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リンカーネーション  作者: 鹿十
第四章 ブレイザブリク応戦編
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ブレイザブリク⑮

「弱いな陽太。ははッそんなんじゃ、ネズミにも勝てやしないぜ」


 ときは幽霊都市投入以前。

 シグムンドに監視されながら、巫女の社に出入りしていた頃に遡る。

 巫女の社にて大月から修行を付けてもらう僕。

 

 大月、こいつ、見た目に反してかなり強い。

 大月の「根源の異なる力」は見た所、木の柵? や木の幹を出現させるだけの貧相な能力。

 須田正義のような規格外の力とはいえない。

 しかしそれを応用することで、高度な格闘戦を成立させている。


 外界樹素を闘素に変換し、体の節々にまで流す感覚。

 それを叩き込むために今日も今日とて大月と修行をしていた。 

 人類が生み出した最高峰の術式――剣術。

 その居合流の基礎を習得するためだ。

 来る実戦の時に迎え準備を怠らないように。

 いつどこで災いが、強敵が表れるかは分からないからだ。


 大月が不在時は巫女の社で、巫女様やアザミから術式の含蓄を得る。

 そして体術面は大月との組み手&シグムンドからの軽い稽古で成長させる。

 時間は少ない。

 パワーアップはできる時にしておかなければならない。


「はあ……はあ……」


 今日も京都手息切れしながら王都の中庭の芝生の上に大の字になって寝る。

 疲労困憊の僕と比べ、大月は飄々とした態度。ピンピンしている。

 大月が巫女の社にいる時間は少ない。

 大半は王宮に不在で外出している。

 何か用があるのか、それとも遊び歩いているだけなのか。

 1週間のうち5日はどこかをほっつき歩いているため。

 大月と体術の修行ができることは貴重な時間なのだ。


「……知ってるか、陽太。巫女様の最終目標を」

「……ハア…ハア……何だよ」


 大月は雑談かのようなテンションでぼそっと喋り始める。

 これは大月の癖だった。

 彼は重要な情報を口に出す時、いつもと変わらない様子で語りだすのだ。

 うっかりしていると聞き逃してしまうほどのテンションで語る。


「巫女様の存在理由だ」

「……魂を観測するためだろ? 巫術を極めること」

「……それだけじゃ50点だ」

「じゃあ何だよ」

「巫女は交代制だ。樹界大戦以前、いやもっと太古の神代時代から『巫女』の肩書は連綿と受け継がれてきた。元は特性排斥種へと()()された一部の少数民族由来の伝承、文化に過ぎなかったんだが、樹界大戦後、王家が巫女と巫術の知識のみを強襲し、以後、王家が管理することになったのさ」

「…特定排斥種って……」


 特定排斥種。

 それは9種族の内の一つに数えられる種族。

 与えられた名も仮名であり、その真名を知る者は少ない。

 世界樹から最も離れた世界の縁に存在する種族であり。

 冥界ニブルヘイムと呼ばれる「世界樹から最も遠い」場所に住み着く。

 

 冥界に追放されることは死罪よりも重い罰とされており。

 国家反逆罪などを企てた者がこれに該当するらしい。

 

 しかしおかしな話だ。

 9種族は全てバラバラ。

 実際に魔種イフリート人類種ヒューマニティなんてお互いしょっちゅういがみ合ってるし、過去幾度となく戦争が生じている。

 また、森霊種エルフ小人種ドワーフも犬猿の仲だ。

 エルフは森を愛し、自然と共に生きるが。

 ドワーフは自然を敵視し、開拓、工業化することこそ正義と信じて疑わない。

 このように種族間では価値観が大きく異なる。

 そして生き方も、思想も、見た目も、文化も。


 そんな統一性のない8つの種族が。

 特定排斥種への待遇のみは同意を示しているのだ。

 特定排斥種に向ける感情はもはや敵視や差別というより別生物への恐れに近い。

 

 得体のしれない何かへの恐怖。

 その恐怖こそが、文明も思想もまるで違う8種族を束ねる要因となっている。

 

 確かに、特定排斥種は、歴史的に見ても呪術を作り出した種であるし。

 それなりに危険視する理由は分かる。

 しかし、だからといって対応が少し過剰ではないか?と も思ってしまう。

 

