鏡の中の悪魔
姿見で自分の姿を見ていたら、突然自分が悪魔になった。
鏡の中の、自分と入れ替わってしまったのだ。
鏡の中から見る自分は、酷く醜く、まさに悪魔の姿に見えた。
青黒くただれた肌、鋭く伸びた爪。鼻息は荒く、口は大きく裂けて伸びた歯が飛びてている。ギラギラとした目は、まるで獲物をこれから狩る猛獣のようである。
なぜ、こんなことになっているのか。
外に出てみると、自転車に乗ったおばさんに腕を組んだカップルが向いの道を通っている。至って、普通である。
そこで手元を見れば、いつもの肌色の手があった。あの、青黒い悪魔手でなく。
そこで初めて慌てていたことに気付き、また少し安心したことを感じた。
鏡を見て、悪魔を再度確かめる。
一度、家に閉じこもる。
外に出る。
都会の店のショーウインドウの前は人が絶えない、常に悪魔が見えた。
街を歩いて、鏡に写る人を見ればそこには十人十色の悪魔がいて、
まさに悪魔の溜まり場であった。
しかし、皆顔を合わせようとはしていなかった。
皆、心に闇、欲望を隠している。
それを隠すように外見を作っている。
鏡では皆外見しか見ることができず、自分が知っている自分というのも、鏡を通してみた外見だけである。
しかし、その中にはその内が、心が潜んでいるのである。鏡には映らない悪魔の心が。