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暗黒騎士と鏡の剣  作者: 十奏七音
ミラーソードと硝子の剣
119/502

118. 大君の暴露

「ミラー様は次から次へと、よくもまあ……」


 烙印の翼を開いてひっくり返りそうだったよ、俺は。いるとは思っていなかったんだ。母の声に愛を感じて鏡の剣を見つめていたから、烙印の翼のすぐ外から響いた声には尚更に驚いた。


「ダラルロート!? いたのかよ」


 憤懣(ふんまん)やる方ないと言った調子でダラルロートが声を掛けて来て初めて気付いたよ、俺は。深い、それはもう深い井戸の底からでも響くような呆れ声だった。


「そう言えばダラちゃんがいたわ」

「おりましたとも。我が主を対占術防御結界でお守りしながらねえ。鏡護りなどよりも私の方が御役には立てるのではないですか、御両親。

 ミラー様は超重篤な幽霊恐怖症を患っておられますが、輪を掛けて重篤なマザーコンプレックス持ちでもあるのですよ? 危うい魂の残量を知った今、間違ってもお母君を前線に出そうとは致しません」

「うちのお母さんに面と向かって『てめーの息子はマザコンだ』と言い放てるダラちゃんは勇者だわ、リンミニアンの英雄よ」


 マザコン……? 俺がか。いや、ダラルロートだ。貶されたら照れろ。


「ダラルロートも父もそんなに褒めるな。俺は母になら何千回でも愛を告白する。愛していると」

「ああ、愛しているよ。我が子よ」


 そら見ろ、母も愛していると言ってくれているではないか。俺に何の問題がある、言ってみろよダラルロート。鏡の剣を両手で持ち、母が父の宿る鏡の剣にそうしていたように銀の宝珠(オーブ)を撫でる。


「ミラー様は1歳ですからねえ、魂の全てを賭けてお母君を愛しておられるのはおかしな事ではありませんとも。ですがねえ……」

「なんだよ、ダラルロート。魂の回復方法だとか大君のちょっといい知恵的な話があるなら聞くぞ」


 ハァ、とはっきりと聞こえる深い溜息を吐かれた。寝台の側に立ち、ダラルロートはねちねちくどくどと説教臭く喋り出した。


「ミラー様は私が何故イクタス・バーナバしか得をしない提案を即刻却下できなかったアステールを詰ったのか、全く理解しておられませんよねえ……? アステールの魂の最大の価値とは182年もの長きに渡って魂の完全性を保ち続けた点に尽きると言うのに」

「ああ、うん」


 ダラルロート曰く、イクタス・バーナバのアステールへの提案はアディケオ側から見たら完全に詐欺なんだそうだ。一応は上司の俺を相手にマザコンと詰った大君は、俺が神に注視されていると知った上でイクタス・バーナバまでも一蹴した。ダラルロートが強過ぎる。


「よろしいですか、よく御考え下さいねえ? 今現在のミラー様とエファの状態から御理解頂くべきですが、イクタス・バーナバは双頭の印によって引き裂いた魂の両方に介入し続けるのです。両方にですよ、そして神が死なぬ限りは永遠にです。頭の出来がよろしくないミラー様でも解って下さいますよねえ?」

「そんなに頭悪いのかな、俺……」

「ダラちゃんよりは確実に悪いわ」

「否定できぬ」


 両親も援護はしてくれない。矢襖だよ!


「アステールの魂の二分の一をミラー様に、四分の一はアガシアへ、四分の一をエムブレポにとイクタス・バーナバは言いました。こんな詐欺に引っ掛かるのはミーセオニーズであれば10歳児以下……ああ、ミラー様は1歳でしたね!! ならば仕方ないのですかねえ」


 何が可笑しいのかダラルロートは高笑いまで上げやがる。


「二分の一も四分の一ももう一方の四分の一も、全部イクタス・バーナバのもんだって言いたいのか?」

「分数程度の算数はおできになるのですね」


 ひっでえ!! しかも算数よりは国語の問題じゃねえの!? ダラルロートがエファに出していたような問題文と同じだよ。数学だとか言いながら高等な修辞法と美文を駆使して訳わかんない事させようとするんだぜ。意地が悪いったらなかった。


「アステールは即刻却下すべきでした。好意で申し出てくれた神に対する礼を失さぬ程度に『儂は死者なのだからアガソスだった土地の未来は次代に託す』とでもかわせば良かったのですよ。スタウロス公は宝剣のみならず脳味噌まで腐り切っておいででしたねえ!! 双頭の印の問題点から、敢えて破滅させる為の強力な呪いとして使うのでない限りは無理強いできないと言うのに」


