ブレイザブリク⑬
【零式。の根源の異なる力 モデル『兵器』】
【彼は須田正義や樂具同とは異なり、根源の異なる力が作用する区域を展開せずに力を行使する】
【己の身体そのものを根源の異なる力が作用する力場領域とし、身体に『兵器』の特性を付与する】
【『兵器』。現実世界に存在するありとあらゆる近代兵器を自身の身体で再現する能力】
【その中でも光学兵器を模倣、再現する最大出力の技『天照大御神』は文字通り、樹素を『荷電粒子』の性質に再構築し体内で加速させ手先から射出する】
【その飛程距離には限界があるが――初速は2000キロを超える】
陽太は眼前の光に照らされ、気づけば視界が真っ暗になっていた。
何が起きたのか分からない。
身体が動かない。
胸に熱を感じた。
目は開かない。
耳のみが唯一機能している。
「……先程の発言を撤回しろ。日本が敗北した? そんなはずはない……」
「言ったはず……だ……そのままの……意味さ……」
陽太は胸ぐらを捕まれ。
無理やり起こされる。
「我らが大日本帝國に、敗北などないはずだッ」
「負けたんだよ。認め……ろ。僕を見れば……分かるだろ? 嘘なんてついてないって」
そのまま陽太の頬を殴る零式。
陽太は再び後方によろめいて、倒れる。
「……嘘だ」
「嘘じゃない。戦争は枢軸国の敗北で終わったんだ……新型爆弾が投下されて、沢山の人が死んだ。東京も、空襲にあって火の海さ」
「……我が祖国は……不滅なはず……」
「アンタらみたいのが、現実を認めなくて。負け戦だって分かってたのに、日本の勝利を信じて、過剰な戦力を投入したから、戦争が長引いたんだ。だから爆弾も落とされた。現実を認めない、お前らみたいな連中のせいで」
「黙れッ! 自分は祖国のために忠義を尽くしてきたッ……それも全て……日本帝国のため……東京が火の海だと?! ふざけるなッ……それでは……自分の……妹や母は……東京に残してきた家族は……」
「ああ、死んじまったろうな」
「そんな……はずでは……では、自分はなんのために特攻を……果たしたのか……」
「無意味な自殺だったってことだ。悪いが、人生なんてそんなもんだと思う」
陽太の胸ぐらを掴み、再び零式は拳を握りしめ振りかざそうとするが
「……殴って死んだ人が生き返るなら、気が済むなら。好きなだけ僕を殴ったら良い。けど現実を認めず、理想に固執したって何もならないことを、オマエはわかってるだろ」
「……そんなわけは……ない」
「僕の顔を見ろよ。嘘はついてないって分かるだろ」
「ッ……」
零式は握りしめた拳を解き、陽太の胸ぐらからも手を離した。
そして力が抜け廃人となったかのように、脱力しその場にあぐらをかいて座る。
そして動かず、喋らなくなった。
先ほどまでの威勢はどこ吹く風といった様子だ。
もう気力は完全に途切れてしまっている。
ようやく視界が晴れてきた陽太は。
目を開き、落胆し絶望している零式に近寄った。
「……そうか。負けたか、日本は」
零式は沈んだ声で語る。
この世の哀愁が全て詰められたような儚い声。
それもそのはずだ。
彼は生前祖国のために文字通り命を投げ出した。
見た所年齢も若そうだ。
まだまだ希望はあった。やりたいこともあった青年だったろう。
そんな青年が、祖国のために特攻を果たしたのだ。
日本の勝利を信じて――しかし、陽太の発言で自分の死が無駄だったことを知ってしまった。
しかも、東京も戦火に巻き込まれ、家族も死なせてしまったのだ。
「……自分は、家族を……助けるために……戦場に出て……命を投げ出したのだ……」
「……」
「何を……心の支えにすれば良いのか……分からない……」
「……零式さん」
陽太は先程とは打って変わって敬意のこもった声で語りかける。
「だけど、無駄ではなかったんだと思う。確かに、日本は負けたよ。大負けだ。だけどその後、植民地にされたりはしていない。アメリカの支配を受けても、急成長して没落した地位を復活させたんだ。その後は戦争以前より豊かな暮らしができてる。僕が、21世紀で、安心に、平和に暮らせたのは、零式さんみたいな人たちが命を賭して戦ってくれたおかげだと思う。だから……その……あんたの死は無駄じゃないんだよ、気休めにしかならないかもしれないけど」
