19. 三人の腹心
俺の主要な駒は二つから三つに増えた。当人達―――太守、司教、魔女の三人が言うにはミラーソードの三人の腹心だそうだ。自称を禁じてはいないが、鏡にはくつくつと忍ぶように笑われる。
魔女には杖と、布切れめいた破廉恥な衣装に魔力付与した品を与えた。俺がうろ覚えの記憶で再現を試みる最中「捻じ曲がった趣味を世間様に公開して楽しいの?」と鏡に言われたのは心外だ。俺のどこが捻じ曲がっていると言うのか。従属させた魔女には素肌に刺青で魔力回路を刻み込み、元素術に関して特化した存在に仕立て上げた。
収まらなかったのは太守と司教だった。
魔女に与えた品を公然と羨ましがり、日頃は仲が悪そうに振舞っている二人が共同戦線を張って俺に物品をねだった。俺としても与えようとは思っていたのだが、何が欲しいのかと訊ねれば二人で張り合って答えを出さない。最終的には俺が選んで俺の手から授けられるものが欲しいのだ、と口を揃えた。そんな益体もない時間を過ごしただけで帰宅した日もあった。
「あいつら仲いいよね」
「そうだな。鏡よ、何を与えたものか思案はあるか?」
「魔女には情け容赦なく墨入れた上に露出度の高い服を着せる趣味を全開にしておいてそんな事言うの、ミラー。
でも、そうね……何か武器をあげたらいいんじゃない」
鏡は事ある毎に俺の趣味を咎めるが、何か機嫌を損ねる事をしただろうか。
結局、若き日には剣技で鳴らしたと言う太守には剣を。司教には絶えざる聖火を頂きに抱く杖を製作して渡した。
「いい年した中年と老年が泣いて喜んだよね」
「同僚意識があるのはいい事ではないだろうか」
「いい話にまとめようとしてない、ミラー」
要は、鏡は嫉妬しているのだ。蛮族には贈り物をしたのに鏡にはない、と。
俺はいつか致命的な失言或いは恐慌状態を晒した時の為にと取り置いていた切り札を持ち出した。鏡の剣の新しい鞘を。
「ええぇ!? 鏡が知らない品なんていつ作ったの、ミラー!」
「これは俺の製作物ではない。リンミの職人に作らせた鏡の鞘だ」
何から何まで全て俺の手で作っていては、何の為に街を一つ支配しているのか解らないではないか。市民から捧げられた献上品の中に目録があり『御要望の品を製作します』と申し出た鍛冶屋がいたのだ。少々華美だが、何の変哲も無い鞘に収まっていた鏡が新しい住まいとして気に入る品だとは思う。
「ねえ、ミラー。
もしかして鏡の事を宿仮か蝸牛の親戚だと思ってない?」
眼前に抜き身で舞い、俺の顔を映す鏡の剣から俺は何とか目を逸らさなかった。
「でも、ありがとう。嬉しいよ、ミラー」
「そうか」
今、逸らしたら酷い事になる。大惨事だ。それだけは俺でも知っていた。