 ダラルロートはアステールを大声で罵りながら盛大な暴露大会を開催してくれた。ダラルロートにリンミへの祝福を与えてくれたイクタス・バーナバは貶さず、アステールを扱き下ろすのに徹しているのは流石だと思う。


「俺の婆ちゃんって異界の邪神なんだけどさ」

「よく存じております」

「ダラルロートとアステールの魂には欠けがないって言ってた」

「……間違いではございません。私は誰にも魂を切り売りして捧げた事はございませんよ。欠けた魂の回復方法は、死を経て魂の河へと還り次の生を得られる一つの魂となるまでの長い期間洗われる事でしかないのですから。

 ミラー様の御一家の魂の状態は悲惨もいい所です。御両親が己よりも健全な魂を依代として求めるのは当然でしょうよ。いつ滅ぼされるか解ったものではない」

「……マジで?」


 魂の回復方法を訊いてみたら随分と絶望的な答えが帰って来た。死んで、魂の河に還れって事は母が母としての力と人格を保つには残り少ない僅か十分の一の魂を死守するしかないって事じゃねえのか。


「私は嘘を言いますし法螺も吹けば欺瞞も致しますが、不必要な虚言は申しません」

「やだ、ダラちゃんってば漢らしい開き直り」

「アディケオの使徒らしくはあるよな、本調子のダラルロートだわこれ」


 ダラルロートはリンミの大君だ。深夜であっても崩していない長い黒髪を梳いて整え、大君としての格を示す衣服には何の乱れも見せない。さっき高笑いを上げていた気もするが認識欺瞞されていたのかもしれん。


「悪い話ばかりではお気の毒ですし、お母君の魂の残り少なさへの不安からまたしても狂乱されては困ります。アディケオの先任第三使徒だった者から、ミラーソード様への警告と助言を致しましょう」

「やっと本題かい、聞く聞く」

「水の大権能が何を司っているか、ミラー様は本当の所を御存知ですか?」

「治水の君アディケオを奉じる第三使徒ミラーソードを舐めてんのかよ? 諳んじられるわ、大権能は水で小権能は水、癒し、湧水、醸造、循環、水運、治水、水害だ」


 俺は水神としてのアディケオを奉じているのだぞ? 不正解などしたらアディケオに絞められるわ。


「不正解です。小権能が足りません」

「あ、そう言う事ね」


 ……何だと? 何だ、何を言い忘れた!? 父は何かを察したようだ。


「水、癒し、湧水、醸造、循環、水運、治水、水害の8つだと思うんだが……」

「9つ目の小権能こそが最も重要ですよ。魂洗いです。お母君の魂に救いをもたらし得る小権能であり、ミラー様が絶対にアディケオを裏切ってはならない理由ですよ」


 魂洗いだなんて俺、知らないぞ。


「魂の河って言うくらいだから水の権能で接触できるのよ、ミラー。

 アディケオならば僕らの欠けた魂を救える力がある。だから、君が今やるべき事は解るな?」


 魚の目が俺を物言いたげに見ている。今はダメだ、イクタス・バーナバは嫌いではないが、俺はアディケオの第三使徒だ。アディケオにできると言うのなら隠れる(きみ)の最愛を自称するスコトスを押し退けてでも寝所にでも何でも行くわ。水の権能なら母を救えるのだろう? 母が最優先!! 他の事は暴力でも土下座でも通用する方で処理する!


「死にそうな顔してやがるアステールを止めに行くぞ!! 自由にしていいなんて前言は俺の都合が悪くなったので撤回だ、破棄だ!! ダラルロート、奴はどこだ!?」


 烙印の翼を紋様に戻そうと思えばすんなりと俺の中に戻って来た。寝台から飛び出し、俺の私室の戸口でダラルロートに怒鳴る。


「ミラー、私は」

「いいのよ、お母さん。ダラルロートが一晩でアステールに首を吊らせる間抜けに見えるの? どうせ今頃はメンタルケア要員に張り付かれてどっかの部屋で監視されてるわよ」


 ……父の言った通りだったよ。上級監察官で大君代行のワバルロートがアステールに付きっ切りで話し相手になりながら、ダラルロートの配下がミーセオ帝国中を探して集めて来たのだと言う散逸していたスタウロス公爵家の歴史書を手に一杯やってたわ。


「アステール!! アディケオだけは裏切れねえ事情ができた、貴様は魂の大安売りなんざ絶対の絶対にぜーったいに禁止だ! いいな!!」


 俺がアステールにイクタス・バーナバの提案を受けるなと厳命すれば、小さな声がした。善でも悪でもない、狂える中庸の神の声。―――リンミの大君は忠臣だよ、ミラーソード。イクタス・バーナバはスタウロス公への関心を失っていない事を忘れずにアディケオとの会談に臨むといい。


