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暗黒騎士と鏡の剣  作者: 十奏七音
自称暗黒騎士ミラーソード
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12. 腐毒の源

 俺はリンミ一帯の水質について調べる必要性を感じ、実行した。球体状に形成し番号を振った器一式を創り、リンミ各所で採取した水を閉じ込めては提げた鞄へ放り込んだ。多少の宝飾を施した鞄は外見よりも多くの荷を収容し、軽量化するありきたりの魔法鞄だ。若干数の検体が荷に加わった程度であれば容量に問題はない。酒と調味料が加わった分は少々容量を圧迫している。


「ねえねえミラー、そんなにお魚料理を気に入ったの?」

「あれはいいぞ、鏡よ。可能ならリンミには腐魚が獲れる現状を維持させたい。

 鏡に調理して貰い、彼女に供してもよいのではないかと思う」

「そりゃまた随分と気に入ったね。ミラーの機嫌がいいのは鏡としては嬉しい」


 飯屋には幾許かの偽造バシレイア貨幣をくれてやり、鏡が所望した何種類かの酒と調味料を譲り受けた。鏡はレシピを聞き出させたがったが、帰宅時刻を厳守する気しかない俺は調理技術そのものは鏡の方が上だと煽てて宥め(すか)して店を後にした。だが良い店だ、失言で鏡の機嫌を損ねた際の逃げ場として使いたい。


 今日は随分と鑑定を連発したな、と思いつつリンミを縦断する河川の上流へと向かう。残り少ない滞在予定時間が惜しいので街の外延部からは飛行して来た。周囲に耳はないので鏡とは遠慮なく会話している。


「ミラー的にはどうなの? 湖がいい感じに腐っている原因は何だと思う?」

「さあな、原因が何であれ湖はなかなかに良い按配のようだ。

 現状を制御している者が今後も上手くやるならば俺は構わぬ。しかし……」

「しかし?」

「制御に失敗しつつあると俺は見る」


 現状、リンミに住む市民のうち多数派を占めるアガソニアンの健康状態が悪化しているようだ。原因は水質汚染。微量の毒、それも善属性の者にのみ悪影響を与えるよくできた毒が混入している。後述する性質と合わせて腐毒とでも呼ぼうか。

 リンミ当局はリンミ湖での漁と魚食を禁じたものの、腐毒の影響を受けた鮮魚は密漁によって流通している。生きながらにして腐乱したような状態の腐魚について当局は病気魚として焼却処分を命令しているものの、これまた害を受けるのは善属性の者だけと言う点から流通している。と、おおまかには精神を支配下に置いた店主の口から聞き出した。


「市民は市中の水源が広範に汚染されている事実を伏せられ、異常があるのは魚だと知らされているようだが……」

「リンミの太守周辺は流石に把握してそうだよね、ミラー」

「そうだ。上流に原因がある事も市内で水を調べれば察するだろう」

「そして太守は事態を解決する為に毒を混ぜている奴を叩かせる、と」

「下で正規兵ではない者どものやっている争いがおそらくそうであろうな」


 何らかの術具か物質を腐毒の源として置いているのだと推測できるが、まだ現物を見ていないので何とも言えない。俺にとって腐魚は有用だ。源が何であれ破壊されたくはないし、必ずしもリンミの水質を汚染させる必要はない。俺にとっての利益は腐毒の源の保全もしくは保護となる。


「どうにも防衛側が劣勢ぽいね、ミラー」

「攻略側の動きがよい。将を早々に討ち取らねば守り切れまいな」


 俺と腰に佩いた鏡は上空から古びた砦の中庭を眺めている。河から水を引き込み、砦の内部を流れた水が再び河へ戻るよう水路が作られているらしき砦を。

 攻略側が優秀と言うよりは防衛側が弛んでいる。襲撃に備えていなかったかのようだ。手を貸して防衛させるか、俺が源を奪うべきか。


「どちらがより面倒が少ないと思う、鏡よ」

「全員殺して原因を回収しようよ、ミラー」

「喧嘩両成敗が鏡の好みか? それでも構わぬ」


 喰える命も増えるのだからな。攻略側の将は特に美味そうだ。まだ見ぬ防衛側の主力はどうであろう。源の貴重さを考えれば相応の戦力を擁しているはずだが……。中庭を制圧した攻略側が砦内部に侵入するまでの一部始終を見届けた後、俺は砦へ降り立つ。


 真っ先にやった事は「この建築物の内部にアレはいるか」を占術で占う事だった。過度の臆病とは言ってくれるな、俺には正神や善神の手先よりも狂神と悪神の手先をより深刻に警戒する理由がある。現地に到達した上で「建築物の現住人はどのような者か」を占うのは然程難しい占術ではない。ひとまず俺にとって受け付けられないアレはいないと知り、首飾りと御札の感触を確かめてから建物内部へ侵入した。


 攻略側は少人数だが練れた動きをする集団だ。聖騎士に時折口応えする者がいるのを見た限りでは彼らは正規兵ではない。率直に言って不思議だ。軍事優先の国家であれば彼らは間違いなく徴兵もしくは召し抱えられ、戦で大いに活用されるであろう。

 部隊編成は聖騎士に率いられた戦士六名に神官が二名、密偵、精霊徒、そして魔術師。実力は戦士のうちの一人が頭一つ抜け出し、聖騎士からは……異質さを感じた。遠目にはただ美味そうな命であったが、近付いてみれば毛色が異なった。奉じる神と信仰によって接続しているせいだとは思うが、それだけではないかもしれぬ。彼らの後方を気配を隠して着いて歩き、砦の地下に掘削して造成された最奥部に到達する。そこが腐毒の源だった。

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