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リンカーネーション  作者: 鹿十
第四章 ブレイザブリク応戦編
97/197

【分相応】

 僕が疎開していた街の近隣にある村が「呪術」の被害を被ったらしい。

 その効果はそれほど凶悪なものでは無かったらしいが、使用されているルーン文字の解読に必要以上に時間がかかり、対立術を編纂するまでに4日と3時間必要とした。

 その結果、市民の大多数は死亡。

 唯一残されたのは僕と同じ年の少年だったらしい。

 

 僕がネリネ家の末裔であるということを知る人は少ない。

 僕の疎開先で、僕の衣食住を賄ってくれているおばさんくらいである。

 ネリネ家であることに誇りなんて持ってはいなかった。

 大量呪殺を実行した汚れた血。

 その血が僕の体の中に流れている。


 残された一人の少年はどんな気持ちだったろうか?

 村に帰ってきた時、全てが奪われ、家族も家も何もかもが全て消え去っている気持ちは。

 一体どんなものなのだろうか?

 想像すらできない。

 謝罪をすべきなのか。

 呪術を生み出した、汚れた愚かな名家の末裔たる自分を。

 殺すことでその少年の気が少しでも晴れるならば。

 僕は喜んで自分自身を差し出すと思う。


 近場の村の呪殺被害を聞いたとき。

 その日は雨の降る日だった。

 ずっとどんよりとした重たい空気が蔓延しているような、そんな感じの悪い日に。

 数キロ先に見える、呪いで被害を被った辺境の村を窓越しに見つめながら。

 哀れみと懺悔の気持ちを込めつつ。

 そして、深く眠りについた。



 ただ飯くらいは気分が悪かった。

 僕の生活を支えてくれているおばさんはネリネ家に仕えていた執事だった。

 だからおばさんは、分家の子とはいえ僕にはとても甘く。

 すぐに「おぼっちゃま」と呼んでくるからその都度背中が痒くなった。

 ずっと甘やかされているのも嫌で。

 だから日中は建築の仕事に携わって日銭を稼いでいた。

 「自分で働いた金で食べていく」と伝えても。

 おばさんは「それはいけません」と否定するが聞く耳を持たなかった。

 

 そして仕事が終わった夕方以降は。

 近場にある教会でボランティアをした。

 教会の掃除や祈祷、貧民者への食料の配布など。

 他人のためにできることは全て無償でやりたかった。

 そうしないと罪悪感で一杯になるからだ。

 

