第9話 最後の鍵――覚悟の先にあるもの
翌朝、アークライト探偵社はいつになく静かだった。疲れ切った三人が、机に資料を広げながら次の行動を考えている。
澪は封印の鍵を握りしめ、瞳を閉じた。心の奥にある覚悟が、重く胸にのしかかっている。
「これが最後の戦いになるかもしれない」
灯は澪の隣に寄り添い、励ますように微笑んだ。
「大丈夫。私たちはいつだって一緒だよ」
詩織は冷静に計画を練る。
「敵は次の策として、封印の核心を完全に破壊しようとしている。これを阻止するためには、私たちが迷宮の奥深くにある最終防衛装置を起動しなければならない」
澪がうなずく。
「その装置は封印を強化する力を持つが、同時に大きな魔力を消費する。成功すれば街を救えるが、失敗は……」
詩織の言葉は途切れ、空気が重くなる。
灯が強い意志を込めて言った。
「私たちが守るべきものは、もう目の前にある」
その夜、三人は神社の結界へと向かった。月明かりに照らされる結界は、まるで生き物のように揺れていた。
詩織は呪文を唱え、封印の核心へと続く通路を開いた。
迷宮の奥深く、冷たい風と暗闇が彼女たちを包み込む。
「気をつけて」澪が灯に声をかける。
灯は小さくうなずき、クロを抱きしめた。
進む先に待ち受けるのは、これまでとは比べものにならない強大な魔力と、最後の試練だった。
深部の広間に到着すると、巨大な魔法陣が床に描かれていた。その中央に封印の装置が静かに輝いている。
だが、そこに風間綾乃が立ちはだかった。
「ここまで来たか。だが、私がお前たちの進路を断つ」
激しい魔力がぶつかり合い、戦いの火蓋が切られた。
澪は灯と連携し、強力な魔法を繰り出す。詩織は装置の起動準備に集中する。
綾乃の攻撃は熾烈で、時折二人を追い詰めたが、諦めない心が彼女たちを支えた。
ついに詩織が装置の起動呪文を唱え始める。
魔法陣が光を放ち、強烈なエネルギーが周囲を満たした。
綾乃は最後の抵抗を試みるが、力尽きて後退した。
装置が稼働し、封印は強化された。揺らいでいた結界は安定し、静寂が訪れる。
澪は疲れた表情ながらも、満足げに息を吐いた。
「終わった……街は守られた」
灯は笑顔でクロを抱きしめた。
「みんな、よく頑張ったね」
詩織は静かに頷き、微かな笑みを浮かべた。
外では朝日が昇り、街に新しい一日が訪れていた。
澪たちの戦いは終わったわけではないが、確かな勝利を手に入れたのだった。