第1話 魔法猫、行方不明
商店街の端に、古びたビルが一つ。
その二階に、【アークライト探偵社】の看板が掛かっている。
表向きはごく普通の探偵事務所だが、依頼人の一部は「普通ではない」問題を抱えていた。
「で、これが今日の依頼書」
木製のデスク越しに紙を差し出したのは、黒髪ショートの女性――天城澪だった。
スーツの上着をきちんと着込み、切れ長の瞳で依頼内容を読み上げる。
「依頼人:佐伯。内容:愛猫“クロ”の捜索依頼。行方不明になったのは一昨日の夜。目撃情報によれば……“夜道で青白く光っていた”」
「ほうほう、つまり魔法の匂いがするってわけね」
澪の隣のソファで脚を組んでいるのは、相棒の御子柴灯。亜麻色のロングヘアをポニーテールにし、カジュアルなパーカー姿でやる気満々だ。
「匂い、というよりは反応だな」
澪は机の上の小型魔力計を指で叩く。「測定値がこれだ。小動物にしては異常に高い」
「じゃあ決まりだね! 早速商店街に行こ。……あ、たい焼き屋寄っていい?」
「現場に着く前に寄り道するな」
澪の声は冷たくも、完全に拒絶ではない。灯はそれを理解してにやりと笑った。
* * *
午後三時。商店街は平日の割に人通りが多く、夏祭り前の飾り付けがそこかしこに見えた。
澪は周囲を注意深く観察しながら歩く。その視界は魔術の“記録”ができるため、見たものすべてが鮮明に保存されていく。
「ねぇ澪、そっちは何かあった?」
「猫の足跡を見つけた。……ここから路地裏に入っている」
細い路地の奥は薄暗く、昼でもひんやりしている。
アスファルトの地面には、小さな焦げ跡が点々と――魔力痕だ。
「……これ、猫が残すにしては強すぎない?」灯が眉を上げる。
「同意する。おそらく外部から干渉を受けている。――おい、そっちは行くな」
「たい焼き屋こっちなんだよね!」
澪は深くため息をついた。
探偵の初動捜査は、今日もいつも通りに振り回される予感しかしなかった。
……。
路地裏は人通りがなく、昼間でも薄暗い。
壁際に並んだ古い木箱の上を、カラスが一羽、こちらを睨みつけていた。
澪は足跡をなぞるように進み、地面にしゃがみ込む。
黒い焦げ跡が丸く残っており、中心部は微かに青白く光っている。
「新しい痕跡だ」
澪は小型の魔力検知器を翳した。針が振り切れ、かすかな電子音が鳴る。
「一時間以内に魔法が行使されている」
「つまり、クロちゃんはまだ近くにいるかもってこと?」
「可能性は高い。ただし――」
澪の言葉を遮るように、路地の奥から「カランッ」と金属音が響いた。
灯がそちらへ駆け出す。
「おい、待て!」
「猫のほうから出てきてくれたら楽でしょ!」
路地を抜けた先は、小さな神社の境内だった。
赤い鳥居の前で、銀色に光る何かがすっと横切る。
「あっ!」灯が指差す。
猫――いや、猫の形をした何かが、鳥居をくぐって消えた。
その瞬間、周囲の空気がわずかに歪む。
「結界か……」澪は額に手を当てる。「この神社全体が魔術空間になっている」
灯は鳥居の前に立ち、ためらいもなく足を踏み入れようとする。
が、澪が腕を掴んだ。
「登録魔術師の印がない者は中に入れない。下手をすれば、体ごと拒絶されるぞ」
「じゃあ澪は?」
「私の免許は“鑑識用”だ。こういう侵入は許可外だ」
二人は一旦、神社を離れた。
商店街の角まで戻ると、灯が不満そうに口を尖らせる。
「せっかく見つけたのに」
「焦って突っ込めば、依頼人の猫どころかお前の命もなくなる」
「……澪って、ほんと心配性だよね」
澪は言い返さず、代わりにスマホを取り出して何かを打ち込んだ。
灯が覗き込むと、【魔術師登録局:周辺結界一覧】という公式アプリが開かれている。
「神社の結界……管理者は“葛城涼真”か」
「知ってる人?」
「大学の同期だ。記録系の同業者だが、なぜこんなところに……」
* * *
依頼人・佐伯の家は、神社から二本裏通りに入った古い長屋だった。
佐伯は四十代前半の女性で、小柄だが目つきは鋭い。
「クロは、私が一人になってからずっと一緒でした。夜は私の枕元で眠るんです」
彼女の声には、焦りと苛立ちが入り混じっている。
「一昨日、夜中に急に飛び出して……追いかけたんですが、あの神社の鳥居で消えてしまって」
澪と灯は顔を見合わせる。
「――その神社、普段から行き来してましたか?」
「いいえ。あそこは、変な噂があるんです。中に入ったら帰ってこられない、とか……」
佐伯はポケットから古びた首輪を取り出した。
「これ、クロの予備です。鈴には私の魔力を少し込めてあります」
澪は首輪を手に取り、魔力痕を慎重に記録する。
「これで魔力波長が特定できる。あとは……」
その瞬間、窓の外で小さな影が走った。
灯が飛び出す。澪もすぐに続く。
* * *
夕暮れの商店街。
灯が追った先には、昼間見た銀色の猫がいた。
しかしその瞳は金色に輝き、口元には小さな巻物を咥えている。
「クロちゃん!」灯が声を掛けた。
猫は一瞬こちらを見たが、くるりと背を向ける。
次の瞬間、地面に淡い魔法陣が浮かび――
ふっと姿が消えた。
「転移……!」澪が息を呑む。
「ねぇ、今の……普通の猫じゃないよね?」灯の声が震える。
澪は頷いた。
「少なくとも、この街における“普通”ではない」
二人はその場に立ち尽くす。
巻物――それは何なのか、なぜ猫が持っているのか。
すべての鍵は、あの結界にあることは間違いなかった。
澪はスマホを取り出し、短く文章を打ち込む。
灯も隣で、慌てて自分の画面を開いた。
お読み頂きありがとうございます。
説明にも書かせて頂いてますが本作はAI製です。
今後の勉強のため「何を感じたか」を書き残していただけると幸いです。