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暗黒騎士と鏡の剣  作者: 十奏七音
イクタス・バーナバの夫ミラーソード I
139/502

138. 婚姻の宣誓

 母はダラルロートが上手く処置してくれたと思う事にした。かつて二柱の神に対して同時に使徒として仕えていた大君ダラルロートだぞ? 俺はダラルロートに不可能な事ができる人材を抱えていない。


 誰にも聞かせたくなかったので適当な事を言い、鏡の剣は母を診てくれているダラルロートに預けた。私室で盛装に着替えた時点で大君には察されていたのだろう。

 俺は大君の館からリンミ湖へ足を向けた。転移も飛翔もせずに徒歩で近付けば、消えたかと思えていたほどに遠かった感覚が徐々に近付いて来る。晒されれば正気を維持できまいと感じさせられる強さの感情が湖で俺を待ち構えている。狂った中庸の女神の気配。


「イクタス・バーナバよ」


 俺を暗黒騎士ミラーソードだと知るリンミ市民の注視を構い付けず、冬の陽差しを受けて輝くリンミ湖の湖畔に立つ。内側からの反逆にはとんと弱いものの常に俺を守ってはいる防護を解き、俺を求めた女神の名を呼んだ。


「治水の君アディケオもお認めになった事だ。ミラーソードは双頭の女神の求愛を受け入れよう」


 俺の言葉を吸い込んだ湖水は静かだった。狂奔する神力に晒された感受性の強い市民は発狂してしまったようだがな。……後で治療してやろう。狂神直々の神力は俺でさえ辛いのだ。

 イクタス・バーナバの神力が祝福されたリンミ湖を介して俺に注ぎ入れられ、視界が変わった。臓器と血管を透かし見る邪視の異能よりも高等だ。双頭の魚の神の視界が(ひら)けたのだと解った。神降ろしに逆らわず、求められたまま肉体を明け渡す。


「ミラーソード、受諾を嬉しく思う」


 俺の肉体が発した声ではあったが、イクタス・バーナバの意志が発する声は女めいた響きを伴っていた。植え付けられた双頭の恩寵を使い、二つの意志が支配する肉体で語り掛ける。


「妻を迎えるのは初めてだ。

 性格に問題のある両親とちと嫉妬深い宦官を連れて行くが、許してくれような」

「イクタス・バーナバはミラーソードの両親を孫娘に会わせる約束を忘れてはいない。

 リンミの大君もアディケオを前にした欺きに怯まぬ、よき魂だ。イクタス・バーナバとエムブレポは我が夫ミラーソードとその血族の来訪を心から歓迎しよう」

「なら良かった」


 俺は気になる事をイクタス・バーナバに訊ねてみた。女神ならば俺の信仰神が何をしたのか理解していると期待できた。


「アステールはどうだろう、アディケオに何をされたのだ?

 俺が造った認識欺瞞の仮面が呪いの仮面のようになってしまったと聞いた」

「スタウロス公の仮面は統治と美の呪面と化している」


 イクタス・バーナバの声には僅かばかりの苛立ちを感じたが、俺が察知すると女神は感情を隠してしまった。


「醜きアディケオらしい小細工よ。呪面を通じてアディケオの統治とアガシアの美の恩寵を授けてスタウロス公の正気を支え、魂をあらゆる害から護る。引き換えに、アディケオはスタウロス公の声と姿を利用してアガシアに接している」


 ……俺の想像よりも何やら邪悪そうだぞ、統治と美の呪面とやらは。不正神としてのアディケオらしい悪意を感じさせられた。


「アステール自身は知っているのか?」

「スタウロス公は察している。何故(なにゆえ)に統治と美の恩寵を授けられているのか、呪面を外せない理由を」


 イクタス・バーナバの好みではないらしい、とは知り俺は安堵した。俺にとっても好みのやり口ではない。アディケオの偉大さを理解できないアガシアの歓心がそれほど欲しいものかね。俺には理解も共感もしかねる心理だが、軽々しくアステールを腐敗と堕落の源泉に沈める訳には行かなくなった。或いは呪面とやらが源泉で溶け腐る事さえ防いでしまうのだろうか。


「……なんか、きつい事になってるな。アステールとエファも連れて行く。

 アディケオとの契約で譲ってはやれないが、アステールがエファの半身を可愛がってやるのは問題なかろうよ」

「イクタス・バーナバはスタウロス公の救済への関心は失っていない。母としてエファを歓迎しよう」


 同行者については妻の承認を得られたな、と俺は思ったのだが。


「ミラーソード。ミーセオの大使からは目を離さないで欲しい」

「大使? エムブレポに駐在する大使か。俺に同道して腕利きの大使がエムブレポ入りすると聞いている」


 ミーセオ帝国が狂土エムブレポに送り込む大使は老練な外交官だそうだ。帝国が派遣する外交使節団の長は名目上は俺だが、官僚どもを鞭打つのはダラルロートと大使の仕事になるだろう。