「……どうしたのだ、ミラーソード。一体何があったか聞いても?」

「解ってるよ、今から説明するわい。俺の母の魂が十分の一しか残ってねえから気を付けろって俺の婆ちゃんにどやされたんだよ。

 わざわざ、ダラルロートとアステールはまだ欠けのない魂を持っていると言い添えてまでな!! ここまで意味ありげな神託に何の意味もなかった日には俺は暗黒騎士なんて廃業して魔法騎士にして魔術師になるわ!!」



 とまあ、そんな話があってさ。

 ダラルロートは認識欺瞞をよほど強く締め直したのかまたぞろ本心が解り辛くはなったが、俺の忠臣だとは信じられるようになったよ。

現在のミラーソード


■主要な変更点

地獄の深海で大母によって強化され、分体操作に伴うクラスレベル低下がなくなっている。


***************************************************

氏名 : ミラーソード

年齢 : 1

性別 : 無性

属性 : 中立中庸

種族 : スライム 分類 : 祝福されたハーフ コラプション スライム第二世代

レベル : 30 (分体2体活動中)

クラス : 暗黒騎士10, 魔術師20.

クラスリソース : 魔術師20, 暗黒騎士20, 幻魔闘士20, 魔法騎士20, 鏡護り20.

魂 : 41/100

状態 : 活性化

抵抗 : 頑健41, 反応33, 意志42, 魔素60.

攻撃回数 : 4回 / 6回

機動速度 : 高速 / 超低速

武芸 : 戦槌開眼, 烙印の翼, 烙印自動戦闘V, 戦槌攻撃範囲拡大V, 重装鎧熟練, 剣100, 槌100, 盾100, 水泳V, 騎乗V, 騎乗戦闘V, 神威の一撃 6回, 舞踏の如き回避, 憤激.

魔術 : 防衛的発動, 詠唱破棄, 触媒不要, 威力最大化, 範囲拡大V, 範囲内対象任意選択, 請願契約, 多重詠唱, 多段詠唱, 輪唱, 前借発動, 発動遅延, 高速付与, 人形練成, 結界, 陣法, 大儀式, 魔力回路, 魔力解体, 超速魔素吸収, 呪詛返し, 低級魔法無効, 中級魔法発動阻害, 上級魔法抵抗力強化, 魔力循環V.

術適正 : 理力91, 元素105, 変成130, 占術100, 幻術92, 召喚80, 神聖100, 暗黒100, 治癒105. [▽準備]

適正外 : 死霊術【恐怖】, 精霊【暴走】.

擬呪 : 理力91, 元素/水105, 変成130, 占術100, 神聖100, 暗黒100. [▽準備]

異能 : 不老, 命喰らい, 大母の腐敗【超】, 大母の増殖【超】, 大母の堕落【超】, 大母の創造【超】, 邪視, 祝福, 無呼吸, 無視界, 美, アディケオの不正, アディケオの水【強】, アディケオの統治, イクタス・バーナバの双頭.

異能経路 : アガシアの愛【超】.

耐性賦活 : 斬撃V, 刺突V, 打撃V, 腐敗V, 毒V, 酸V, 病気V, 精神V, 魔素V, 欺瞞V, 精霊V.

技能 : 調理90, 裁縫95, 清掃75, 給仕100, 農夫93, 酪農97, 鍛冶80, 彫金80, 大工95, 革加工80, 仕立95, 細工83, 工兵52, 商業II, 交渉III, 威圧V, 虚言III, 真意看破IV, 潜伏I, 柔軟I, 脱出I, 隠蔽I, 偽証I, 贈賄I, 監視V, 支配V, 政治V, 拷問II, 懲罰IV,

筆記V, 速読V, 礼法V, 兵学V, 魔法学V, 神学V, 歴史V, 錬金術V, 調合V, 茶芸V, 盆栽V, 舞踏V.

弱点 : 幽霊恐怖症【超重篤】 [▽難易度130]

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ミラーソードのクラスレベル制限撤廃に伴い武芸に追加と更新

▼ミラーソード

烙印はミラーソード自身が行動不能でも独自行動可。耐久力が尽きると紋様に戻る。

烙印の翼 : 烙印は大母に由来する四つの異能から支援効果を受ける

烙印自動戦闘V : 烙印の自動戦闘時 命中+X ダメージ+X 異能による追加ダメージ

舞踏の如き回避 : ダラルロートから舞踏Vを借りて効果上昇 反応+++++

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