Glow/輝き
自覚は、していない。この先もきっとしてやらない。好きになんて、なってたまるか。
アタシは左手を睨み付け、心の中で誓ってみた。あまり効果のなさそうな誓い。だけど、叶えたい願い。
悔しく思ってしまうせいで、全然説得力がないけど。
傷跡は残らなかった。もともと大した怪我じゃなかったから、簡単に、消えてしまった。嬉しいことのはずなのに。
「梅雨とかもう終わって欲しー」
それが、悔しいなんて。
「ユリ、あたしそれすっごい判る」
アタシは、どこかおかしいのかもしれない。
「傘さすのとか超メンドイし」
窓の外はしとしと雨。ここはアタシのクラス。隣にはチカ。今は放課後。
廊下寄りの壁に背を預け、左手を撫でてみた。つるつる。まるで何もなかったみたいに。
「てか、早くやまないかなー」
夕方には雨がやむという怪情報が、チカのクラスで出回っていたらしい。スマホでチェックしてみたら、やむかどうか微妙だったけど。
アタシたちは一応、様子をみることにしていた。雨に濡れるのは好きじゃないし、今日はマイたちとの約束もないし。
「ねえ、ユリ?」
教室には、まだアイツがいるし。関係、ないけど。
「……何?」
上の空で言いながら、窓を見た。教室の真ん中辺りに座るアイツの後ろ姿が、自然とアタシの視界に入る。アイツ越しに見える窓の外は、少しだけ明るくなっている気がした。
「まだ痛かったりするの? 手、さ」
もうすぐ、やむかもしれない。
「ううん、全然。綺麗に治っちゃった」
雨が。気持ちが。空を覆う灰色の雲が。アタシの耳に残るアイツの声が。
全部が晴れたら、良いのに。
「見して、見して」
そうしたら、気分も晴れるのに。
急に左手をチカに握られ、アタシは少しだけびっくりする。どきどきするのは、そのせいだ。
「あ、本当だ」
アタシの視界の、せいじゃない。
「でしょ? もう全然痛くないし」
帰り支度を進めながら、アイツが後頭部をさすった。頭が痛いのか、痒いのか。ただの癖なのかもしれないけど。
机の中からノートを取り出す。黒板を見る。頭を触る。教卓の前でうるさく遊んでいる長嶺たちをちらり。表情は見えないけど、たぶんきっとご機嫌斜め。
鞄に教科書を詰める。頭を撫でる。折り畳み傘を取り出す。机の中を確認する。頭をさする。壁に掛かった時計を見上げる。ちょっと溜め息。せわしない動き。
「そっかー良かった。ユリ怪我したの、あたしのせいみたいなトコあったしさ」
何で、見ちゃうんだろう。
「気にしないでよ」
何で、気にしちゃうんだろう。
「でもホント良かったー」
見たくないのに。気にしたくないのに。あんな奴のことなんて。
後頭部に手を添え、アイツが立ち上がった。雲の隙間から光射す。窓を見るアイツは不機嫌そう。
「あ。晴れてきたっぽい」
教室に射し込む光。アイツの席を照らす。
「ホントだ。もうちょっとしたら帰る?」
きらきら光る、アイツの姿。窓の外を睨み付け、苛立たしげに後頭部をさすり。
ちっとも、格好良くなんてない。ちっとも、良いところなんて見当たらない。全く全然興味はないと、アタシは思い込みたいのに。
「そうだね」
願いはきっと、叶わない。
雨雲から覗く太陽の光。薄くて淡くて、だけど気付くと見てしまう。期待してしまう。晴れることを。
雨雲みたいに不愉快なアイツ。だけど陽光を隠している。声という、アタシにとっての陽光を。
「そろそろ、雨、あがるかな?」
知っている。諦めれば良いんだ。判っている。認めれば良いんだ。
自覚より前に、感情があった。忘れられていない時点で、それはもう確定していた。
アタシは、アイツから目がはなせないんだ。




