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婚約者はどなた?2

作者: WAIai
掲載日:2026/10/06

キッチンでクレインは、生地をこねていた。

側にはメイドのメラがついている。

「よくこねて、よくこねて」

生地にはバターやイースト菌が入っており、すでに良い香りがしている。

生地を丸めて叩きつけたりしていると、メラが言ってくる。

「くるみをお忘れなく」

「うん。もちろん!!」

生地にくるみを混ぜると、バターを塗った鉄板に、小さく丸めた生地をのせていく。

「今、オープンも用意できましたわ」

「ありがとう、メラ」

頬には粉をつけていても気にせず、クレインは予熱が完了したオープンの蓋を開け、鉄板を入れる。

「焼けるまで、少し休みしょうか」

「そうね。ホットミルクでももらおうかしら」

「お任せください」

クレインは調理台の上を片付け始める。

使ったら自分で片付ける、そう教育されているので、慣れた手つきで動いていく。

ーあの人、驚くかしら…?

婚約者のサイアンの顔を思い出し、顔が赤くなる。

耳を噛んだり、抱きしめてきたりと、何をしてくるか予想のつかない男性だった。

ー私が子ども過ぎるのかしら…?

メラに聞いてみたいところだが、大騒ぎになっても困るので、調理台が綺麗になったところで椅子を用意し、座る。

「クレイン様、はい」

「ありがとう、メラ」

カップをそっと受け取ると、メラが側に座り、同じくホットミルクを口に運ぶ。

クレインは猫舌なので、ふうふうと息をかけていると、ふわりと甘い香りがした。

「メラ、ホットミルクに何か入れた?」

「あ、気づかれましたか? 少しだけ蜂蜜を入れてみたんです」

「ああ、蜂蜜!! なるほどね」

そろそろいいかと、カップに口をつけると、ホットミルクを飲む。

まだ少し熱かったが、喉を通過させると、お腹が温かくなっていく。

オープンを使っているので、キッチンは他の部屋に比べれば、暑いほうだった。

ーホットミルク、美味しい。

少しずつ口にすると、メラが話しかけてくる。

「それで? パンができたら、サイアン様に差し上げるのですか?」

「そうよ。私の得意なことを実際に見せないと。嘘はつきたくないの」

小さな嘘も、月日が経てば大きな嘘になる。

クレインはそう教わってきたので、素直で優しい女性に成長中だった。

ーあの人は意地悪だけど。

悔しそうに口を歪めると、メラが首を傾げる。

「ホットミルク、まずいですか?」

「あ、違う。違うのよ。ちょっとね。ほほ」

慌てて表情を元に戻すと、カップを調理台に置く。

「ご馳走様。…わ、パンの焼ける良い香りがしてきた」

「そうですね。クレイン様のパンは絶品ですもの」

「それは…ちょっと言い過ぎかもしれませんわ」

「いいえ。私、メラは褒めて伸ばすタイプですわ!!」

2人はふふと笑い合うと、玄関ホールが賑やかになる。

今日はサイアンがやって来て、ティーナ家でゆっくりく過ごすことになっていた。

ー自慢のパンで、負けさせてやるのですから!!

よし、と気合を入れると、エプロンを外す。

「メラ、パンを見ててくれる?」

「はい!! クレイン様、行ってらっしゃい」

「うん。迎えに行ってきますわ」

クレインは足早に進むと、玄関ホールへ到着する。

サイアンはこの前と違い、ちゃんと正装しており、側には執事のガイが控えていた。

「ーやあ、クレイン。来たよ」

礼儀正しくお辞儀をすると、サイアンが抱きしめてくる。

「あ、あの…!! ちょっと」

「うーん、甘い香りがする。私のために何か作ってくれたのかな?」

「さ、さあ…? 知りませんわ」

ふいと顔を背けると、首筋にキスをされる。

クレインはびくりと反応し、サイアンを驚いた目で見つめる。

「ふふ。可愛い人だ。まだまだ愛情表現はあるんだけど」

「い、いいえ!! もうたくさんですわ!!」

「そう? 私は楽しいのだけれど?」

意地悪なサイアンに、クレインは足を踏みつけようとして、防がれる。

歳が離れているせいか、どうも子ども扱いされている気がして、むっとする。

「私は、生きていますよ!! その、ドールー人形と違って、敏感なんですから!!」

「それは、そうだ。だから楽しいんじゃないか。ー私の可愛い人」

鼻をちょんと押され、クレインは真っ赤となる。

「も、もう…!! 私を驚かせないで」

「そう? 素の君はどんな女性よりも、魅力的だと思うけれどな。ーほら」

「きゃあ!!」

くるくると回られ、クレインは思わずサイアンの服に掴まる。

「お、重たいですから、降ろしてくださいませ!!」

「駄ー目。何を作っているか、教えてくれる?」

「す、すぐに分かりますわよ!!」

ぽかぽかと叩く真似をすると、サイアンが口の端を上げる。

「楽しみだな。…私はこっちのほうが嬉しいけれど」

「は…? !!」

唇に軽くキスをされ、クレインはその場にへたり込む。

思わず唇に触れ、全身を熱くさせる。

ーわ、私のファーストキスが…!!

