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通り過ぎる部屋

 夏帆にとって、土曜日は「柊先生の日」。


 夕方になると夏帆は、彼が一瞬で通り過ぎるだけの部屋を片付け、どうせすぐに乱れてしまうベッドを整える。


 決して褒められることのない化粧を施し、瞬く間に汗と混じり合う香水をまとい、暗闇で剥ぎ取られる上下揃いの清潔な下着を身に付ける。


 何時間もかけて選んだ日の光を知らぬ衣服を着て、結局は自分の胃に収まる料理の味を何度も何度も確認し、引き出しの中の渡せそうにない合鍵を握りしめる。


 柊がドアを開けるや否や二人は抱き合う。そして服を脱ぐ間ももどかしく性急にベッドに倒れ込む。

行為の後、シャワーを浴びた柊は逃げるように部屋を後にする。


 ベットの中で時おり放つ「先生、好き」とか「愛してる」といった言葉を柊が受け流す時、夏帆の胸はちくりと痛んだ。


 柊が身体だけの関係を求めているのだと知っている。二人は週に一度求め合う、よく言えば「セフレ」、悪く言えば夏帆は「都合の良い女」。


 その証拠に、いつまで経っても下の名前を呼んでくれない。外では決して会ってくれない。キスはいつも夏帆から求める。


 夏帆は圧倒的に弱い立場だった。


 ただ「運命の人」を繋ぎ止めておくのに必死だった。



 六月に入って最初の土曜日、柊が部屋に来なかった。

 メールを送ると返事はただ一言、『忙しい』


 来週も、その来週も同じことが続く。電話には出てくれず、メールの返事も来なくなった。


 夏帆はどうすればいいかわからない。


 ただひたすら柊を待ち続けた。


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