「ミーセオの大使の名はスダ・ロンと言う」


 ……スダ・ロンだと? 何故だろう、初耳の気が全くしないぞ。


「ミラーソードが知っている人物であり、全く知らぬ人物だとも言える。

 だが大使の纏う認識欺瞞は極めて厚く強固だ。ミラーソードが今感じている違和感と確信を容易く塗り潰し、ミーセオの大使として振舞うだろう。イクタス・バーナバの言葉に欠落を感じる事さえ有り得る者だ。ミラーソードには帝国の権益を求める大使からエムブレポを守って欲しい」


 イクタス・バーナバの声は俺への哀願だった。妻にそんな声を出させては夫としてどうかと思うぞ、俺は。


「いつも俺と同等の強者の顔をして出て来る、赤だか紅の衣の頼れる上司な訳だな? 直接会えば認識欺瞞が強過ぎて確信できなくなる、と」

「スタウロス公を呪っている呪面は神の目を欺けないが、大使は欺き得る」


 間違いない。ミーセオの遣わす大使は第一使徒のサイ大師だ。皇帝家を外敵と内患から守護していて隠れる(きみ)の御所にさえ来ないんじゃなかったのかよ? エムブレポへの旅の同行者に上司が紛れ込んでいると妻に教えられ、俺は近日に控えている外交使節団との顔合わせに対する意識を改めた。

***************************************************

氏名 : ミラーソード

年齢 : 1

性別 : 無性

属性 : 中立中庸

種族 : スライム 分類 : 祝福されたハーフ コラプション スライム第二世代

レベル : 30 (分体3体活動中)

クラス : 暗黒騎士10, 魔術師20.

クラスリソース : 魔術師20, 暗黒騎士20, 幻魔闘士20, 魔法騎士20, 鏡護り20.

魂 : 41/100

状態 : 活性化

抵抗 : 頑健41, 反応33, 意志42, 魔素60.

攻撃回数 : 4回 / 6回

機動速度 : 高速 / 超低速

武芸 : 戦槌開眼, 烙印の翼, 烙印自動戦闘V, 戦槌攻撃範囲拡大V, 重装鎧熟練, 剣100, 槌100, 盾100, 水泳V, 騎乗V, 騎乗戦闘V, 神威の一撃 6回, 舞踏の如き回避, 憤激.

魔術 : 防衛的発動, 詠唱破棄, 触媒不要, 威力最大化, 範囲拡大V, 範囲内対象任意選択, 請願契約, 多重詠唱, 多段詠唱, 輪唱, 前借発動, 発動遅延, 高速付与, 人形練成, 結界, 陣法, 大儀式, 魔力回路, 魔力解体, 超速魔素吸収, 呪詛返し, 低級魔法無効, 中級魔法発動阻害, 上級魔法抵抗力強化, 魔力循環V, 双頭の意志.

術適正 : 理力91, 元素105, 変成130, 占術100, 幻術92, 召喚80, 心術115, 治癒105, 神聖100, 暗黒100. [▽準備]

適正外 : 死霊術【恐怖】, 精霊【暴走】.

擬呪 : 理力91, 元素/水105, 変成130, 占術100, 心術115, 神聖100, 暗黒100. [▽準備]

異能 : 不老, 命喰らい, 大母の腐敗【超】, 大母の増殖【超】, 大母の堕落【超】, 大母の創造【超】, 邪視, 祝福, 無呼吸, 無視界, 美, アディケオの不正, アディケオの水【強】, アディケオの統治, イクタス・バーナバの双頭【超】, 狂魚の目.

異能経路 : アガシアの愛【超】.

耐性賦活 : 斬撃V, 刺突V, 打撃V, 腐敗V, 毒V, 酸V, 病気V, 精神V, 魔素V, 欺瞞V, 精霊V.

技能 : 調理90, 裁縫95, 清掃75, 給仕100, 農夫93, 酪農97, 鍛冶80, 彫金80, 大工95, 革加工80, 仕立95, 細工83, 工兵52, 商業II, 交渉III, 威圧V, 虚言III, 真意看破IV, 潜伏I, 柔軟I, 脱出I, 隠蔽I, 偽証I, 贈賄I, 監視V, 支配V, 政治V, 拷問II, 懲罰IV,

筆記V, 速読V, 礼法V, 兵学V, 魔法学V, 神学V, 歴史V, 錬金術V, 調合V, 茶芸V, 盆栽V, 舞踏V.

弱点 : 幽霊恐怖症【超重篤】 [▽難易度130]

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■変更点について

イクタス・バーナバの双頭【超】によりミラーソードは心術+15(限界突破)と心術の擬呪、魔術の双頭の意志、異能の狂魚の目を獲得した。双頭の小権能は双頭、狂気、魚、大漁、豪雨。


▼ミラーソード追加魔術

双頭の意志 : 【意志】抵抗に失敗した時、もう一度抵抗を試みる。

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