学校に行く 羽
ボールを転がす。
初めは勢い良く。次第にコロコロスピードを落とす。
止まる直前のしぶとい、か弱い
惰性。
今のボクの状態だ。
もういつ止ってもおかしくない。
目に入る景色を流しながら歩く
学校までのいつもの通学路。
あれ。
駅前の道、何か違う。
白い半袖のブラウスから伸びる
白い腕、桃色の唇、
黒い長いスカートの女の子が
人の流れの中、立っている。
その子は真っ直ぐボクを見ていた。
まさかと思いながら、うつむき気味に
その子の前を通る。
「どうぞ」
視線の先のアスファルトの間に
白い手が伸びてきた。
思わず
「どうも」
と受け取った。
チラっと見たその子はボクを見てニコッと笑った。
なんだティッシュ配りの子か。
肩の力が抜けた。
イヤイヤ
渡されたものは黒い羽だ。
思わず親指と人差し指で持ち直す。
振り向くとその子は駅の人混みに紛れて行った。
なんでボクだけにこんなものを!?
黒い羽。きっとカラスの羽だ。
大きく虹色に真っ黒い、規則的に目が揃った羽。
不潔、不吉
と一瞬思ったが、嫌な気はしなかった。
手にある羽がただ不思議で綺麗に見えた。
揃った目が崩れないようノートに挟み
そっとリュックにしまった。
2日目
カラスの羽を渡したその羽の子はいた。
昨日と同じところに。
遠くから確認したが、やっぱり他の人には渡していない。
自然に通り過ぎようとしたが
「どうぞ」
という白い手に黒い羽を渡された。
「ど・どうも」
少し予想していたが今日も渡されたらミステリーだ。
そう思っていたボクは黒い羽をしっかり受け取り羽の子を見た。
ボクが受け取ることを知っていたかのように
ニッと笑った。
3日目
ボクは羽を受け取らないことに決めていた。
しかし、羽の子はいなかった。
4日目
今日は来ているだろうか少し不安だった。
いた。白いブラウス、黒いスカート。
美しい長い髪。
黒い羽を持って待っている。
「どうぞ」
「どうも」
ボクは羽を受け取り安心した笑顔で、羽の子を見た。
羽の子は笑っていなかった。
5日目
ボクは少し腹を立てていた。
羽に、羽の子に、それらに振り回されている自分に。
今日も羽の子が立っている。
初めての日のようにうつむき気味に早足で
通り過ぎようとするとやっぱり白い手が伸びた。
ボクはひっくり返りそうだった。
クジャクの羽を渡されたのだ。
驚いて羽の子を見ると目を細めて白い歯を見せて
笑っていた。
次の日
学校は休みだがいつもの時間、いつもの場所へ行ってみた。
その日以降、羽の子の姿を見ることはなかった。
もう1度会いたかった。
なぜカラスの羽を渡したのか。
なぜクジャクの羽だったのか。
なぜボクだったのかを聞きたかった。
羽の子が立っていた場所に立ち
遅刻しないギリギリの時間まで
待つつもりだった。
受け取ったカラスの羽3本とクジャクの羽を持って。
秋の風が羽たちを揺らす。
駅からたくさんの人達が出てきた。
みんな急いでいる。
そんな中、1人ゆっくりとうつむき気味に歩く
制服の女の子。同じ学校の後輩だ。
羽の子もこんな風にボクを見つけたのだろうか。
ボクの前を通り過ぎる時、ボクは思わず手を伸ばした。
「どうぞ」
その子は思わずボクからカラスの羽を受け取った。
「…どうも」
ボクはニッと笑いかけた。
ボクは学校へ走った。
5日目ボクはキジの羽を渡そう。