作戦会議
「作戦会議をしよう」
アマルネ、ヨゼフ、スノトラ、フレン、そして合流した陽太が円になって議論をする。
時は僅かに遡り、オーディンが羽化した後のことだった。
「現状を整理しよう。まず中心部にある肉の繭はおそらく神種の卵。陽太君の話だとジギタリス家が関わっているって?」
アマルネが話を陽太にふる。
陽太はコクリと頷いて。
「そうだ。零式っつー男が『リーヴ=ジギタリス』という名を言ったのを確かに覚えている」
「そして陽太とフレン、スノトラはジギタリス家の外交役『フィマフェング=ジギタリス』の口車に載せられてこの幽霊都市にやってきたと」
アマルネが話をまとめた。
するとフレンがため息を吐き、やってらんない! という呆れた顔で
「上手く全部ジギタリス家にハメられたってことよ、胡散臭いとは思ってたのよねアイツら」
「まあ、そこの所は後で問い詰めるとして……そうなると肉の繭の正体は十中八九『ジギタリス家』の崇拝神『オーディン』だろう」
「なるほど。オーディンは確かに樹界対戦時に死亡している。だから儀式をして復活させたというわけなのね。おそらくこの幽霊都市全体を巨大な『式』に仕立てあげ、何らかの方法で強制的にオーディンを生み出した……無茶するのだわ」
術式オタクのスノトラは少しばかりジギタリス家を感心するかのように呟いた。
そしてその言葉が場違いだったことを知り、慌てて口を硬く結ぶ。
「中心部にはオーディンの繭と、その下には石化し封印されたシグルドさんがいる。そしてそのシグルドさんを守っているのはーー樂具同という……系譜? と言う奇妙な力を使う者。陽太君の証言だと大規模ダンジョンの最下層にいた『須田正義』と同じ類の力を使うという」
確認するかのように陽太の眼を見つめるアマルネ。
すると口を挟んだのはフレン。
「…そうすると逆立ちしても勝てそうにないわね」
「普通なら、な。でもこっちには陽太君がいる。陽太君は樂具同の力の正体が分かるんだろ?」
「ああ、おおよそ検討はついてる」
頭の中で「交通規則」をイメージする陽太。
間違いない、樂具同の「根源の異なる力」のモデルは「交通規則」だ、と再び確信を強める。
「樂具同に加え、確認しているだけでもゾンビの原生魔獣とメデューサの原生魔獣の2体。そして陽太君が出会ったとされるもう一人の系譜」
「でも、そいつに関しては多分大丈夫だ。まずあまり僕たちと戦う気が無さそうだったし」
「多分ってどういうことよ。相手は須田正義と同じ力を持ってるヤツなんでしょ? もし襲ってきたら、多分なんて言葉じゃすまされないのよ」
フレンが突っ込む。
陽太は「ごもっともな意見だ」と思い何も言い返せない。
「つまり最低でも僕らには3名の強敵がいるってことになる。それを僕たちと、そして幽霊都市にいるらしいガルム、そしてミミズクという剣士。もしかしたら他にも剣士が残ってるかもしれないが……これは確証がない」
「僕たちだけで倒さないといけないんだ」陽太は言いづらい事を口に出した。
真実ではあったが、言いたくはなかった。
とてもじゃないが、倒せる気がしないからだ。
皆がシーンと静まる。
誰も声を出さない虚無の時間が続く。
沈黙を切り裂いたのは、フレンだった。
「いちいち落ち込んでいても仕方ないわ。誰がどいつと戦うかはっきり決めましょ。役割分担よ」
「戦力を分けるのはあまり良くないんじゃないか?」
アマルネが指摘する。
が、フレンは意見を変えない。
「無策で強敵に皆で突っ込んでって、纏めてやられる方が悲惨でしょ。ゾンビの原生魔獣も、ゴルゴンとかいうメデューサも、そして樂具同も、皆、アタシたちを一発でみな殺しにできる超火力の範囲技持ち。なら戦力を分けた方がまだ勝機があるでしょうに。それにアタシたち、寄せ集めの戦力。パーティーでも剣士みたいに共闘する訓練も積んでないのよ。そんなアタシたちが急に連携を取れて戦えると思ってるの?」
「……そうだな。それぞれ分散して戦った方が良い、それに僕らは……フレンやスノトラにとって足手まといでしかないしな」
フレンの意見に押され、アマルネは口をつぐむ。
「そういうことが言いたかったわけじゃないけど、納得してくれるならそれでいいわ、じゃあ役割分担を決めましょ。とりあえずヨータは樂具同とかいう系譜と戦うのは決定ね」
異論はないーーと陽太は頷く。
フレンは話しを続ける。
「ゾンビの原生魔獣はアンデットだから、光術式が使えるアマルネを当てた方が良いんだけど……生憎、アイツは妖術に長けてる。どこに行ったのかは知らないけど、内包樹素が探知できないから身を隠して回復してるんでしょうね。これじゃ探しようがない、だからゾンビの方はとりあえず無視。誰かが発見したらその後はアマルネに連絡。それまであんたは待機、一番見晴らしの良くていつでも駆けつけられそうな場にでも行ってなさい」
「いや、僕もゾンビを見つけるまでは樂具同と戦うよ」
アマルネが意見する。
「はあ? じゃあゾンビを見つけた時、どうやって駆けつけるのよ」