わーわーと心の中で叫び声をあげていると、執事のガイが見かねたのか、助け舟を出してくる。

「サイアン様、やり過ぎですよ。お嬢様はその、大人の扱いに慣れていらっしゃらないようなので」

「へえ…。ふふ。私の婚約者はどんな女性に成長するのかな?」

上機嫌機嫌なサイアンに対し、クレインはじっと睨む。

「ふ、普通にしてくださいませ!! お願いいたしますわ」

「嫌だ。私は命令されるのが嫌いでね」

「もう!! 知りませんわ!!」

クレインは立ち上がると、方向を変えて去ろうとしたのだが、サイアンが長い脚でついてくる。

側にはガイもついて来ており、クレインは振り返る。

「ついて来ないでくださいませ!! 私、機嫌が悪いのですの」

「え? 私は嬉しいけれど。どこに行くのかと思って」

「どこって、その」

迷っていると、メラが姿を現し、小声で伝えてくる。

「パンが焼き上がりましたわ」

「じゃあ食堂に置いてくれる? あと飲み物は…?」

クレインがゆっくり視線を送ると、サイアンが顎に手を当てる。

「何でもいいんだけど…ホットワインかな。お前はどうする?」

「私も同じもので。よろしくお願いいたします」

メラは頭を下げると、忙しそうに歩いていく。

クレインはどうしようと困ったのだが、パンが今日のメインなので、食堂へ案内することにする。

「食堂へお連れいたしますわ。ついて来てくださいませ」

「分かった。楽しみだな」

その言葉に嘘はないようで、サイアンが笑顔を浮かべる。

それだけで、くらりとする女性は多いのではないかと思ってしまう。

ー…私でいいのかしら?

急に自信がなくなり、足を止めると、サイアンが聞いてくる。

「どうしたんだい?」

「それが…その、私が婚約者でいいのかと思いまして」

「は? …あはは!!」

サイアンは声を立てて笑うと、クレインの手を繋いでくる。

その手は暖かく、冬の寒さなど気にしていない様子だった。

「私は君がいい。クレインが。楽しくてしょうがない」

「あの、私で遊んでいます…?」

「そんなことはないよ。さあ食堂へ行こう」

肩を抱かれ、促される。

クレインは仕方なく食堂に行くと、メラが準備してくれたらしく、パンがそれぞれの皿に乗っている。

「わ、くるみパンだ!! くるみパンですよ、サイアン様!!」

喜んだのはガイで、サイアンは冷静に室内の香りを楽しむ。

「バターとワインの香りと、これは…楽しみだ。わざわざ用意してくれたの?」

「そ、そうですわ。その…サイアン様が来るというので、その、私の得意なものを披露しようと思いまして…。駄目でしょうか?」

「駄目じゃない、駄目じゃない。ふふ、嬉しいな」

サイアンは子どものように瞳をきらきらとさせると、ガイが先に回り、席をひく。

クレインのほうはメラが動いてくれ、正面に座る形となる。

「あの気に入っていただけるといいのですが…?」

「自信がないの?」

「そ、そんなことはありませんわ!! 自信があります」

やけになって言い返すと、サイアンがふと笑う。

彼はパンを手に取ると、一口に分け、口に運ぶ。

それをクレインはじっと見、様子を窺う。

「いかが…?」

「うん、美味しい。美味しいよ…!! クレインは最高だ!!」

「…よ、良かった…」

クレインもパンを手に取ると、ちぎって口に運ぶ。

くるみの程よい食感と、パンのほのかな甘さが重なり、美味しさのハーモニーを生み出す。

ーよくできましたわ!! やったあ!!

思わず微笑むと、サイアンがホットワインを飲む。

「ああ、身体が温まる…。ガイ、どうだ?」

「美味しです!! 私までいただいて、申し訳ありません」

「いいのですよ。皆様、どうもありがとうございます」

美味しいは魔法の言葉で、クレインはにこにこと笑顔が浮かべる。

するとサイアンが手招きする動作をしたので、不思議に思っていると、彼はパンを指差す。

「ーこれ、クレイン。チュ」

「!! まあ!! そ、その、あの!!」

クレインのほうが真っ赤となり、よろめいたところを、メラに支えられる。

「あはは!! 楽しいの!! 楽しい。君、素晴らしいよ。私の奥様」

「お、奥様…!! ああ、もう…」

どうしたらいいのか分からなかった。

クレインは額に手を置くと、サイアンから顔を隠そうとする。

「こら。顔を見せて。可愛い人なんだから」

「か、可愛い…? えっと、その」

「何? 何か言うことがある?」

「私を、奥様にその、するつもりですか…!?」

「当然。あー、楽しい!!」

サイアンはご満悦で、クレインは頬を引きつらせる。

嬉しいような、面白いような、だけどとても困ったような、複雑な心境だった。

ーえっと…男性って、皆、こんな感じなのかしら…?

詳しく知らないので、戸惑う自分と、どこかどきどきする自分と、2つに分かれる。

ー私、どうなるのかしら…?

それは誰も知らないことだった。

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