 その教会は、月に2回程度。

 何故か教会の地下に人が集まり、何かの会議をしていた。

 集まってくる人は皆顔色は良いとはいえず。

 どこか虚ろな、生気のない目をしていた。

 気味が悪かったが。

 その教会は「無神教会」と言われるもので。

 特段、何か特定の神を祀っている場所でもない。

 皆が好きなように、自分の信じる神を、天使を、ただ祈る。

 そうゆうことが許されていた所だったから。

 気味が悪いとは思いつつも対して気にはしていなかった。


 そしてその日が訪れた。

 僕はいつもどおり教会の掃除をするためにモップと箒を持って教会内に入る。

 ギギギと、軋んだ扉を開けると。

 中央にレッドカーペットが引かれたその先にある祭壇に向かって。

 何か祈りを捧げている少年がいた。


「……あの、すみません。この時間はもう進入禁止で……」


 注意をしようと声を掛けると体をビクリと震わせこちらを見る。

 猫背で、目の下には何重ものくまが付いていて、気弱そうな少年がいた。


「……あ、……す、すみま……せん」


 少年は目も合わせずモジモジとしている。

 どうやら人と接するのが苦手な子のようだ。

 手には何かの金属? で出来た文様を握りしめていた。


 それが僕、アマルネ=ネリネとヨゼフ=クローネの出会いだった。



 僕とヨゼフはいつの間にか打ち解けていた。

 ヨゼフは夕方以降、決まった時間に必ず教会に訪れていた。

 何の神を崇拝しているのかは聞かなかったが、一回も途切れること無く決まった時間に訪れ続ける彼の信仰心の強さには正直感服した。

 かなり警戒心が強い男だったが、一度仲良くなってしまえば意外と沢山喋る。

 どうやら彼は大気中の樹素を知覚することができる特異体質の持ち主らしい。

 その話を聞いて「まるで魔族だな」と冗談で言ってみたが、ヨゼフは不服そうな顔をした。


 そうやって暮らしていくこと数ヶ月。

 成長期だったからか僕もヨゼフもどちらもこの1年で大きく背が伸びた。

 特に、小さくてひ弱そうなヨゼフは十数センチも身長が伸びついには僕をも追い越しているが。

 当の本人の気弱さは変わらず、そして猫背も変わらないので実身長より若干低く見える。


 そんな時、悲劇が訪れる。

 その日も防風で暴雨だった。

 家が吹っ飛ぶんじゃないか? と思わず想像してしまうほどの風がびゅうびゅうと吹き抜ける。

 僕がいつも通り建設業のアルバイトを終え、おばさんの家に戻ると。

 おばさんは、カウンターに寝転んでいた。

 こんな所で寝ているのか? 随分と疲れが溜まっているんだな。

 と……思って。

 椅子にかけてあった毛布を取り、それをおばさんにかけようと近づくと。

 異変に気づいた。

 

 呼吸をしていない。

 顔は真っ青で、腕には……謎の言語体系がびっしりと刻印のように刻まれていた。

 この刻印の正体を僕は一瞬で理解した。

 そう……ルーン文字だった。


 おばさんを担いで、急いで暴雨降り注ぐ野外に出た。

 そのまま街の病院へと運ぼうとする。

 が……また異変に気づく。

 やけに街が静かだ。

 いや、住居の光がない。

 皆、どこかに引っ越してしまったかのような。


「……まさか」


 呪術の大量虐殺。

 数ヶ月前に近場の村で怒った呪殺事件を思い出す。

 まさか。いや、しかし否定できない。

 どう考えても、おばさんの体を蝕んでいるのは「呪術」だ。

 ネリネ家の僕だからこそ理解できる。

 これは僕が背負ってきたカルマそのものだったからだ。


「……クソ……なら……」


 病院にいっても無駄だ。

 呪術の対立術式の編纂なんて辺境の医者ができるわけがない。

 少なくともーー王都に使える魔術師レベルの者が必要だった。

 だが暴雨。

 しかも王都からこの街は大分距離がある。

 呼んだとしても川が反乱してるだろうし迂回せざるを得ない。

 最短で半日は掛かるだろう。


 頭の中にはヨゼフの姿が浮かんだ。

 そうだ彼なら。

 彼は精霊術が使える。

 ならば精霊から逆編纂する形で呪術の対立術を組めるのではないか?


 そう思っておばさんを担ぎ。

 教会へと向かう。

 靴と体が泥だらけになる。

 雨と暴風に打たれ、前方がはっきりと見えない。

 それでも何とかおばさんを担ぎ、教会の門を押し、そのまま倒れるように内部に転がり込んだ。


「ヨゼフッ!!」


 声を荒げると

 そこには想定通り。

 いつものように祈祷しているヨゼフの姿があった。


「ヨゼフッ! 頼むッ!! 呪術の被害だ! 街中の人間が呪術に掛けられているッ! おそらく街全体を囲う結界が貼られているんだッ、おばさんの命が……皆の命が危ない! オマエなら何とかd」


 ヨゼフは僕を心底冷たい目で見つめ、侮蔑し。

 そしてゆっくりとため息を吐いて


「で、また僕に頼る気か? アマルネ=マルカトーレいや……アマルネ=ネリネ」


 びくりと心臓が鼓動した。

 ヨゼフには僕がネリネ家の末裔である情報を話していない。

 いや、ヨゼフどころか知っているのは街中でもおばさんだけだ。

 

