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無音の中の雪灯り

掲載日:2026/11/02

 しん……と雪の中。踏みしめる雪が固まる。雪に足が取られる。歩みを進めるごとに足が重くなる。力を入れて進む。二歩、三歩、四歩。歩き慣れた道だが、日が落ちて夜になると途端に知らない顔を見せる。昼間の記憶を頼りに進む。五歩、六歩、七歩。街灯もなく、車も通らず、すれ違う人もない。道の両脇には畑が広がり、春になれば菜の花が植えられて華やかだが、今は雪の下だ。八歩、九歩、十歩。家はまだだ。確かこの先は田中さんの家だ。私の家はそのさらに先。十一歩、十二歩、十三歩。


 ……ふう、やれやれ、流石に足が辛いな。少し休もう。


 そうは言っても辺りは雪だ。座るわけにもいかない。こうしてのんびりもしていられない。今はまだ平気だが、防寒具だって完璧ではない。


 少しだけ立ち止まって、また歩き始める。十四歩、十五歩、十六歩、十七歩、十八歩……


 気が付くと足元しか見ていなかった。顔を上げる。あれ?ぼんやりと灯が見える。この先、田中さんのお宅よりさらに向こう。


 なんだ?


 足を進める。灯がだんだん近づいてきた。


 足を止める。道の脇、田中さんのハスカップ畑の入り口だ。暗闇の雪の中、足元にぼんやりと小さな灯が灯っている。ゆらゆらと揺れる光は、火だろうか。


 腰を落としてよく見てみる。


 すると、雪がすり鉢状に掘られていて、その真ん中に蝋燭が灯っていた。その周りをなにやら小さなものが蠢いている。もう少しよく見よう、と屈み込んだ途端、私は蝋燭の根元にいた。


 え、と上を見上げると、上の方でちらちらと火が揺れるのがわかる。日が揺れるたびに影が揺れる。蝋燭の根元が太い。大人が3人くらいで抱え込める太さかな。火の影に交じって、なにやら動く影もある。なにかの気配。


 振り返ってみても、何もいない。でも影だけがちらついている。見えないだけで、何かがいる、それも一つや二つじゃない。影を見ればわかる。ざわざわと影は揺れるのに、その影を作り出すものが何一つ見えない。


 ここは、どこだ。一体、なんだ。


 ふと、寒さも感じていないことに気がついた。雪は?足元もすり鉢状の壁も雪でできている。でも降っていない?歩いているときにはあんなに降っていたのに?これは、どういうこと?でもなにか、そんなこともどうでもいいような気が、し始めた、時だった。


「小夜ちゃん!小夜ちゃん!」


 肩を揺すられて気がついた。田中さんのおばさんだ。あれ?ここは?今までの蝋燭は?


「気がついた!びっくりしたよ、こんなところで!!」


 辺りを見渡すと、雪道だった。あ、私は倒れていたのか。体の左側が雪だらけだ。


「今救急車を呼んだから!お家の人ももうすぐ着くからね!寝てはダメよ!!」


 私は……寝てたのか。あ。


 ふと道端を見ると、灯はなかった。見間違い?でも確かに光っていた。あの揺らめきは蝋燭の炎だった。


 よく見ると、道の脇にすり鉢状の凹みがあった。


 救急車のサイレンが聞こえてきた。

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