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リンカーネーション  作者: 鹿十
第四章 ブレイザブリク応戦編
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原初の契約

【原初ユミル】


【確認されている限り最古の歴史書に登場する人間】


【400年前の樹界対戦より更に何十万年も以前。この異世界が形成された最古の瞬間を綴る唯一の書記『世界樹と漆』その冒頭部分には、彼の名前と世界樹しか登場しない創世記が1ページのみ記載されている。その素性及び情報は一切不明。しかしユミルは確かに存在したとされている】


【『世界樹と漆』その冒頭部分を以下、書き連ねる】


【原初ユミルは夢を見ていた】


【長く、永遠に続く夢を見続けた】


【薄暗い原生のスープの中で、生まれる前の赤子のように丸まって夢を見る】


【恒星と衛星はユミルの夢を手助けする】


【今度はきっと、良い人生を送れるように】


【そこに問いかけてきたのは一本のヤドリギ】


【ユミルは独り言をつぶやく「次の世界はもっと平和で面白おかしくしよう」】


【意思を持ったヤドリギは呼応した「そうだね、そうしよう」】


【神様も沢山作ってしまおう。世界で一番の魔術師はお調子者のトリックスター、そして喧嘩が強くて豪快な雷さま、命令を忠実に守るペットはこの際だからヘビにしてしまおう。リーダーは頭が良いけど少し堅物。世界を記述する音楽家は引きこもりで怠惰だけど博識。意地っ張りな神様は片腕が無いし、笛吹は軽快でハツラツ、だけどたまに羽目を外しがち。それにそれに…】


【「いいよ。全部叶えてしまおう。そうしよう」ヤドリギの若木は元気よく答える】


【そして皆でどんちゃん騒ぎをするけど、結局仲が良いんだ。そうやって面白おかしく世界を回そう。そうだ、空に浮かぶ太陽や月の軌道もめちゃくちゃにして、天気予報士を困らせてやろう。世界は平らにして、耳が生えてたり、腐ってたりする奴らもいて…勿論、人間も当たり前のようにそこにいて…魔法のような力を使えるんだ】


【そうだね。きっと良い世界になるよ】


【君もそう思うかい? ヤドリギの若木に問いかける】


【うん。でもーー一つ約束があるんだ ヤドリギは深刻そうに、とある取引を持ち出した】


【約束?】


【そう約束。夢のような世界を作り出す代償としてね。君にはあるものを払ってもらう】


【いいよ、いくらでも持ってきな。何が欲しいんだい? 金か? それとも美味しい飯かい? あ、君は植物だから、日当たりの良い場所においてくれとでも頼んでくるのかい? お安い御用さ】


【いいや、それも悪くないけどね、もっと欲しいものがあるんだ】


【何? ユミルは問いかける】


【ーー代償として、君の……魂が欲しいのさ】


【そんなのいくらでも、あげちゃうよ。その代わり、約束通り、面白く平和な世界を作ってね】


【こうしてユミルとヤドリギの契約によって、異世界は創造されたのでした】



 アザミと大月が宮殿内の長い廊下を歩いている。

 彼らの靴が床にこすれ反響する音だけが増幅され響く。

 大月はオーバーオールのポケットに両手を突っ込み、猫背のまま。

 いつものようにニヒルな笑みを浮かべ、ここではないどこかへ焦点を定め語る。


「……オマエは知らないかもしれないが、原初ユミルは『最初の異世界転移者』であることが巫女様の研究により解明済みだ」

「どのように転移したんでしょうか?」

「さあな。ただはっきりしているのは、原初ユミルが転移者であると同時に系譜であったこと。魂を2つ保有していた。その片方の魂を用い、世界樹と契約儀式を結んだんだろう。そうして異世界は作り出された」