「な……ど、どうして」

〔『式』系統は霊素ーーオーレ・ラリエ・パトファゴレ〕


 ヨゼフが詠唱を始めると。

 ヨゼフの周りをホタルようにキラキラと光りながら周回していた精霊がアマルネに近づき。

 そのまま発光しながら大きくなり「手の形」となってアマルネを壁に叩きつけ拘束する。


「ッ……何故? なんでだよッヨゼフッ!」

「……数年前、近場の村で呪殺事件が起きたことは知っているな。アマルネ=ネリネ」

「!!」

「僕はその生き残りの少年だ。霊術で転移したからかな? どうやら結界の条件に組み込まれていなかったようで、僕は呪術の被害を受けずに済んだ」

「……ヨゼフ、お前が……」

「その後はずっと機会を伺っていたのさ。ネリネ家の末裔のことを、ね」


 衝撃の告白だった。

 体を動かして離れようとしてもてんで駄目だった。


「どういう気持ちだったんだ、ネリネ家の末裔として、アンタはどう感じた? あの事件を」

「……ヨゼフ…………」


 言葉が出なかった。

 何か取り繕ってでも、何か言葉を探そうとした。

 だが、何も出てきやしなかった。


「何も言わないか……」

「お前がやったのか? 今日の呪殺事件を……」

「いや、僕じゃないよ。僕が関わっているとは言ってはいいけどね」

「?! ……どうゆう意味だ? 答えろッヨゼフッ!」


 ヨゼフは人差し指で地面を指し


「この地下で時々集会が行われてたろ? あれは僕が加盟している……『聖骸連盟』の会だったんだよ」

「聖骸連盟……だって?」


 聖骸連盟。

 それは呪術を呪い、呪術を嫌い、呪術を排斥し、呪術を憎む。

 僕の母や僕の家系ーーネリネ家を殺害した組織。

 

「聖骸連盟が呪術を扱って人を殺しただと?」

「毒を持って毒を制す……って言うだろ? 呪術を扱い罪を犯した者は皆呪術で殺されるべきだ、それが聖骸連盟のモットーでね」

「…………ッ狂ってやがる」

「この街と、僕の村、両者の間にある渓谷、そこに埋蔵されている大量の樹石……これをどちらの所有物とするかで揉めたらしい。議論は白熱しついには実力行使にまで至って……王都に採決権が与えられることになったんだ、そして最終的な所有権は僕らの村の方にあると決定された。その渓谷は昔から僕らの村の先祖が連綿と開拓してきたものだからね。でもこれを気に入らなかった、この街の上層部の連中は、特定排斥種の『二十四徒』と手を組み、呪術を行使。僕らの民族を抹殺することで樹石の所有権を強引に自分のものにしようとした」

「……だからって、ヨゼフ、お前が敵討ちを……罪のない人だっていたんだぞッお前はそれを全部纏めて殺そうとしたんd」


 だが、アマルネが言葉を発し切る前にヨゼフが冷徹に口を挟んだ。


「罪のない人を纏めて殺した? ハッそれって全部君のせいだろ? アマルネ=ネリネ」

「は……それは……どういう……」

「聖骸連盟の調査の結果、数年前の僕の村の大量呪殺に使われたルーン文字の体系は……君が所有している文献に乗ってるものであることが分かった」

「……そんな」

「……その様子だと、君じゃないか、ってことは君の横で死んでるそのお婆さんの仕業かな?」


 アマルネの首筋に嫌な冷や汗が垂れ流れる。

 そうだ。

 ネリネ家から代々伝われてきた書籍は、僕の部屋の引き出しに厳重にしまってある。

 持ち出せるといたら、おばさん以外に存在しない。


「おそらく金か何かを取引材料に出されて、欲望に目がくらんだんだろうね。それで、君のおばさんはこの街の上層部に呪術の情報を提供した……君の面倒を見ていたのは、それがバレた時、全ての責任と罪を君におっ被せるつもりだったからかな? まあどうでもいいことか、どうせ死んでいるんだし」

「……そ、そんな……」


 思わず絶句する。

 あれほど優しく、献身的に身を粉にして面倒を見てくれていたおばさんが。

 実は僕を利用していただけだったなんて。


「ハハ、いい気味さ。それが僕が味わった苦しみだよ、アマルネ=ネリネ、そうやって全てを奪われた気持ち。やっと理解できたか? そして奪った者が、のうのうと生き残っている憎しみ」

「…………」

「言葉にも出来ないか。聖骸連盟に入会したかいがあったよ、聖骸連盟はとても嫌な組織でね。表向きは呪術の被害者を救済する宗教団体って面をしてるけど、その実、呪術の情報や含蓄を保有してそれをどうやって現代の対立術式に打ち消されない形に昇華するかを考えている……人を殺すことしか頭にないクズどもばかりだ。『呪術の被害者』という免罪符をいいことに、呪殺を繰り返しているだけだ」


