第5話 〜新たな依頼と小さな奇跡〜
朝日がカーテンの隙間から差し込む頃、澪はいつもの探偵社のデスクでスマホをいじっていた。
外からは商店街のざわめきが聞こえてくる。灯はまだ寝ているのか、静かな部屋に微かな寝息が響く。
「灯、そろそろ起きて。新しい依頼が入ったわ」澪は小さく声をかける。
パタリと寝ていた灯がもぞもぞ起き上がり、伸びをした。
「おはよー、澪!朝から探偵稼業だね。コーヒーはお願い!」
灯はパーカーのフードを被りながら、にっこり笑った。
澪は苦笑いしつつも、魔力でコーヒーを淹れ始める。香ばしい香りが部屋を満たした。
「さて、今回の依頼は『行方不明の子犬の捜索』よ。依頼人は近所のカフェの店長さん」澪はメモを読み上げる。
灯は「かわいい!子犬ってだけでテンション上がるね」と目を輝かせた。
依頼人のカフェは街の片隅にある小さな店だった。
澪と灯は依頼主の店長、山本さんと顔を合わせる。
「うちの看板犬のモカが、昨日からいなくて…心配で」山本さんは顔を曇らせる。
「モカちゃん、どんな子?」灯が優しく聞いた。
「まだ子犬で、茶色のふわふわした毛並み。好奇心旺盛で、よく商店街をうろうろするのが癖なのよ」
澪は周囲を注意深く観察しながら、魔力計測器を取り出す。
「魔力波動の痕跡は?子犬なのに、特別な力とか…」
山本さんは首を振った。
「いや、モカは普通の犬だと思うけど…でも昨日、何か変なことがあったの」
灯が身を乗り出す。
「変なこと?」
山本さんは小さな声で話し始めた。
「モカが消えた夜、近くの路地で急に青白い光が見えたって人がいるの」
澪は目を細める。
「……魔法の匂いね。さっそく調査を始めましょう」
二人は商店街の路地へ向かった。
澪が足元の地面を丹念に調べると、子犬の足跡が続いていた。
「モカ、どこに行ったんだろうね」灯が心配そうに言う。
路地の奥で、ふと灯が何かに気づいた。
「澪、あれ…!」
影の中に、小さな白い子犬が震えているのを見つけたのだ。
灯はそっと近づき、子犬を抱き上げた。
「モカだよね?よかった、無事で」
澪もほっと息を吐く。
しかしその時、背後の壁にうっすらと魔力の紋様が浮かび上がる。
「この魔力は…封印の力に似ている」澪は眉をひそめた。
灯はモカを抱きしめ、囁く。
「大丈夫、もう安全だよ」
モカの瞳が一瞬、わずかに光った気がした。
その夜、探偵社に戻った二人は、モカのことを話し合った。
「この子、何か秘密がありそうね」澪が言った。
灯はモカの頭を撫でながら、ふと思った。
「もしかして、クロと同じように何か守ってるのかな」
澪は微かに笑みを浮かべた。
「そうかもしれない。これからの調査がさらに重要になったわね」
翌朝、澪と灯はモカを連れて再び神社の結界付近へ向かった。
モカはまだ少し不安そうにしているが、澪の手にしっかりと繋がれたリードに安心感を得ているようだった。
「モカの魔力波動を測ってみるわ」澪が魔力計測器を取り出し、慎重に子犬の体にかざした。
「……やはり、クロと同じく強い封印の波動が検出される」
灯が驚いて目を丸くした。
「子犬にそんな力が?いったい何者なの…?」
澪は眉をひそめて首をかしげた。
「まだわからない。でも、私たちが巻き込まれている事件は単なる“魔法の失踪”ではない」
二人は結界の迷宮へ慎重に足を踏み入れた。
澪が手に持つ巻物が薄く光り、道標となる。
途中、壁の魔法文字が微かに揺らぎ、罠が仕掛けられていることを知らせる。
「警戒しながら進もう」澪が声を潜める。
灯はモカを優しく抱き、周囲を見渡した。
「怖いけど、私たちならきっと大丈夫だよね」
「ええ、諦めなければ」澪は強く頷いた。
やがて、封印の中心に繋がるとされる大広間に到着。
そこには古代の魔法陣が床一面に描かれ、薄暗い光を放っていた。
突然、闇の中から再びあの魔獣の唸り声が響き渡る。
「守護者がまだ動いている」詩織の声が緊迫する。
魔獣は巨大な翼を広げて飛びかかろうとしたが、モカが吠え声を上げ、青白い光を放った。
澪も灯も目を見開いた。
「モカ、あなたも守護者の一員だったの?」灯が驚きを隠せない。
モカの瞳は鋭く輝き、まるで言葉を発するかのように静かに澪たちを見つめた。
戦闘の緊張が一瞬和らぎ、澪はモカの存在の意味を理解し始めた。
「封印を守るために選ばれた者たち……クロもモカも」
灯はモカを抱きしめながら、決意を新たにした。
「この街を、みんなを守るために私たちはもっと強くならなきゃ」
澪は魔法陣に手をかざし、巻物の呪文を唱える。
「封印の解除条件と鍵はまだ謎だけど、私たちの絆があれば乗り越えられるはず」
詩織が静かにうなずいた。
「新たな守護者と共に、敵に立ち向かおう」
夜空に星が瞬き、澪、灯、詩織、そして守護者のクロとモカ。
彼らの戦いはまだ始まったばかりだった。