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第1話 造物主

 感情表現や会話のやりとりに四苦八苦してます。まだ本編始まって無い状態なのに文字数が爆発してます。しかもネタかぶりは無いだろうと思って他の作者様の作品を拝見してたら意外とかぶり気味。しかも当然ながら私より遥かに上手い。どうしよう…

 自室の前で意識を失った翔は、覚えの無い場所で目を覚ました。


「う…すごいだるい……。なんだここ…。病院か?」


 指一本動かす事すら億劫な程の虚脱感に苛まれながら目を薄く開けると、そこには継ぎ目ひとつ無い白い天井が続いていた。


(ぶっ倒れて病院に運ばれたのか…?結構重症だったんだな)


 意識を失って廊下に倒れてしまい、誰かに救急車を呼ばれたんだろう。そう思いながら、首を倒して辺りを見回す。だが、そこに予期していた壁は無く、白い天井は遥か彼方まで続いていた。

 病院だと思っていた翔は現実とは思えない光景に目を疑った。


「な、なんだここは…!? 大体俺、床に寝てるじゃないか」


 暖かく柔らかなベッドだと思っていた場所も純白の床であり、天井と同じく無限に続いていた。一瞬前まで、自分のベッドより厚みのある毛布とスプリングの様に感じていたはずなのに、今はひんやりとした硬質な感覚を背中に伝えてくる。その異様さに、翔は気だるさも忘れて半身を起こした。


 水平に移り変わった視界は、今度こそ彼を狼狽させた。


「宇宙…!?」


 目が痛くなるような純白の天井と床が消えてゆく先にあったものは、きらめく星々と深遠の宇宙だった。とても壁紙などと納得できない本物の宇宙空間が彼方に横たわっている。


(ここはまさか……)


 異様な景色を見て、最悪の予想が脳裏をよぎった瞬間。


「お前の考えている通りだ」


「!!」


 突然の声は背後から聞こえた。男のもととも女のものとも、老いているとも子供のものとも思えない、ただ圧倒的な質感を持った声。

 

 驚愕に身を震わせた翔が振り返ったその先には一人の少年が居た。人種を特定できない白皙の美貌に燃える様な緋色の短髪をした10歳程に見える少年が、手に輝く水晶の様な球体を持ち、ソファに腰掛けている。体には古代ギリシャで使われていた様な布の服をまとっている。ソファの脚の周りには少年の手にあるものと同じ様な水晶球が無数に転がっていた。


 慌てて口を開こうとする翔を空いている掌で遮り、少年はさらに言葉を続けた。


「私はタリエ。次元の造物主……お前たちの星では俗に『神』と呼ばれるものだ。お前には故あって此処に来てもらわなければならなかった。お前の疑問には答える。順を追って説明しよう。だから落ち着きなさい」


 その声を聞かなければ子供の虚言と言われても仕方ない様な事を平然と、尊大な態度で少年は言う。体の内側に響く様な圧迫感を与える声は自然と翔にうろたえる事を許さなかった。


「あぁ…わかったよ。で、君…あなたは神様なのか。つまり俺は……」


「お前は聡い。端的に結論から言うと、お前の肉体は死した。それも自然のあるべき理の外でな。これを見ろ」


 翔はなんとなく解ってしまっていた。無限の天井と床、その先の宇宙空間。人とは思えない、時代錯誤な格好をした少年。手の込んだ最高に性質の悪いジョークでも無い限り、ここは現実では有り得ない。呆然としながらも納得していると、神―造物主と言っていたが―が指した先の空間が正方形に切り取られた。その中は無限に落ち込んでいる。


 意識を失った時を思い出し戦慄する翔の事など意に介さず、タリエは言葉を続ける。


「事の次第を説明するには、お前たちの世界の成り立ちから教えなくてはな。お前たちが居る世界、所謂宇宙だが…それはこの球のひとつに過ぎない」


 そう言って片手の中にある水晶球を軽く掲げる。


「この掌にある球は所謂『お前たちの宇宙』だ。尤もお前たち人類だけが生きている訳ではもちろん無いが。この球を我々はひとつの次元と呼んでいる。この次元を生み出したのが私、つまり造物主であり、次元は多数存在する。私が今までに生み出した次元は316。私の元にある、これらの球はすべて我が次元という訳だ」


 ソファの下に無造作に山積みにされている水晶球たちをさしてタリエは言う。1人の人間でしかない翔からしてみれば到底信じられない話ではあるものの、諦めに似た心境で疑問を飲み込む。こいつが言うならばそうなんだろうと強引に納得させるだけの力が目の前の少年にはあった。