 アマルネは何も話さない。

 ヨゼフだけが空虚な、何もそこに孕んでいない笑顔で笑っている。

 無理して、笑い続けている。


「……なあ、ヨゼフ、じゃあなんでお前は僕をもっと早くに殺さなかったんだ?」


 ヨゼフの空虚な笑いが止んだ。


「……」ヨゼフは黙る。

「君は迷っていたんじゃないか? ずっと。ここで毎日祈っていたよな、あれは誰に向けたものだったんだ?」

「……それは」ヨゼフは言葉に詰まる。

「あててやろうか、きっと……呪術で殺すことになる被害者に向けて……だろ」

「!!……」


 ヨゼフは本心を当てられ、黙り込む。

 俯く。いつもの気弱げな様子に戻っている。


「たとえ加害者であろうが、たとえどんなことをされようが、その相手を殺して、呪って……それで気分が晴れるような男じゃないってことを僕はよく知ってる」

「……だまれ」

「精霊に愛されるような子が、復讐してやりたいなんて、思うはずがないことを知っている」

「だまれ」

「踏んだ花のことすら、潰した虫のことすら、気にかけてしまうような繊細で優しい君が、大量殺害なんて企てて、正気でいられるはずがないことを僕は知っている」

「だまれッお前に何が分かるんだよッアマルネ=ネリネッ!」

「……僕は逃げた人だ」


 アマルネは語りだす。

 その口調に怒りも後悔もない。


「君の村が呪殺されてどう思ったって? 僕は『可哀想だ』としか思わなかったよ。僕に流れるネリネ家の血も、『こんな血が流れている僕は可哀想だ』って思っていた。それが本心さ。僕はずっと自分のことしか考えていない。ずっと逃げている。ネリネ家の汚名からも、呪術の罪からも……けどヨゼフ、君は違うだろ? 君はそうやって非情な現実に対して『しょうがない』ってそんな逃げと諦めの言葉で現実逃避してやり過ごすことができるほど、バカでも、愚かでも……そして非情でも……強くもないことを知っている」

「……」

「殺したいなら殺せばいい。だけどここで僕は死んでも……僕は自分のことを『運がない可哀想な男』だとしか思わない。分かるかい? 反省なんかしないで死ぬんだよ」

「……」

「罪を背負って死ぬのなんか簡単さ。一番楽なやり方だ。それですむならそうしろよ。僕としてはラッキーだな。罪を背負って生き続けるほうがよっぽど辛いんだから」

「……」

「それに、僕を殺してくれる相手は文字通り呪術で被害にあった者だ。そんな奴に僕が殺されるとなれば……それは願ってもないことだ。僕が思い描く最高の死に方だ。それで僕の罪は文字通り死を持って晴れたことになるんだからな」

「……」

「だけど僕はそんな死に方はまっぴらごめんだ。今気づいたよ、僕は無意識のうちに逃げていたんだ。罪からも、全てから、人生から。その逃げ腰な僕の背中を後押ししてくれるのならこんなに都合の良いことはない……」

「……」

「さあ、僕を殺せ。ヨゼフ=クローネ。君にはその覚悟と権利がある」

「…………止めだ」


 アマルネを拘束していた光が縮み弾ける。

 アマルネの拘束は解け、そのまま地面にべたりと落ちる。


「……アホらしくなってきた。なんでこんなことをしてるんだろう? アマルネ=ネリネ、アンタの言う通りだよ。僕はアンタの……盛大で自己陶酔的で、素晴らしい自殺に、肩を貸すことになるだけだ」

「……そうか」

「あーあ……はあ、……どうしようか……もう……大量の罪もない人たちが……僕は君と一緒だ、アマルネ=ネリネ。君と同じ、自己憐憫に浸って、意味もない殺戮に加担した罪人に過ぎない」