 異世界の生命体は、特定排斥種へ、謎の恐怖心を募らせている。

 そうとしか考えられないのだ。

 明らかに9種族の中から浮いている種――それが特定排斥種。

 その存在は歴史から意図的に抹消されている。

 誰もそれに触れようとはしない。

 まるで「無かったもの」かのように扱われるのだ。


「……巫女様の最終目的は『座』の回収だ」

「座?」


 聞き慣れない単語が飛び出したので僕は大月に問いかける。


「ああ。知ってるか? 陽太。この世の記憶や情報はある一点に集約し、保管されている」

「……どういう意味だ?」

「そのままの意味さ。異世界には魂が存在しないって話、前にしたろ?」

「ああ、僕ら此岸の人間は魂を持つから、死後、彼岸へと誘われる……そうやって永久回帰し続けるのが魂だって話だろ?」

「そうだ。異世界も根本的な仕組みは同じだ。しかし回収される場所が違う。昔、ある科学者が、『異世界の全土は実質的に世界樹イルミンスールの擬似的な血管と皮膚である』と説いた」

「?」


 大月が何の話をしているのか意味がわからなくなる。

 しかし大月は僕のことなんか気にもせず話を続けた。


「異世界の全ての生命体は、死亡した後、不可侵領域の中枢にある『座』と呼ばれる根源に回帰する。そこで記憶や情報のみを抜き取られ、肉体は腐ち、樹素へと還元され、冥府――ニヴルヘイムへと誘われる。つまりニヴルヘイムってのは、異世界版の彼岸ってことだ」

「……」

「抜き取られた記憶や、情報は『記録樹素レコード』と呼ばれる特殊な樹素を媒質に保存される。記録樹素レコードを接続、閲覧できるのは、一部の神種のみとされている」

「何故、世界樹は情報なんかをわざわざ抜き取って保管するんだ」

「さあ、知らないな。俺が言いたいことは、異世界は世界樹そのものだということだ。この異世界の全てに、世界樹が関与している。いや、世界樹が異世界そのものと言って良い」


 記憶樹素レコードと座と呼ばれる根源。

 おそらくどちらも、この世界を動かす中核部分なのだろう。

 先ほど大月が語ったことが真実なら、異世界は世界樹そのものなのだから記憶樹素レコードは世界樹の「脳みそ」のようなものなのだろうか?

 …であるとすれば、確か異世界の生物は全て樹素もとい核で構築されているのだから、彼らは世界樹の体に住み着くーー微生物や細胞のようなものとでも解釈すればいいのか?


 まあ異世界の構造なんてどうでもいいことか。

 僕の目的は彼岸花の回収と、この世界に転移、転生していると思われる千歳緑を見つけ出すことなのだから、その目的に関わらない情報はノイズでしかない。


「……で、どうやって巫女様は『座』とやらを回収するつもりなんだ? 勿論、巫女に同伴している大月の目的も同じく『座』の回収なんだろ? ていうか、『座』とやらを回収して何をするつもりなんだよ」

「ああ……まあ……どうしようか……言っても良いか、別に」


 大月は迷いながら青色のキャップを外して頭を書く。

 そしてキャップを頭に深く被り終えると話を再開した。


「『座』の回収ってのは、若干濁した言い方だ。実際は『座』そのものを破壊することになるだろう」

「え? ……」


 思わず絶句してしまう。

 座を破壊するって……それはすなわち異世界を壊すという意味と同義なのではないか?

 つまり大月と巫女の最終目的は異世界の破壊?