「……一体、何がどうなってるんでしょうか? アザミたち・・が馬鹿なだけでしょうか? 異世界は系譜によって作り出されたなんて」

「いや、オマエは馬鹿じゃない。正直な所、誰も真相はわかってない。それに俺達にとっちゃ、この世界がどうやって作り出されたかなんて、どうでもいいことだろう?」

「……そうですね」


 アザミはただ頷く。

 口調や雰囲気はアザミ本人だが、どうにもいつもの彼女とは様子が変わっている。

 アザミと大月の関係は「先輩」と「後輩」のようなものだった。

 しかし、今現在のアザミと大月の関係性は対等ーーひいては仲間同士のように結託し合っているように感じられた。


「俺達の目的は『座』の回収であることには変わりない」

「『座』って確か世界で最も因果律の高い魂のこと……ですよね……」

「ああ」

「……『座』は原初ユミルの魂と見てよいのでしょうか?」

「ああ十中八九そうだ。だが残念なことに、原初ユミルの魂はおそらく不可侵領域内ーーつまりは世界樹の根の奥深くに眠っている。不可侵領域内には神種が沢山いるからな。無策で突っ込んで回収はまず無理だろう」

「どうする気ですか?」

「待ち一択に決まってるだろ? 家宝はねて待て。果実は実るまで取るな。常識だぜ。逆にそれ以外方法があるか?」

「……」


 疑うような視線で大月を見つめるアザミ。

 大月は両手の平を上に向け、「まいった」と言いたげな表情で


「俺が信用できないか? オマエは」

「いえ、ただ……」

「正直に言ってくれていいんだぜ」

「……アザミ本人の感想、一意見としては、アナタは信用に欠けるように思えます。目的は同じとはいえ腹の底が見えない。素性も謎、出身も謎……そんな相手を異世界転移者という理由だけで信用できるとお思いですか?」

「ふう……中々手厳しいな。まあ、俺はミステリアスボーイだから、色々明かせないことが多い。だからお互い腹のさぐりあいをしちまうのはしょうがねーよ。だが、これだけは約束できる。俺は何があっても巫女ヴォルヴァの味方だ。どんな立場になっても、な。ヴォルヴァの綴る旋律通りに事が運べば都合が良いのはお互い一緒だろ?」

「……そうですね。まずアザミと大月は利害込みの一時供託……という関係性に過ぎないことを忘れていました。変に勘ぐるような真似をして関係に亀裂を入れてしまい申し訳ないです」

「いいんだよ、いつものアザミは逆に警戒心が足りなすぎて……いや、足りないのはオツムのほうか……何より、人を疑うってことを知らねー天真爛漫なヤツだ。今のアザミくらいが丁度よいだろ」


 大月はポケットから右手を取り出し。

 アザミの頭を修道服ごと上からワシャワシャと撫でた。

 そして撫でた右手をヒラヒラと動かしながら


「じゃあ、よろしく頼むぜ。他の奴らにも色々教えてやっておいてくれ。まあオマエと話すのが一番楽で精神衛生上良いからな。これから真剣な話や大事な話は全部オマエを通して伝えることにする。じゃあな」

「待ってまだ聞きたいことがーー」


 別れの挨拶のつもりか大月は手をヒラヒラさせながら曲がり角を右へ曲がる。

 アザミはその後を追いかけ、急いで追従するも。

 曲がり角の先には、もうすでに大月の姿はなかった。

 長ったらしい廊下。 

 赤色のカーペットや金で加工された派手な廊下だけが広がる。


「全く……本当に、あの人にまかせて大丈夫なんですかね? アザミは心配ですよ」


 アザミが頭を抱えため息を吐いた数秒後。

 パッとアザミの目の色が変わる。

 いつものような丸い目に愛らしい顔つきを浮かべながら。

 呆然と立ち尽くすアザミ。

 やっと状況を理解し、周りをキョロキョロと見回しながら


「あれ? アザミ、こんな所で一人で何をやってたんだろ」


 とだけ呟いた。






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