「それは……大丈夫……だよ」
気弱そうに、震えた声で喋り出すのはアマルネの横で小さく体育座りをしていたヨゼフ。
少しだけ手を上げているが、皆の視線が集まると恥ずかしそうに目をそらす。
「僕……精霊使いだから……」
「え? ってことは……アンタ、霊術を使えるワケ?!」
「ん、うん。ちょっとくらいは……だから……『空間転移』術……あるから、いつでも駆けつけられる」
「嘘でしょ! アンタ凄いわね!! アマルネよりよっぽど役に立つじゃない!!」
フレンは感心してヨゼフの背中をバチンと叩いた。
アマルネよりも役に立つーーという言葉のナイフが他ならぬアマルネの胸をぐさりと貫いた。
「なら話は変わってくるのよ。ヨゼフさんの転移術を使えば、いつでも戦線離脱できるし、戦力の幅が大きく拡張される」
「そう……しかも……僕……ゾンビの魔獣と戦う前に……王族直属の治癒術師部隊の、数人を集めて……一番安全そうな場所に隔離……しておいた、だから……大きな傷を負った時は、そこに転移させて回復させる」
「ヨゼフだっけ? アンタ、MVPだわ! 見た目とは違って頼りになるじゃない!」
ヨゼフは褒められて恥ずかしそうに頭をかいた。
「そう、だから僕と陽太は樂具同と対戦。ゾンビの原生魔獣が見つかれば転移しそっちに加勢する」
「流石にもう一人くらいは欲しいよな。僕とアマルネだけじゃどうにもならなそうだ」
「じゃあ私がいくのよ」
スノトラが挙手した。
「スノトラか、それは心強いな」
「ガルムは今、樂具同と交戦中なのでしょ? ガルムは私が躾けないと、馬鹿なことするのよ」
「じゃあ、ゴルゴンっつー原生魔獣は、フレンとヨゼフで?」
「いいや、アイツはアタシ一人で何とかする」
「「「「え?」」」」
アマルネ、陽太、スノトラ、ヨゼフ。
4名が同時に驚く。
「それはさすがに……」
「いくらフレン先生といえど……単独は危ないのよ」
「いいのよ。アタシ、一人で戦ったほうが自由にやれるから。それにあのゴルゴンとかいうヤツに舐められたままじゃ駄目なのよ」
【魔族であるにも関わらず、術式回路を持っていないのですね。人間と魔族の混血といった具合でしょうか。どちらに属することもできない、可哀想な孤独な者……ああ、なんと、みすぼらしいことか。孤高と孤独を履き違えないでいただきたい】
ゴルゴンに言われた言葉がフレンの脳裏を反芻し蝕む。
あんなことを言われたままでは彼女のプライドが許さない。
「……いくらフレンでもそれは無理だ」
アマルネは何とかフレンを説得しようとするも。
「うるさい。アタシが決めたからいいの」
強情なフレンは聞く耳を持たない。
スノトラも続いて説得するも、無視される。
そんな中、陽太は
「……まあ、いいじゃねえか。もう、フレンがこうなったら聞きやしねーよ」
と場を収める。
「……でも」スノトラは動揺していた。
「大丈夫だ。フレンなら死なねーよ。僕はフレンがあのメデューサの魔獣にやられてる様を想像できない」
「だけど、相手はフレンやスノトラよりも遥かに実力の高い猛者だぞ?」
「そうか? 僕は内包樹素とか感じ取れないから分からないけど、見た感じさ。そんなにアイツ、強そうには見えなかったぜ。なんか……なんつーんだろうな、大規模ダンジョンの第四層でフレンと出会った時のほうがよっぽどビビったよ」
「……」
皆が再び沈黙する。
「大丈夫だ。フレンなら勝てるよ。そうだろ? スノトラ」
「え? ま、あ。ん。まあそうなのよ。単純な内包樹素の多寡で勝敗は決まらないわ。フレン先生の魔術の方がよっぽど綺麗で優雅なのよ」
「だろ? だからいいじゃんか。やらせてやれよ、フレンに。やりたがってんだろ? ……僕にはよくわかんないけどさ、魔族のプライドとか……どうでもいいことだけど、フレンにとっては超大切なことなんだ。それをバカにして無下に扱われたんだぜ? やらせてあげないのはちょっと可哀想じゃないか」
「…………全く、陽太くんはフレンに甘いんだ。まあいい。フレンを単独で戦わせたほうが有益なのは間違いない。下手に僕たちが参戦したら足を引っ張ってしまうからな、じゃあヨゼフは僕たちと一緒に系譜と戦うのでいいか?」
「あ……うん、いいよ。僕はアマルネと一緒がいい」
「じゃあ決まりだ。時間はない。各自向かうとしよう」
そうして作戦会議が終わる。
皆が準備する。
杖を持ち、弓を背負い、精霊に語りかけ、拳を握る。
そして別れ際になり、フレンだけが一人、別の道へ行く。
そんな時に
「絶対負けんなよ。コテンパンにしてやれ」
陽太は笑顔で語りかけた。
フレンは思わず笑った。
そして
「うん、……ありがとね」
と彼女には似合わない真っ当な、それはそれはまっさらな純白すぎる感謝を述べた。
それはフレンが精一杯できる、一番の、できる限りのーー好意の現れであった。
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