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リンカーネーション  作者: 鹿十
第四章 ブレイザブリク応戦編
99/197

30cm×30cmの世界

異世界転移者もとい系譜は何かしら現実世界に思うことがあって異世界にわたった者が多いです。

しかし彼らは本当の意味で「現実世界」のしがらみから抜け出せているのでしょうか?

どこか現実から逃げてきた――そんな負い目があると思うんです。

転移者、漂流者、転生者含め現実世界の人間はそれと向き合わせてから死なせる――という自分なりのルールがあったりなかったりします

(勝負は一瞬で決まる。魂を消費した炎を放てるのはあと1回……)


 ピストル型にした右手を体の後ろに隠しながら。

 いつでも契約儀式の炎が発射できるよう準備をしていた陽太。

 そして陽太の頭の中には。

 零式の発言がいつまでも巡回し続けていた。


【樂具同は。盲目だ。つまり目が見えていない。己の力で空間を把握し力場を操作しているに過ぎない。そこが弱点だッ。以上!! 後は貴様の根性次第だッ! これくらいの壁を超えていけよッ?! 貴様も日本国民だろう。ではさらばだッ!!!】


 樂が盲目。

 それがどう弱点に繋がるのか。

 盲目とはいえ樂は己の力場区域操作能力を用いて空間を把握している。

 そのため盲目という点はそこまでハンディキャップにならない。

 

 だが――一つ陽太には引っかかる点があった。

 何故、樂具同は老人でしかも盲目であるにも関わらず。

 あれほど戦闘ができているのか?


 須田正義の場合は。

 あいつはただ、戦闘の形式をRPGに強制するだけの力だった。

 零式の場合は。

 己の体自身を根源の異なる力の対象として何らかのモデルを付与しているのだろう。

 では樂具同は?

 彼の力こそ脅威だが、本体は僕と同じく、外界樹素を乱す体質を持つだけの老人だ。

 いや、〔居合流〕で強化している僕よりも数段下のレベルだろう。


 だがしかし。

 樂具同は完全とはいえないまでも、ガルムの攻撃を華麗に避け。

 時折隙を見て反撃し。

 あろうことかミミズクやヨゼフたち猛者を相手に体術戦を成立させているどころか上回っている。

 つまり、樂のあの体術には何らかの種がある。

 

 そう思った陽太は。

 まず樂具同の「根源の異なる力」の性質をよく観察するために。

 前半戦はスノトラの掛けてくれた妖術で姿を隠しながらずっと分析をしていた。


 そこで分かったことがある。

 樂具同の区域内で顕現化する交通道路に関したオブジェクト。

 それらは全て実体がない。

 ただ見てくれだけが存在するだけで触れられないし干渉もできない。

 

 だから顕現化する電柱や横断歩道、ガードレールなどに深い意味はない。

 …と思い込んでいた。

 だが、時折、樂具同の周囲に構築される点字ブロックはどうだろうか?


 顕現化するオブジェクトは全てランダムに生成されているらしい。

 だが、点字ブロックだけは必ず樂具同の足元から展開されていた。

 樂が辿る道を指し示すかのように線上の点字ブロックが形成され。

 樂はそれを伝って歩く。

 そして点状のブロックが形成されると、樂はその場所で一旦止まる。

 するとまるで予知していたみたいに、ガルムの攻撃がその手前で発せられる。


 ここから導き出される結論は一つ。

 樂具同の根源の異なる力の副作用、又は副次的能力として。

 点字ブロックによる樂本体の誘導――があるのではないか?

 つまり区域それ自体が樂を守るように。

 区域に侵入した物体を計算し、樂に最適な場所へと誘導するよう点字ブロックが形成される。

 樂はそれを追っているだけに過ぎないのではないか?

