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暗黒騎士と鏡の剣  作者: 十奏七音
自称暗黒騎士ミラーソード
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15. 暗黒騎士ミラーソード

 リンミは表向きアガソス正国に属している。進めさせている準備が整い次第、ミーセオ悪国の承認を受けて独立を宣告するがな。ミーセオとの同盟は内々に締結済みだ。ミーセオの皇帝にはいずれ挨拶に行く。おっと、皇帝陛下と呼ばねばならないか。

 アガソスとは戦争になる事を期待しているが、軟弱な国柄ゆえ使徒を殺すだけで開戦せず終わるかも知れぬ。俺はアガシアを奉じる第六使徒と第五使徒を既に喰った。相応の命を差し出した上で相当な譲歩をした侘びを入れて来るならば、アガソスとも同盟してやる意思はある。


 まあ、防衛力としての戦術級術具の準備は無駄にはなるまい。命を燃やして浄化の火を戦術規模の広範囲に燃え上がらせる油壺は聖火教の象徴も兼ねている。『捧げよ、然らば与えられん』……とな。聖火教は信徒が捧げる犠牲に対して敵のみを焼き尽くす聖火で信仰に報いるのだ。アガシアの第五使徒は特によい燃料となって聖火を燃え上がらせた。当人は第七使徒との差が解らぬか弱さであったがな。

 戦略級術具となると俺一人では全くの時間不足。土着神を言い包めてでも騙してでも、作らせるか契約するかしたい。当座は戦術級までの術具と軍で凌ぐ。俺自身が大儀式を執り行う事もあるだろう。



 つい先日。リンミにおける高層建築住宅の建築奨励と新たな低層住宅の建築に対する新税の課税を指示した所、リンミ太守がその場で卒倒してしまってな。負荷を掛け過ぎたらしい。


「流石に酷使し過ぎたんじゃない、ミラー」

「……そうだな。更なる責務に耐えられるよう、少々の力は吹き込んでやろう」

「そのお力、是非臣に注いで下さいませミラーソード様。軟弱者の太守にはもったいのうございます」

「住宅の建築に関しては司教向きの仕事ではないのでな。

 そなたは浄化の結界についての周知徹底及び墓地の段階的撤廃に対する反対派の弾劾について、ちと手(ぬる)いのではないか?」


 太守に魔力を注ごうとすれば司教にねだられ、俺は進捗の悪い分野について指摘した。墓地の段階的撤廃に対する反対派は例外なき階級剥奪刑に処しているのだが、思うようには減らせていないようだ。


「助力が必要ならば述べよ。

 リンミから全ての墓石と土葬された遺体を取り除き、湖水の奥底へ溶かし去るのが当座の私の望みだ」

「は、恐れながら申し上げまする。アガシア本国から派遣されたと思われる冒険者が暗躍しており、討伐に苦戦しております」


 冒険者。冒険者協会なる組織を編成し、独自に武力を保有するはぐれ者ども。表向きな弾圧こそしていないが、リンミの冒険者協会支部には『兵員供出への積極的な協力』を命じて事実上解散させている。

 俺は冒険者が好きではない。おそらく俺が俺としての自我を確立させる前から嫌いだった。鏡に言わせれば「軍規を何とも思わない夜盗予備軍だよ、ミラー。略奪は一回だけ、占領から三日を過ぎたら全域禁止だとか簡単なのに守らないからね」となる。俺としても督戦隊の啓発なしにはまともに戦わぬだの、懲罰隊の手を煩わせる逆賊などと言う朧ながらも不快な印象しかない。


「アガソニアンに対して密告の奨励金を積み増せ。完全恭順者には三等市民証を与えてやれ」

「三等でございますか? ミラーソード様の御下命であれば、直ちに」


 元はミーセオニーズの司教としては面白くない命令ではあろうな。

 司教は太守共々、リンミニアンに転向済みだ。源泉へ投じた毒に仕組んだのは悪への属性転向だけではない。侵された者が自発的かつ完全に恭順した時、種族を少々弄る。市民として相応しい傾向を刷り込んでやるのだ―――よく働き、よく眠り、市民相互をよく監視する。美徳であろう?


「完全恭順者であれば出自を問わず三等で迎えて良い。

 市民の階級制度は早めに固めてしまいたいのでな」


 司教が命令を受諾する。司教がリンミ在住のミーセオニーズに対して「いかにして聖火の声を受け入れるか」を諭させている事は公認して来た。


「リンミニアン転向済みの市民の扱いは対等であるべきだ。……そうだな、太守よ?」

「はい」


 治療を施してもまだ顔色の悪い太守に更なる術を施す。分類としては治癒術であり、変成術でもある。肉体の覚醒を促し、全力稼動が可能な状態までは回復させてやった。太守と司教の二人は競い合うように働いている。どちらにも何かしらの報いを与えてやるべき時期ではあろうな。

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