「各次元の間は基本的には移動することも出来ないし、外に出ることも出来ない。何処の次元だったか…科学の進歩の結果、今までにただ一種族だけこの球から抜け出す業を編み出した者達が居たが。あれは痛快であったな。ま、それは良い。その次元の隔たりに最近…地球の時間で言うと5年程前からある異変が起きていてな」


 嬉しそうな表情から一転、そう言ってタリエは美貌を歪める。


「次元に断層が生まれておる。それも大量に。それがこの孔だ。私も事前に感知することが出来ない。生まれた断層をすぐに察知して修復することは出来るものの、それまでに何かを吸い込みよる。その殆どが何も無い宇宙空間に開くのだが、極稀に生命の居る惑星表面上に開いてしまうものがあってな…。知性体を吸い込むなど恐ろしい程の低確率だが。お前の場合、お前の次元では初めての知性体の被害者だ」


 どうやら翔は宝くじも真っ青の確立で、神にすら対処不可能の災害の犠牲者となったようだ。どちらかというと運の無い人生を歩んできたのに、最後の最後でこの大当たりとは…いや運が無いからこそか。あまりの出来事に悲しみや怒りを通り越して苦笑いを浮かべてしまう。


「この断層の直撃を受けた結果、お前達の概念で言うところの精神、魂と言ったものが次元の狭間に吸い出されてしまったのだ。我が次元では初めての事態であった為、対処に困りお前を此処に呼んだというわけだ」


 そう言葉を切ってタリエは断層の映像を消すと、少し姿勢を正して翔の瞳を覗き込んだ。刻々と色を変える不思議な瞳に見つめられ、少しうろたえながらもなんとか今までの説明を飲み込んで口を開く。


「ああ…大体状況はわかったよ。正直漫画みたいな話で現実感まったく無いけど、宇宙がこんな風になってたなんて感激だ。つまり俺は死んでしまって、ここは天国みたいな場所なんだな。で、この後俺はどうなるんだ?」


 まさか齢21にして宇宙の真実に触れるとは思わなかった。一周して落ち着いてしまったのか、普通に造物主と名乗る少年と会話すらしてしまっている。宗教家の妄想だと思っていた神に出会って口を利くなんて、もしかしなくてもこれは凄まじい超常体験では無いだろうか?静かに興奮しながら造物主タリエに問うと、少し言いづらそうに口を開いた。妙な所で人間臭い。


「お前の名は……ふむ、佐伯翔と言うのか。翔よ。お前には詫びとして2つの選択肢を与えたいと思う。他の次元に魂を移管して生をやり直すか、今までの次元、お前の星に魂を溶かし込み、転生を待つか選ぶがいい」


 こいつは何を言っているのか。望めるならば元の生活に戻りたいに決まっている。


「いや、選択肢とかじゃなくて…普通に元の生活に戻してくれよ!やり直すとか転生とか誰が望むんだよ」


 しかし。


「それは出来ない。我々には唯一つの盟約がある。それは『起きた事を書き換えない、時間を戻さない』という物だ。たとえ次元その物が崩壊を起こし消滅する様な事態が起きてもそれを巻き戻したり無かった事することは出来ない、してはならないのだ。今回の事は済まないと思うし、今後発生しない様に最善を尽くすつもりだ。造物主として謝罪する。しかし、お前を『生きていた』事にしてやることは出来ない」


 そう言ってタリエは深々と頭を下げた。頭を下げるという文化は造物主ですら共通なのか。いやいやそういう問題じゃない。正真正銘の神に頭を下げさせるという事態に、小心者の翔はあたふたしてしまった。両手をわたわたと動かして頭を上げてくれと頼む。


 いきなり死どころか魂を次元外に放り出されたというのにお人よし過ぎるとも言えるが。


「い、いや、頭を上げてくれよ。俺そんなに生き続けたい、なんてほど充実してた訳じゃないし。そりゃ死んだとなればちょっとは悲しいけど。泣いてくれるのもアイツくらいだし……」


 もとに戻ることはできないと言われ瞬間激昂した翔だが、ごく冷静に考えるとそこまで何がなんでも戻りたい、と考えていない自分にふと気がついたのであった。


 翔は幼い頃に両親が離婚し、母親について行ったは良いが再婚相手の継父に虐待された挙句、母の病死と共に放り出されている。祖母の財産とアルバイトで稼いだ金で大学までなんとか進学したものの、何か生きがいがある訳でもなく、どちらかと言うと世界に倦んでいた。内向的な性格もあって友人も少ない。


