねる。人数は重要か?」

「ミーセオの法は充分な財力のない男が複数の妾を持つ事を禁じておりますし、庶子に相続権を与えようとする者には高額の納税を要求しております。エムブレポではいかがでしょう?」

「エムブレポの部族の男はより多くの妻に応えるべきだ。そのような煩わしい縛りはない。奴隷は一人の妻に所有されて暮らす」


 ……俺の分体の中だと、母とアステールとエファが男なんだよなあ。エムブレポの掟が適用されると不味い事になるのではないか?


「もし部族の男が選ばれる事なく女を望むのならば、力か勇気を示さねばならない」

「具体的にはどのような方法で?」

「武芸と魔術の行使は許されている」

「拒んだ女に打ち勝てたなら妻として得る事は許される」

「ゼナイダから言い添えるなら、掟は女の側に人数制限がない。男は一人で立ち向かわなくてはならないのだよ」


 女の意思が通り易い掟になっているのは女の方が多いからだろうな。


「エムブレポの掟における夫婦とは固定された一組の男女ではないのですね」

「一人の男が一人の女しか相手にしなかったならエムブレポは20年と持たずに滅びかねない」


 エムブレポの掟に従うならばデオマイアは夫を数人持っても構わぬ訳だ。


「男女比率の偏りからすれば男性を望む女性が圧倒的多数になると思われます。どうなさっているのです?」

「奴隷は売り買いをする。若い奴隷の譲渡に好まれる代価は肉の多い成鳥、捕らえた幼獣、竜の卵などだ。老いた奴隷は刃物の研ぎや狩りへの同行で貰い受ける例もある」

「奴隷でない場合については?」

「部族の男であれば請われぬ日などない。選ばれていない女に挑まないならば、望まれた中から好ましい女を選ぶ」


 ミーセオの官僚は奴隷の扱いに関心が強いようだ。


「奴隷制度についてお伺いしてもよろしいでしょうか。どのような者が奴隷とされるのでしょう?」

「略奪された男と女は(すべか)らく奴隷だ。狩りのできぬ民には自ら奴隷となる者もいる。奴隷が自らの力で狩りをして主人に代価を支払えば誰の奴隷でもなく、どの部族にも属さぬ者になる」

「どの部族にも属さない人は誰に略奪されても文句を言えないよ。誰かの奴隷である間は養って貰える」


 ゼナイダは時折注釈めいた事を教えてくれている。


「エムブレポの掟の上で我々使節団の身分はどのように扱われておりましょう?」

「我等が女神の夫であるミラーソード様の奴隷だ。ミラーソード様さえお許し下されば多くの女が譲渡を願う事だろう」


 俺自身は初耳だぞ!? 俺の奴隷扱いなのかよ使節団。そんな心配そうな目で見ずとも売りはしねえよ、官僚は仕事をしろ。


「ミーセオからエムブレポのどなたかに姫が輿入れされた場合の身分はどのようになりましょう?」

「掟に従うならば夫となる者の奴隷が相当か」

「姫を奴隷として扱われるならば婚姻を申し入れる家はございますまい」

「ふむ、(つかさ)の見解はいかに?」

「どの部族にも属さぬ外国の女か。女神の祝福に浴すべき者ならば、()(いず)れの部族に属するかを決するべきではないか?」

「八部族の子供を育てるのは陰銀の部族のお仕事で、母親は育児をしないと言う点もお知らせすべきだと思うのだ。イクタス・バーナバの権能に浴したらすぐに成人できる」


 ミーセオとエムブレポだと価値観が随分と違うし、エムブレポの掟は裁きを担当するエムブレピアン次第で揺れかねない原始性がある。ミーセオの法は賄賂で大きく振れると言うから似たようなものかね?

 マカリオスにとっては容易に譲歩し難い議案なのか、六眼を険しくして注意深く考えている様子もある。すんなりと纏められる話ではなさそうだ。結構な時間を法解釈の摺り合わせに費やした上で動かないと見合いまで進めなさそうだな。

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