「つまり異世界を破壊したい……ってことか?」

「いや、『座』を破壊しても無くなりはしない。破壊されれば、また別の『座』が生じるだろう」

「じゃあ破壊しても意味なんて無いじゃないか」

「『座』は別のモノに……その権能が譲り受けられる。それを望んでいるのさ、巫女様は」

「……どうして?」

「おっとこれ以上は、お口チャックだぜ。企業秘密、黙秘権の行使だ。流石のお前さんと言えど明かすことはできないな」

「ちッそこまで教えておいて、肝心なことは伏せたままかよ」


 僕が憎まれ口を叩くと、大月はニヤリとニヒルな笑みを浮かべ


「今お前さんに話したことだって超機密事項だぜ。同じ同郷の者……異世界転移者の仲間だからこれだけ情報を開示したんだ。お前さんを信用しているからこそだ」

「ッ……まあそれもそうか」


 確かに。

 大月は僕に多大なる情報を開示してくれている。

 ただ異世界転移者であるというだけの理由で。

 これ以上、詮索して情報を欲しがるのは野暮だな。

 何より、大月からばかり色々なものを受け取っているのに僕は彼に対して何一つ有益な情報を与えたり、利益を上げることができていない。


 大月にも、巫女様にも、そして他ならずフレンやスノトラ、ガルムたち、ナンナさん……

 数え切れない人たちから僕は無償で多くのことを学ばせてもらっている。

 当初異世界に来たときは最悪だと思った。

 水も美味しくないし、スマホもないし、娯楽はつまらないし、飯は美味しくないし。


 けど、自分が僅か3ヶ月ほどの短期間でここまで成長しているのは。

 周りの人々の尽力と支援のおかげだ。

 そんな当たり前のことを忘れてはならない。


 着実に彼岸花と緑に近づけている。

 僕はただ、眼の前のことを、全力で遂行していけばいいだけだ。

 と、心に覚悟を刻み直した。



 場面は、幽霊都市ブレイザブリクの決戦。

 フレン&スノトラvsゾンビの原生魔獣ブードゥーの対決へと移行する。


〔略式。天則ワヒシュタッ!〕


 顕現する6体の豪炎の大鷲の群れ。

 フレンの周りを取り囲み、守護しつつ。

 隙を見て、指揮下から外されブードゥーに突撃するも。

 効果は見られない。


(クッ分かっちゃいたけど。無謀にも程があるわね。このゾンビの原生魔獣……装甲のように何十もの薄い保護術式をミルフィーユ状に重ね合わせることで術式の衝撃を完全に緩和してるッ!)


 ブードゥーの指先から射出される土で構成された無数の弾丸。

 それを空中でアクロバティックに華麗に避けるフレン。


(アタシが使える原型魔術は……最善なる天則アシャ・ワヒシュタ煉獄ヒノカグツチ殃禍ヴァーユ大瀑布エーギル奔雷アルゲース……の5種。どれもこれも内包樹素を大量に消費する術なのに……原生魔獣こいつらにはあまり効果が見られない……最善なる天則アシャ・ワヒシュタの炎も、原生魔獣こいつらの実力なら一瞬で対立術を編纂されて鎮火されてしまうでしょうね……しかも何より厄介なのは)


〔略式。天則ワヒシュタ アレグロ〕


 炎の大鷹が超高速でフレンの手掌から射出される。

 着弾し爆ぜ、爆風が舞う。

 風塵の向こう側から表れたブードゥーは。

 着弾した箇所ーー顔面の左側が焼け焦げ融解している。


 しかし数秒経つとーー腐りかけた肉や血管が再生し繋がり、もとに戻る。


(これよ。このゾンビの原生魔獣……自身にも恒常的な治癒術式を施している! あまりにおかしいわよ……いくら原生魔獣といえど、これだけの内包樹素量……邪神にすら匹敵するんじゃないの?! 何かカラクリがあるに違いないわ)


【フレンの推察は当たっている】


【原生魔獣ブードゥーは、自身の体と配下に置いたゾンビの肉体を『アンデット化』させた上で恒常的な治癒術式と強化術、保護術式を重ね合わせている】


【アンデット化。自らの体の中にある『核』を取り除いた上で肉体を操り生存している者を指す】


【アンデット化する利点は多く、核を維持する上で必要とされる基礎樹素量の消費が無くなることによる ①内包樹素の貯蔵量の増加 ②内包樹素量の回復速度の向上 ③痛覚の遮断 ④治癒術式などの自身の体に作用する一部の術式の作用力の大幅な向上 ⑤より術式に適した肉体構造への改造……など生物の範疇を超えた数々の芸当が可能となるのだ】


【しかしその分デメリットも多く、アンデット化の最大の弱点として光属性の術式や幻術、霊術などの浄化作用を有す術に対し、極めて脆くなることが挙げられる】


「ゾンビだし……アンデットか。最悪ね」


 フレンは光属性の術式を習得出来ていない。

 魔術、妖術、幻術、剣術……etc これらの術式にも個々個人で得意不得意があるように。

 術式の属性に対しても得手不得手が存在する。


 現に、フレンは炎、風系統の術に特化しているが。

 光属性の術はまるっきり苦手だった。


(スノトラなら使用できるかな? いや……スノトラの得意属性は『水』と『炎』……光属性の術を習得できる奴はかなり稀なのよね……現にスノトラが光属性の強力な術を使えるならもう使ってきてるはず……そうではないってことは、基礎的な光術式程度しか扱えないのか……)


 とフレンが空中で浮いたまま思案していると。

 遠方から三本の弓が飛来し、ブードゥーの頭部、左肩、右足に刺さった。

 そして遠方のーー廃墟の屋上に佇む青年の口から発せられたのは


〔『式』系統は魔素ーー器は『幸』 フォルテシモ・フレーム〕


 瞬間ーーブードゥーに刺さった三本の鏃がカッと発光し。

 核融合反応のように、一瞬で光が膨張し膨れ上がる。

 

 光が収まり、目が慣れてきた時には。

 ゴルゴンの頭、左肩、右足はドロドロに溶け壊れていた。


「……この魔術……確かあいつは……」


 フレンは廃墟の方へと目を向ける。

 およそ距離にして300メートルほど先。

 そこには背丈の高い細目の男と猫背で寝癖が付いた気弱そうな男の2人がいた。


「アマルネ!! とヨゼフ だわ」


 廃墟の影に隠れていたスノトラが嬉々として叫んだ。




 

 

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