 有り体に言って、彼にはあのままでも生き続ける程の原動力は無かった。


 もちろん、少ないとは言え親しい友人も居た。あのまま部屋に帰って、上がりこんでくる友人と過ごす怠惰な時間も楽しかっただろう。でもあいつは友達多いし、俺が居なくてもすぐに立ち直るんじゃないかな。そう考えると、何か急に拘る気も無くなった。後は読みかけの漫画と大詰めで止まってるゲームくらいなものである。それこそどうでもいい。


「さすがに転生の順番待ちとか悲しいし、何より俺の居た世界はつまらなかった。どうせなら、他の世界…次元に行きたいかな。さっき我々って言ったよな?他の造物主も居ると思うんだけど、どんな所があるんだ?」


 一度諦めてしまうと、予想以上に軽い気持ちになった。もともと熱しにくい性格である。珍しく前向きに、翔は今後のことを考えた。


 そんな翔を見てタリエは少し驚いたような表情になる。三日月のように薄く笑みを浮かべて彼は口を開いた。


「感謝する。そして認識を改めよう。翔の魂を走査した結果、後ろ向きかつ未熟な精神性を持っていると思っていたが、どうやらそれだけでは無いようだ。知の回転も早い。この場に至ってそれ程冷静である事もそれを物語っている」


 さらりと失礼な事を言われた様な気がしたが、相手は超常の存在だ。軽くスルーする。それに事実であることは彼自身が知っている。何より翔のこの態度は単に開き直っているだけだ。


「翔の考えどおり、私のような造物主は他にも存在する。それも無数に。つまり、次元も無数に存在するということだ。その中にはお前たちの娯楽作品で描かれる、魔法や魔術と呼ばれるものが存在する次元も多数あるぞ。私は『干渉せず鑑賞する』ものだから私の持つ次元には存在しないが、他の造物主の中には自らの力を次元の中に流しこんで居る者も多い。そうした次元では魔法がごく自然と存在する訳だ。翔はそうした作品が好きだった様だが、どうだ?その様な次元に行くか?」


 驚いたことに、ファンタジー世界というものはただの創作では無かった。造物主の力が魔力に相当するものの様だ。少し興奮しながら言う。


「ほんとか!そういうのって想像の産物だと思ってたよ。現実にあるんだな…。行けるならそういう世界がいい」


「お前たちの種族は数々の知的生命体の中でも、ああ言った娯楽作品を生み出す文化では傑出しているな。まるで観てきたかのように描かれる世界は素晴らしい。存在する次元に酷似したものは特に人気があってな、私や他の造物主達もよく拝見させてもらっているよ」


 まさか神々が人類の文化を知っていて楽しんでいるとは。意外と俗な方々なのかも知れない。この造物主も口調こそ堅苦しい様に感じるが結構フレンドリーだ。


「今回の事は私も想定外であり、非常に申し訳なく思っている故、どのような次元であっても望む力を与えて送り出そう。変化や恣意的な操作を好む造物主ならば、喜んで迎え入れてくれるだろう。何か望むものはあるかな?」


 いわゆる『チート能力』的なものも与えてくれるとの事だった。地球の文化に精通しているのならば、そういうものも知っているのだろうか。だが翔が望むものは別にあった。


「じゃあ、お言葉に甘えようかな。こういうのが大丈夫なのかはわからないけど……『ドラゴンになりたい』っていう望みはいけるか?知能が高くて強大な力を持っていて、誇り高く気高い。そういう存在になりたい。人類じゃないと駄目だとかあるのか?」


 そう。翔がいつも思い描いていた、理想の存在。ある時は英雄の強大な敵となり、ある時は心強い盟友となる。何物にも縛られない、誇り高き天地の覇者。自らの分身として求めていた存在にもし本当になれるのならば、それ以上の喜びは無かった。


「ほう…。予想外の答えだな。龍になりたいとは。我が次元にも爬虫類から進化を遂げた知的生命体は多く居るが、そういう事なら他の造物主の次元にも数多居るぞ。天災の如きものから神と崇められるものまで千差万別ではあるが、お主の望む様な龍が居る次元はいくつもある。何せお前たちの娯楽作品を見て感銘を受けた造物主が態々創りだした次元もあることだしな。当然、人類でなければならないなどとは言わぬよ。むしろお前たちと似通った種族を探す方が難しいのだからな」


