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Ugly/不快な

 期末テストの結果が、悪かった。

 悪いと言っても学年で十番以内には入るのだが、僕にとってはあまり良い結果ではない。五番以内に入れなければ、西高に行くことは適わない。結果として、僕は志望校のランクを落とさなければならなくなってしまった。

 この辺りでは西高がトップだが、別にずば抜けて偏差値が高いというわけではない。すぐ下には私立白高がある。偏差値の違いはたったの二。公立と私立の違いはあるが。共学と男子校の違いはあるが。しかし。

 前回よりも順位を落としていたことが腹立たしい。冬期講習で成績を伸ばしても、内申書は確定してしまった。担任が言うには、僕の成績ではぎりぎりらしかったので、順位を落とした今、僕の進路が変更を余儀なくされたことは間違いがない。

 集中力を欠いていたのだろうか。この僕が、何故。

 思い当たる節はある。否、一つしかない。

 川瀬。

 あの女のせいで、僕は勉強に集中出来なくなっている。腹立たしい馬鹿女。確か、南女子を受けると言っていた。白高の近くの女子高。おそらくは、交流のある高校。

 僕は中学を卒業しても川瀬に振り回されるのだろうか。今と同じように、集中力を欠いてまで。

 誰にも気付かれないよう深呼吸をする。公立の西高と私立の白高の併願。僕の受験はそれ以外には考えられない。いくら足りなくとも、万が一ということがある。それに何より、あの女の進学先からは遠い方が望ましい。

 望ましい、はずだ。

「はい。それじゃあ冬休みだからって気を抜かないようにね」

 それなのに、僕は。

「カトちゃんは冬休みどっか行くの?」

 白高でも良いと思っている。否、違う。

「長嶺くん、加藤先生、と言いなさい」

 白高に行きたいと思っている。何故か。川瀬の顔が頭をよぎる。今朝のメールが頭をよぎる。

 ――おはよ。明日から冬休みだね。お互い受験勉強ガンバろ!

 僕と自分を同列に語るな。そう思ったと同時に、何故か嬉しかったことを思い出す。

「はーい。判りましたカトちゃん先生」

 嬉しい? この僕が? どうして? あの馬鹿に纏わり付かれて迷惑を被っているというのに。睨まれ、振り回され、鬱陶しいとしか思っていないはずなのに。

 鬱陶しいはずなのに。

「ねえ、カトちゃんは高校受験とかどうだったの?」

 僕には、自分の気持ちが判らない。どうしたいのかが判らない。

「うーん。まあ、結構頑張ったかな。先生、学区外の私立受けたから大変だったのよ」

「えー、意外! カトちゃんって中学のときガリベンだったんだ」

 川瀬と仲良くなりたいのだろうか。これ以上係わりたくないのだろうか。断ち切るのは簡単だ。

「うん、まあ。休みだからって気を抜いたら危ないわよって話ね」

 メールアドレスを変えれば良いだけの話。だが僕はそれを良しとは思っていない。どうしたいのだろう、僕は。

 とりあえず、早くホームルームが終われば良い。雑音の中、思考を巡らせるのは好きではない。しかし。

「受験生にとって、冬休みは思ってる以上に大事な時期なのよ?」

 終わったら、しばらく川瀬に会えなくなってしまう。

「……はい、それじゃ、みんな気をつけて帰ってね。良いお年を」

 会えなくなってしまう? 望ましいことのはずだ。残念に思う謂れなどないはずだ。それに、学校が休みになっても川瀬からのメールは来るはずだ。顔を、見られないだけで。

 僕は、川瀬の姿が見たいのだろうか。毎日。何故。

 教室内がうるさくなった。今から始まる冬休みへの期待と不安。成績の変動。それらが渾然一体となり、教室内を包みこむ。

 早く帰ろう。帰って、勉強をしよう。

 そう思っているはずなのに、心の隅ではまだ帰らなくて良いとも思っている。僕はどうしたいのだろう。

 無意識のうちに、教室内を見回していた。探していた。川瀬を。

 机の中から必要な物を取り出し、鞄にしまい込む。鞄を閉じ、席を立った。しかし。

 気付いたら、遠くから聞こえて来る川瀬の声に耳を傾けていた。

「ユリはさ、冬休みどっか行くの?」

 僕はどうしてしまったのだろう。

「行かないよ。一応、勉強するんだ」

 何故こんなにも頭の中が川瀬で一杯になっているのだろう。

「へえ、珍しいこともあったもんだ。やっぱあれ? 恋すると変わるって奴?」

「うるさいうるさいチカうるさい!」

 これは何だ? 何の感情だ? 僕には関係ないことのはずなのに、何故か感情が抉られる。意味が判らない。気分が悪い。

 川瀬は僕にとってどうでも良い存在でしかないはずだ。否、どうでも良いどころではない。邪魔な存在のはずだ。それなのに。

「だってそうでしょう?」

 目が、耳が。五感が川瀬を欲している。勉強の邪魔にしかならないはずなのに、川瀬の一挙手一投足を逃すまいと躍起になっている自分もいる。

「チカ! もう、もう!」

 この感情の名に、思い当たる節がないわけではない。しかし、そんなはずがない。あり得ない。性質の悪い感情を以て川瀬を想っているなど。

 不愉快だ。全てが。

 このわけの判らない感情も、冬休みに突入することも、成績が伸び悩んでいることも。全てが僕に仇なしている。何もかもが思う通りに進まない。

 苛立つのは川瀬のせいだ。あの球技大会の日からずっと、僕は川瀬に苛立ち続けている。その根源が変化していようとも、苛立つことに変わりはない。

 僕は何故、あんな馬鹿女に心惹かれているのだろう。志望校の変更ですら、構わないと思えるほどに。

 それこそ本当に意味が判らない。それこそ本当に面白くない。理屈を以て制することの出来ない感情など、僕は欲していないのに。

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