 つまり簡易的な未来予知のような――盲目の樂でも攻撃を避けれるような機能が備わっているのでは。


 ただの仮説に過ぎない。

 が、この仮説が正しいのならば。


〔指定方向外進行禁止――右折〕


 僕の体が力場作用を受け右折する前に。

 僕は区域中心にいる樂に向かって全速力で駆け出す。


 そして樂が警戒して構えると。

 地面から点字ブロックのオブジェクトが生成。

 線上の点字ブロックが連なり、4メートル先、南西側に点状突起型の点字ブロックが生成。

 

 僕は接近しつつ、体術戦に持つこむ。

 力場操作能力が発動する前の微々たる無駄な抵抗――に樂には見えただろう。

 樂は適当に僕の拳をいなし。

 そして詠唱を完了すると、僕から離れる。

 力場の力が加わる、右方向にとてつもない耐え難い力で引きずられる。

 が、僕は点状突起型のブロックに向け。


〔『契約儀式』フレアッ!〕


 賭けだった。

 樂が身の危険を感じた時。

 本能的に、点字ブロックに頼るかどうか。

 もし頼らず、自立して動いたとしたら。

 契約儀式の炎は当たらない。

 しかし、樂が。

 もしも――点字ブロックに全面の信頼を置いていたら。


【儂はの、この世界に来て、やっと自由をえたんじゃ。いつも歩道ブロックにしか進めない。そこにしか儂の居場所はなかった。だがこの異世界では、儂は全てを掌握できる。みたいものを見て、進みたい場所を選び、生きたい所へ行ける】


 樂はこのように啖呵を切っていたが。

 樂は実は、まだ、盲目者の頃の名残で、無意識的に、危険を察知した時に。

 思わず点字ブロックに頼ってしまうのならば。


 否、僕は樂の精神性を理解していた。

 確信していた。樂ならばそうする。


(こいつは――捨てきれていない、自由なんかじゃない。まだ現実世界の延長線上にいるだけだッ!)


 樂は僕の詠唱を聞くと。

 身の危険を感じ。

 足が動く。

 足が地面の感触を探し回るように動き。

 そして点字ブロックの場所を補足し。

 僕の読み通り。

 点字ブロックの――誘導に沿って動いた。


 ぼうっという。

 燃え盛る音が響く。

 着弾した音だ。


 樂はやはり、点字ブロックの誘導を選んだ。

 僕は瓦礫に衝突し、右腕を骨折したものの。

 痛みを我慢して燃え盛る樂に近づいた。

 樂は燃える炎を消せず、のたうち回って燃焼の痛みに悶えていると。

 数十秒後、僕が起き上がったのと同時くらいに。

 ポトリと地面に横たわった。


 燃え盛る中。

 樂は痛みよりもむしろ、己の人生を振り返ることに勤しんでいた。


(が……気づいておったのか……)


【陽太の推察は当たっていた】


【樂の『根源の異なる力』の隠された第二の能力――半径13m以内の物体の空間把握及び物理演算】


【力場に侵入してきた物体の運動ベクトルを認識、解析し、術者である樂を点字ブロックで安全な場所へ誘導する】


【しかし――計算、演算できるのは『術式』や『運動エネルギー』『ベクトル』のみであり、魂を消費した契約術式などは演算不可能である】


 樂は体表を焼かれる激痛を味わいながらも。

 酷く冷静だった。

 死にゆくまでの僅かな十数秒の余命を。

 彼は、自身の人生の内省に費やすことを決めた。


(……儂の能力ゆえの欠点…………いや、違う。点字ブロックでの物理演算、誘導は完全ではない。それは儂も分かっていたはず。だからこそ、点字ブロックに頼らず、自身で判断し、自身で決定することもできた。選択権は儂にあったのだ……しかし儂は…………最後の最後まで、点字ブロックを信用した……)


 そうか。と気づく。

 陽太の発言が骨の髄に響く。

 自分の最大の欠点。

 根源の異なる力という強大で無慈悲な身に余る力を得ても尚。

 ただの――立花陽太という青年に敗北した真の理由は――


(30cm×30cmの世界……儂は……結局……異世界に来たとしても―)


 その黄色の小さな、凹凸。

 それを伝って、歩く。

 くだらなく、限定された、暗闇の。

 暗い暗い深淵。

 定められた経路。

 30cm×30cm程度の、小さな点字ブロックの。



(――その小さな世界から、恐れ、ついぞ抜け出せなかったのだ)

 

 系譜。

 樂具同は。

 己の矮小な人生を自嘲するように笑いながら。

 燃え盛り、灰となり、死んでいった。

 その魂が生きるに値したかどうかは、その人生に意味があったかどうかは。

 彼岸のみが知り得る話である。

 

 


 

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