『百目に視線を向けられた学者の末路』 ~見られた瞬間、すべてが焼かれる~
その学者の名はエメット・フェルミン。
年若くして異世界科学庁の主席研究官に就任した才媛。
彼女の研究テーマは、**「百目ビームの原理」**だった。
「どうして焼けるのか。なぜ出力調整が感情依存なのか。
何より――“なぜ視線だけで焼けるのか”……私はそれを解明する!」
誰もが止めた。
百目を研究対象にするなど、自殺行為に等しい。
彼の視線には物理的な意味がない。
法則すら、常識すら、焼き尽くされるからだ。
だがエメットは怯まなかった。
「論文のためだし……あと、ちょっと怖いけど……正直……好みだし……(小声)」
そして運命の日。
百目を前に、エメットは目を合わせてしまった。
――その瞬間、焼かれたのは服だった。
「ふわぁぁあああ!?な、なぜ服だけ!?なぜピンポイントで!?」
「この子、恥じらいの波動がビームの偏向を誘発しておるな」
「むしろこれもう魔法じゃない!?」
百目は無言だった。
ただ一点を見つめていた。
エメットの胸ポケットに差された、論文の草稿。
ビーム、放出。
バアアアアアン!!!
草稿、焼却。
筆記具、溶融。
記憶媒体、完全消去。
――研究成果、跡形もなし。
後日、エメットは研究庁を辞し、森の中で暮らすようになった。
現在は**「焚き火と目線の伝道師」**として、各地でヒーリング講座を開いている。
彼女の残した最後の言葉が、石碑に刻まれている。
「見つめられたら、焼かれる。
でも……心は少し、温かかった。」
この現象は、後に「百目式視線情報消去現象」として学会に記録され、
同時に学会そのものもなぜか焼失した。