「本当か!やった、恩に着るよ。死んでしまった事なんかこれで全然気にならない。叶うはずの無かった願いが叶うんだから!」


 最早翔の中に、突然訪れた最後を悲しむ感情は無かった。想像、いや妄想の中でしか成し得なかった願いが成就するのだ。飛び上がって喜びたいくらいだった。


「翔、お前は本当に不思議なものだな。今後もお主の新たな生を覗かせてもらい、私も楽しむ事としよう。お主の精神を走査し、最適な形態とそれに合致する次元を探そう……ふむ、見つけたぞ。オイジズという造物主とその配下が管理する次元のひとつに、最適なものを見つけた。湯水の如くにその力を注ぎこみ、攪拌して後は成りゆきを楽しむ存在だが、彼奴の次元群は翔の望みを叶えるものだ。ではそろそろ往こう」


 そう言ってタリエがソファから立ち上がると同時にソファはふっと消滅した。いつの間にか出現していた巨大な鏡の様なものに向かって歩き出す彼に、翔は声をかける。


「なあ、最後に聞いていいか?」


「実体次元に肉体を持った後、ここで知った事を話しても世迷い事としか思われないだろうから、何でも聞くといい。何だ?」


 翔にはどうしても気になる事があった。最早なんの意味も持たない質問ではあったが、ひねくれた所のある彼にとっては聞かずには居れない。


「タリエは俺達の世界の造物主…つまり神様に値するわけだけど。どこかの宗教の神様って事になるのか?神が人間の子供の見た目だなんて驚いたから…」


 そう言った瞬間、タリエはこの短い付き合いの中で、最も大きく表情を変えた。つまり――爆笑した。

 

「はははははは!!さすが翔だ!本当にお前は面白い。…人類が創りだした宗教という価値観などの何にも値する訳が無いだろう。あれは統治と収益の独占の為に生み出された非常に独創的なシステムに過ぎない。次元は不可逆であるから、お前たちから私を認識することは本来不可能だしな。尤も私の名を勝手に騙り色々やっているのを見ると些か複雑な気分ではあるが。後、この姿は単に親しみを持てるだろうと考えて変化させているに過ぎない。私達に実体は存在しない故にな」


 笑い転げる様は尊大とは言え普通の子どもに見えたが、やはり仮の姿の様だ。服装からも古代ギリシャ文明の神の様で、確かに虚空から声だけ聞こえたりするよりかは親近感を持てた。それに無神論者の翔の感じてきた、宗教者が語る神というものに対する猜疑心も正しかった様だ。せっかく神と遭遇するという奇跡を体験したのだから、この疑問は我慢できなかった。


「お前の考えは地球では正しかった。あの次元は私の力は存在しない。しかし、これから赴く次元はオイジズやその配下の影響力が強い。向こうの信仰は無意味というわけでは無いぞ。尤も神の奇跡などは期待しない方が良いが」


「わかった。郷に入っては郷に従えって言うしな。色々ありがとうタリエ。興味深い話も聞けてうれしかったよ。また会えるのか?」


 体感時間で数時間程度だったが、タリエとの出会いは非常に面白く感じたものだった。落ち着いた語り口も心地良く、少し別れるのが惜しまれた。


「私は次元に口出しする事は好まない故、再開は遠いだろうな。次元断層の修復もある。だがお前は好ましい。翔の往く世界をオイジズに頼み覗かせてもらう事もあるだろう。…そうだな、お主が死して、魂となった時は、またここに呼ぶこととしよう」


 タリエ達造物主も暇では無いのだろうし、流石にそこまで特別扱いを望むわけにも行かない。そう思い直す。既に十分特別扱いされているけれども。


「そうだな、いつになるかは解らないけど、その時はまたよろしくな。じゃあ、そろそろ行くよ」


 言って鏡の前でタリエの手を握る。腹くらいの背丈の造物主は、永劫の時間を感じさせる柔和な笑顔を浮かべて翔を送り出した。


「ああ。興味深きものよ。さらば。また会う時まで」


 瞬間、翔は光に包まれた。今度は、少しばかり安易な喜びと期待の中で。 

色々読んで改良を目指していますが、何より遅筆の極みなので更新は遅いかもしれません…。 批判・批評・ご意見などありましたら気軽にコメントください。ぜひ参考にさせていただきます。


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