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《Undead》─光輝なる消失者─  作者: 椿姫@m5
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とある少年少女

ぬらぬらとひかる黒い岩肌

子供が身体を捻って屈めてなんとか通れる暗闇




先がどこに続くかは分からず

どこが終わりなのかも知らず

ひたすらに前へ前へと進む


様々な想いを抱え

後ろは決して振り向かず

疲れた身体に鞭打って

ただただ進む

「いたっ!!」

暗闇の中、突如打ち付けた額を押さえ後ろを振り返る。

「ここ、少し低くなってる。」

繋いだ冷たい手がぎゅっと強く握られる。

上の固くざらざらとした感触を片手で、冷たい岩を裸足の足で踏みしめ確認しながらゆっくりと歩む。

「あ…明る…い…?」

「…っ」

前方のかすかな光に繋ぐ手がわずかに震える。

日の光を見たいと思いながらも、日の下ではないことを願い慎重に進む。

「もう…かなり歩いたし…外でも大丈夫…じゃないかな…」

後ろから、かすれた少女の声が反響する。

「あ…上、高くなってるみたいだ…」

触れるものがなくなった手に少年はそう判断した。

「きれいな緑色…日の光じゃないね…」


開けた天井に二人は手を離し屈んでいた体を思い切り伸ばす。

「ここまで迷路みたいだったけど…ここは…空気が澄んでいて…綺麗。」

「今まで真っ暗で何もみえなかったもの。それよりあの水飲めるかな?」

少年は奥に見える湖に歩み寄りながら言う。

「この光…このコケが光ってるのね。」少女は壁に手を添え、ふと先に進む少年を見て慌てる。

「まって!置いてかないで…!」

少女の不安げな声に、少年は立ち止まり、おいて行ったりしないよと再び手を差し伸べた。

「水の表面がキラキラして眩しいね。」

「水で行き止まりになってるのかな…」

「でも戻るわけにいかないだろ?とりあえず行ってみよう。」

少女の手を引き、見える足元を嬉しく思いながらずんずんと進む。


奥に見えていた水の煌めきは、高さを維持したまま左右に広がりはじめた洞窟の三分の二ほどを満たしている。海の浜辺のように打ち寄せる冷たい水が、洞窟の入り口に立つ二人の足元をわずかにくすぐっては引いていく。

「うわ、広い湖だ。地底湖、ってやつかな。」

二人は足を少しだけ水に浸しながら、身を乗り出して洞窟内を見回す。

「見て。左右にトンネルみたいのがあるわ。泳がないと行けないかしら…??」

ゆらゆらと光って底の見えない奥の水面を見つめながら不安そうに少女がいう。

「わたし泳げないんだけど…」

少年はちらと少女を見、洞窟の壁沿いに恐る恐る水の中へ歩を進めた。

「あれ??とっても浅いや。足元、確認しながら行けば大丈夫そう。」

ひざ下までを水に沈ませ、そろそろと進む少年に続き、少女も水の中に歩みだす。

「っ!…冷たい…。」

「ほら、壁に手をついて。ね。気を付けて。」

少女は言われたとおりに壁に手を這わせ、粗末な服の裾をたくし上げた。


ちゃぷちゃぷ…

ざぱざっぱん


不規則な波の音に、規則的なリズムを加えながら二人は黙々と右側に見えたトンネルへ向かって歩く。


「どうしたの?」

前を歩く少年が急に立ち止まり、少女は不安になる、が。

くるりと身をひるがえした少年は、素早く体を屈ませ掌で水をすくい。

少女に向かってぶちまけた。


「ひゃぁ!!」

飛散して少量とはいえ、冷水の襲撃に思わず声を上げる。

驚いて少年を見ればににこにこと満面の笑みで、ふふふと笑っている。

「もう!」

いつもの彼をみて、少女は安心しながらも頬をふくらませ、少年に非難の目を向ける。

「笑わないでよ!君はいつもいつも…大体あの時だって…」

少女は洞窟に入ってからの少年のいたずらを拗ねたようにつらつらと挙げていく。


少年はいつものように恥ずかしがる少女の顔を思い浮かべながら足で水底を確認し、後ろに声を投げかけた。

「だって君、怒っててもかわいいもの。」

「またそんなこと…言って…」

予想に反し、急に沈んだ少女の声に少年は再び足を止めた。

「どうしたの?」

「だって……みんな……」

声を詰まらせ、すそが水に濡れるのも構わず、少女は屈みこむ。

少年は自身の言動に反省し、少女の手を握って立たせた。

「身体が冷えちゃう。ほら、もうトンネルの入り口だよ。」

トンネルの中は先の場所よりも少し暖かく、乾いた地面があることに安心して少女を導く。


「…っん…っく…ごめ…んなさい…」

少し歩いて腰を下ろし、涙を流して謝る少女の頭を撫でながら何もできない自分に歯噛みした。

「僕…たちは…」

「大丈夫。分かってるの。大丈夫よ。」

少年は歪んだ笑顔で自分を見上げる少女の涙を袖で拭う。


「ねぇ。ここで暮らせないかな。」

少女は赤く潤んだ目をまんまるにして少年を見つめる。

「ここで??」

「そう。この洞窟で。」

少女に口を挟む隙を与えず、少年は畳み掛ける。

「水はあるし。ここは暖かいし。ちらほら生き物だっているし…それにこんな奥まで普通は入ってこないだろ?」

少年の不器用な優しさに気が付き、少女は顔をほころばせる。


「そっか。ここで暮らすなら色々工夫しなきゃ。ね?」

よいしょ、と。心にみなぎった力を疲れきった身体に流し込んで立ち上がり、うんと暖かくなった心で少年に笑いかける。

洞窟に入ってきてから初めて見た少女の笑顔に少年は顔を赤らめる。やっぱり彼女はとても可愛い。


「君がいれば私は大丈夫。私がいれば君も大丈夫。そうでしょ?」

もうすっかり怯えも不安も抜けた表情に少年は安心する。

「それじゃぁ…まずは結婚式でも…?」

真面目な顔で言う少年に、少女はくすくすと笑う。

「そうね…ここの光はわたしたちの光にとてもよく似ているもの…」

「じゃあこの光に。」なるべく厳かに少年はいう。

「うん。誓って。」少女も言う。

『僕はきみとともに。』

『わたしは君とともに。』


ひどく長く暗闇を歩き続けた少年少女は、緑色に光はじめた額を合わせて微笑んだ。辛く冷たく悲しい事があった。それを忘れずに、どうか、これからは幸せを。


血や泥で汚れた粗末な衣服

身一つの彼等はどこから来たのか

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