「まだ諦めるなよ、呪術が僕の書物に乗ってるモノと同じものならば、僕が解呪できる」

「それをどうやって全員に付与するんだよ、何万人がこの街にいると思っているんだ」

「……精霊術で結界を貼ればいい、ヨゼフアンタならできるだろ」

「……」

「とりあえず救えるモノは救おう、目先のものは全て」

「……そうだな、四の五の言ってられない」


 そうして呪術に貼られた結界をヨゼフの精霊術でそのまま転用。

 それを起点に式を発動し、対立術を結界に付与。

 数時間後、暴雨が晴れていくと同時に対立術の効き目も出てきたようで。

 それは天の神様のささやかないきはからいか、晴天が覗かせると同時に街に仕掛けられた呪術の効力も解呪できた。


「晴れてきたな」


 雨で濡れた顔を袖で拭いながら、そばにいるヨゼフに話しかけた。

 そこは街の辺境で、周りは森。

 体は泥と雨で汚れていて。

 地面もぐちょぐちょで、踏みこむたびに履いている靴ごと脱げそうになる。


「……これで救えたな全員」

「救ったんじゃない。本来死ぬ必要のなかった人を……殺した人を蘇らせただけだ」

「そうだな」


 そんな疲労困憊の僕らの元に。

 森の木々の影から現れたのは。

 十数名の魔術師集団。


「こいつらは……聖骸連盟の魔術師だ」ヨゼフが言う。

「……どうやら呪術を解呪されてご立腹なようだな」

「どうする? このまま大人しく殺されるか?」

「まさか、戦闘はできるか?」

「……まあ、そこそこは」

「援護してくれ、僕は光の術式を使う」


 そうして十数名の魔術師を相手に死闘を繰り広げる。

 疲労困憊の体だが、何とか勝てたのは。

 ヨゼフのサポートが実に素晴らしかったおかげだろう。

 どうやら僕らは思いの外相性が良いらしい。


 そうして十数名もの魔術師を軒並み気絶させた後。

 二人して地面に大の字で寝そべり。

 爛々と輝く術式天体アウストリを見つめた。

 そして


「これからどうするか、ネリネ家の末裔と、聖骸連盟の生き残り、どこにも居場所なんてないな、お互い」ヨゼフは息を切らしながら語る。

「……南西にある城郭都市グラズヘイムってところに……新しくギルド支部が立つらしい。ギルドならどんな荒くれ者でも、身元不明なものでも、雇ってくれるし。呪術の事件にも関わることになるだろう、それに魔物を倒せば、それだけ多くの人を救える」

「……三万千二百人……」


 ヨゼフはぼそっとつぶやいた。


「僕が殺そうとしたこの街の住民の数だ、それ以上の人間を救うまでなら、ギルド隊員になってやってもいい」

「ははっ……そうか、じゃあ僕はネリネ家の犯した罪を全部背負うことになるから……えーっと100万弱かな?」

「千万弱の間違いだろ」

「そうか、はははッ、じゃあ合わせて千三万千二百名救うまで、死ねないな、僕たち」


 二人して大笑いして、その後、泥だらけの体で。

 馬車に乗り込んだ。おばさんのポケットから奪い取った銀貨を手にして。

 そして街の市長の家には。

 おばさんが犯した罪を書いた書類と証拠の呪術の本。

 そして王都への連絡書を残して。

 僕らはグラズヘイムに向かった。



「パーティー名……というより、なんの名前で登録しようかな」


 グラズヘイムのギルド、そこの酒場で二人で対面で座り喋る。 

 少ない金でギルド隊員を行うに必要な物品や装備は最低限揃えた。

 これからは僕とヨゼフ以外のパーティ隊員と、低級のクエストをこなし日銭を稼ぎながら、装備品のアップグレードを図りたいところだった。

 だが、問題があった。

 僕はネリネ家の偽名を使えない。

 そうやって迷っていると、ヨゼフが呟く。


「マルカトーレ」

「え?」声が小さく聞き返す。

「マルカトーレでいいだろ、僕の村の、隣に済んでた家の名前だ。サラム=マルカトーレ。1歳にも満たない頃から仲が良かった子だったんだ。ずっと親友だった、呪術で死んじゃったけどね。そこからとってアマルネ=マルカトーレ」

「……なぜ?」

「……アマルネが忘れないように、だよ。自分の罪をな。僕はまだアンタを許しちゃいない。いや、死ぬまで許さないだろう。だから死ぬまで君のそばにいる。君が罪の意識にずーっと苛まれていられるよう、死ぬ気でサポートして守ってやる。君の先祖が呪殺した以上の数の人間を……君が救う……その日まで、そのマルカトーレの名を罪の証明といて背負い続けろ」

「はは、そういうことか、うん。アマルネ=マルカトーレ、いい響きだな」

「だろ? よく覚えておけよ、僕がアンタの本当の名……アマルネ=ネリネと呼ぶまで、僕はアンタを許さないってことだからな」

「はは、よく覚えておくよ」


 こうやって、僕とアマルネはこれから3年半。

 ギルドで隊員として。できる限りの人を救う生活を続けた。

 ずっと、ヨゼフとの、そして自分に流れるこの血への贖罪のためにも。


 

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