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暗黒騎士と鏡の剣  作者: 十奏七音
自称暗黒騎士ミラーソード
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16. 冒険者の抗い

 陽は充分に高い。


「巡察は熱心だよね、ミラー」

「俺が直接仕事をするのはあまりにも無駄が多い。雑務の統括は太守と司教に任せている」


 鏡の剣を鞘に納めて腰に佩き、ようやく仕上がった鎧を身に着けてリンミを歩く俺の機嫌は良い。鏡も黒塗りの板金鎧にとやかくは言わぬ。遂に小言を諦めたのかと思えば感動がなくもない。


「進捗としてはどうなの?」

「悪くはないのではないか」


 鏡に応え、足を止めて視線で招けば駆け寄って来る者がいる。監察官らはリンミ全域で市民を監督している。監察官は三等以上の市民のみが務める、リンミに張り巡らせた忠実なる神経網だ。報告は的確であり、俺の質問に答えられぬ事はない勤勉さで職務に励んでいる。戦時には理想的な憲兵となるだろう。


「報告せよ。抵抗勢力とやらの活動状況はどうか」

「御報告します。アガソスから流入したと推測される冒険者は監督地域内で1グループを確認。氏名など編成の詳細についてはこちらに」


 差し出された報告書に目を通す。


「使徒はおらぬのだな?」

「現時点では未確認です。密告も今の所はございません」

「良かろう。職務に戻り精励せよ」

「はっ」


 リンミを守る監察官は概ねこのような調子で役割を果たしている。市民からの密告を常に受け入れ、小額の報奨金を支払う裁量権も与えている。各家庭において父母は仲睦まじく職場と生活に異常はないか日々論じ、住宅地帯に設けられた広場で遊ぶ子供らとても異常者には容赦なき弾劾の目を向ける。年老いて一線を退いた男女は若者に己の技術と知恵を惜しみなく与える。勇敢なる兵士は死ぬまで戦う。未婚の若者には結婚を強力に推進する。監察官が知らぬ事はない、それがリンミの市民生活だ。

 現時点ではリンミの治安は非常に良い―――冒険者を主体とするレジスタンスの暴力活動を除いては。区画内での異常発生を告げる警報が鳴り響く。しかし衛兵には処理できまい。


「冒険者って奴は本当に存在自体がダメだよね。無駄に強いし逃げ隠れもする」

「俺が出向いた理由だ。狩るぞ」


 太守と司教に統率権を与えた即席人形(パペット)では対処できぬと言うので、俺は網を張らせていた。飛翔し、一気に目標地点との距離を詰める。目に入るのは倒されたリンミ兵士と機能停止に追い込まれた戦闘用即席人形(パペット)、そして旅人風の冒険者が五体。

 自宅に帰るまでの間には片を付ける気で来ている。リンミを支配するのは手間の掛かる仕事だが、俺は彼女と過ごす時間を可能な限り守る。瞬殺してくれよう。


「あいつはバシレイアの暗黒騎士ミラーソード!」

「ミラーソードだと!? クソ、焼きが回ったか!」


 破廉恥な布切れを纏ったアガソニアンの女の声が耳に心地良い。


「うわあ……。本当に暗黒騎士で通ってやがる……」

「賭けは鏡の負けだ。今晩の食卓には黒竜(ブラックドラゴン)の臓物漬けを供せ」

「はーい、ミラー。さっくり刈っちゃってお夕飯の仕込みに帰りましょ」


 兵士の手には負えずとも俺からすれば脆弱な命だ。鏡の声もごく軽い。

 戦槌と板金鎧は人に擬した身体によく馴染み、久方振りに戦士としての実感を与えてくれた。駆虫の如きものであれ、軽い運動にはなったと思う。拙いなりに連携して戦おうとする弱者を粉砕する行為には幾許かの快感があった。


「逆賊を聖火堂へ引っ立てろ!」

「聖火よ、守り給え」

「我らが敵を焼き清め給え」


 監察官と市民が上げる声を聞き届け、俺は長距離転移(ロングテレポート)で帰宅した。

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