ブレイザブリク⑰ vs樂具同(1)
※間違い修正
☓ ジギリタス家→◯ ジギタリス家
☓ 立花陽太の魂は0.5個→◯ 自身の魂1個を代償に捧げ転移、その後「境界門」をくぐり魂を1個付与されたので総数は1個
(コメント)魂関連の話はこの作品の重要設定にも関わらずミスしちゃってすみませんでした
13神使族の家名は全て「花」から取ってます。
ジギタリスって花があるんですが、ずっとそれをジギリタスだと勘違いしていました。てへ
廃墟の屋上で瓦礫の上に座り杖を両手で握っている老人がいる。
系譜、樂具同だ。
彼の視線の先にはーーぶよぶよと蠢く肉の繭がある。
どくん、どくんと心臓の鼓動と共に動き、内部には血管のようなものが通っている。
明らかにーー生きている。それも羽化直前だった。
繭の外郭はもうはち切れんばかりに肥大化しており、あと数分も経てば耐えきれず内側から破壊されるだろうことは明白だった。
そんな樂具同の横に。
「とうっ」という言葉と共に遥か上空から着地し、華麗に屋上で一回転。
完全に威力を殺し、清々しい態度で額の汗を拭うのは。
眉の太い、応援団長のような、少し古くさい格好をしたハチマキの男。
彼の名は零式。樂具同と同じく異世界転移者であり系譜。
「……なんじゃおぬしか」
「ははっ樂! 首尾はどうだ?!」
「見りゃわかるだろうに。異変がなさ過ぎて退屈しておったところだ」
「それは良いことだッ! ……しかしいつ見てもあの奇怪な繭は気持ちが悪いなッ! あの中身はこの世界の神様なんだろうッ?! 自分はよく知らんがッ! この世界の人間たちはあんな気色の悪いものを崇拝しているのかッ! やはり異世界の住民もたるんでいるな!! 皆、天照大御神と、天皇様を崇拝すべきだッ。あんなものを崇拝しているからッ誰も彼も軟弱なんだッ!」
「相変わるうるさいのオ、おぬしは。どうしてここへやってきた? まだお前の番ではないぞ?」
「ん? ……ああそうだったッ一つ、話したいことがあってな!」
「なんだ……要件があるならはよう言え」
樂具同は大きくあくびをした。
あまり零式との会話には興味がないようだった。
「実はな、こちらの世界にも、俺や樂と同じ! 臣民の者がいてな!」
「なんと……」
樂具同は脳をフル動員して記憶を探る。
そんなものがいたか? と。
「して、そいつも儂やおぬしと同じように、特別な力を持っていたのか?」
「いや、ただの軟弱な青年であったッ! まあ、ジュツシキ? とかいう変な技は使っていたがな」
「そうか、ならよい」
「話しはここからだ。自分はそいつのことが気に入ってしまってだな。だからどちらかというと……もうリーヴ殿の命令を守る気がさらさら無くなってきたところなんだッ」
「そうか……」
「して、樂……お前が盲目であることをバラしてしまったッ! つまりお前の弱点を敵に話してしまったというわけだッ! 秘密を隠すのは性に合わなくてなッ! こうして正直に謝罪しに来たわけだッ!」
「なんと……では、おぬしは、儂に敵対宣言をしにきたということか」
樂は両手で抑えていた杖をカンッと地面に打ち付け。
左目を開けた。
もちろん盲目なので何も見えず、焦点が合わさっていない黒目だけがギョロつく。
そして屋上を中心に展開されるは。
交通道路の模様。
すなわち系譜の「根源の異なる力」の発動準備である。
「……止めておけ樂。同郷のもの……それも老人などと喧嘩したくはない」
「フフッ怖いのか? 儂が」
「怖いだと? 生憎、俺が怖いと感じたのは、幼少期に父親に木刀で頭をぶん殴られた時だけだ」
「……まあ良いか」
樂が杖でもう一度、カツンと地面を叩くと、展開された力場ーー交通道路の模様が消え去る。
「それくらいハンデがなければ、敵側が不憫じゃからな……ん?」
ゴゴゴと大地が揺れる。
樂と零式の視線が中央のーー蠢く繭に移る。
すると繭の頂点からグシャっと一本の手が突き抜け出てきた。
出てきた手は人間のそれと同じで、しかし10mはあろうかという大きさ。
何かを掴みたがっているかのように揺れている。
大量の赤い血が、手で開けられた穴から吹き出て、そのまま繭の外郭を伝って地面に流れる。
「おお、羽化したぞ」
「儂は見えんのじゃ……どんな姿をしておる?」
「人間と同じ手だ」
続けて。
もう片方の手が繭を破り、両手で穴を広げこじ開けようとする。
膨張する繭、そして破裂し、洪水を想起させるほどの大量の血とともに飛び出してきたのは。
神々しいーー黄金比で正確に作られた見本のような肉体美を持つ男神。
その神々しさは、天皇のみを一途に崇拝する零式にも少しばかりの信仰心を催させるほどの。
形容しがたい神力をもってこの異世界に生まれ出た。
血に塗れていたので気づかなかったが。
生まれたてであるにも関わらず立派な顎髭が生えており。
かなり年を取っているように見える。
賢人ーー森の中でひっそりと暮らしているような。
そんなイメージをもたせる。
「ーーーーーーーー」
再び生まれ落ちたオーディンは。
周りを見回し。
そしてすぐさま、繭を蹴って遥か空高くに飛び去った。
凄まじい轟音と、衝撃波が零式と樂を襲う。
ちょうど、「世界蛇」ヨルムンガンドがとぐろを巻いていない部分をめがけ飛翔し。
そのままブレイザブリクを抜け、どこか遥か遠方へ消えていく。
「おお、ずいぶんとせっかちな神様だな」
「さて……これにて一応、リーヴ様から任じられた第1目標は達成したの」
「じゃあ、帰るとするか。自分はもう、こんな廃墟が蔓延する街にいたくはないッ。陰気臭い! 気分が悪くなるッ!」
「駄目だ。儂らには『龍殺し』を彼奴らから守護するという第二目標がある」
「それは、樂、貴様がいれば問題ないだろう?」
「それも……そうだがの」
「それか何だ? 貴様は、一人では心細いからこの俺の手を借りたいということか? ならば正直にそう言え!」
「……はあ、分かったわい。おぬしは好きな所にでも行っておれ。うるさくて仕方ないからの」
「そうかッ! では、老いぼれッ! あまり無理するでないぞッ腰を痛めるからなッ!」
「老いぼれじゃと? はあ、おぬしはもっと年長者を敬わんかい」
「ガハハハッ! 樂、今のジョークは珍しく愉快だったぞ! その言葉そっくりお前に返す! なんていったって、自分はお前より前の時代に生まれているのだからなッ!」
「……」
樂は本格的にうっとおしくなって零式の言葉を無視した。
「では、健闘を祈るぞ! とうッ!!」
零式も、オーディンを追いかけるように廃墟を思い切り蹴り。
空高く飛翔しどこかに消えていく。
まるで戦隊モノのヒーローかのように華麗に。
「はあ……さて、仕事を続けるか……ん?」
零式は異変を感じた。
近くに誰かがいる。
この場に残されたのは、オーディンの抜けた繭と大量の血。
そして石化し封印された「龍殺し」と自分のみ。
だがしかし、気配を感じる。
これはーー。
「む、少しも休ませてもくれんのか? ヒヒッ〔隔離〕」
樂は詠唱を行う。
交通道路の模様が地面を走り、力場が展開される。
「どっこいしょ」という言葉と共に立ち上がり。
曲がった腰で、杖を頼りに歩く。
樂がいる廃墟の屋上、その下には。
樂を敵意を込めた視線で見つめる6名の人影が。
ぱっつん紫前髪の魔術師、スノトラ。
柔らかい物腰の糸目の弓使い、アマルネ。
気弱そうな長身の精霊術師、ヨゼフ。
剛腕の番犬、ガルム。
背丈の低い「力」剣士、ミミズク。
そして世界の異物ーー立花陽太。
「ヒヒッ、総力戦と来たか。面白い」
樂具同はめんどくさそうに、しかし少しばかりの愉悦を孕んだ独り言を発する。
「……皆、準備はいいか?」アマルネが問いかける。
皆、頷く。
そして陽太が
「爺さん、そろそろ決着つけようぜーーどっちの理想が本物なのかってことを」
須田正義のことを思い出し、啖呵を切った。
最終総力戦がーー始まろうとしていた。
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