「……」
「僕はなんだかんだ言って、日本を気に入ってた。それもこれも、祖先の人たちが頑張ってくれたおかげだ。だから……死は無駄じゃなかったんだよ。意味はあったんだ」
「……陽太。オマエはどう感じた?」
「え?」
「……自分が死んだ後の日本で暮らして、どう感じた?」
「……悪いところも沢山あったさ。でも、幸せだったと言える。東京だって、今じゃ大都会に戻ってんだぜ? まあ少子高齢化とか色々問題はあるけどさ。でも、嫌いじゃなかったよ、21世紀の日本の空気は」
零式は思い出す。
自分が戦っていた理由を。
負け戦だと分かっていた。
しかし、零戦に搭乗した理由を。
そうだ。
自分は。
死ぬ前に。
考えていたことが在る。
何故、このようなことをしなくてはならないのか。
自分の命を投げ捨て、煤まみれになりながらも、米軍の空母に突撃したのは。
日本のためでもない。
ましてや自分のためでも。
家族のためでもなかった。
未来のためだ。
憎き米兵に、日本を占領され、国土を蹂躙されたとしても。
未来の子がこうして笑ってくれれば、それでいいと思えた。
地獄の業火で焼かれようとも。
東京が火の海と化そうとも。
未来に花が咲いていれば、それだけで報われると思ったからだ。
その結果が、命をとした結果が、惨敗だとしても。
誇りを踏みにじられようと。
敵兵に改革され、主権を奪われようとも。
そこに流れる気風は同じーー日本人の精神、文化、文明の話ではない。
そこに根付く人々が、幸せならばーー。
そう願って、特攻を飾ったのだ。
吹っ切りが付いたように、零式はその場から立ち上がる。
「国や文化は違えど、そこに流れる気風は同じ……か」
「……?」陽太は理由もわからず、気の抜けた零式の顔を見つめた。
「……大日本帝國の没後……陽太、貴様は笑えているか? この世界に転移したんだ、何か心残りが……いや、何か嫌なことがあったから、あちらの世界を捨ててきたのだろう? その理由は」
「……日本のせいじゃないさ。周りの連中が悪かったわけでも、特段不運だったわけでもない……周りのせいじゃない。僕自身の問題だ……夢を見たんだ。ある人に出会って。理想を見た。その理想に、手を伸ばしたくなった……」
「逃げたのか?」
【それを証明するのはこれからの君次第だ。現実から逃げたのか、あるいは理想を追ったのか。どちらかを選択するのは、未来の君だ】
零式の言葉に触発されて。
いつぞやのーー須田正義との会話を想起する陽太。
言葉が詰まる。
が、何とか紡ぎ出す。
「……いや、理想を追うことを選んだんだ。現実を捨てて」
「そうか。なら、いいんだ……さてと」
零式は立ち上がる。
覇気の抜けた表情はいつの間にか勇ましい様子に戻っており。
応援団長のような豪快な声で喋りだす。
「さッ!! ガハハッ! 結局! 過去にすがって生きていたのは自分のほうだったというわけだ! 自分は、自分が死んだ理由を探していたんだッ! 自分の死が無駄ではないことを証明したくてなッ! 東京に大空襲、日本は負けたか!! 米国に!! しかしそれでもよいッ! 自分らの子孫がッ! 陽太!貴様がッ日本を嫌になって捨ててきたわけではないことをッ確認したのでなッ! それならば、自分の死んだ意味もあったということだッ! 自分の悲願は、未来で子孫が笑い暮らすことッ。その大義が達成されたのならばッ道中や過程などどうでもよいッ些末な問題だなッガハハッ! いいぞッ!陽太! この勝負、貴様の勝ちだッ! 自分はもう、この幽霊都市から身を引くことにするぞッ」
「おい、ちょっと待てよッ」
陽太が声をかけるが、須田は凄まじい跳躍力で一気にジャンプし廃墟の上に登る。
そして戦隊ヒーローよろしく、廃墟の屋上で仁王立ちをしながら。
「陽太ッ! 日本国民の生き残りは自分の息子と同じッ! 貴様は今日から自分の息子だッ。その次いでとして良いことを教えてやるッ!」
「なんだよッ」
陽太は零式の声の圧に負けじと大声で叫ぶ。
「あの老爺を倒し、中央に封印されし剣士を解放したいのだろうッ?!」
「ああそうだよッ。零式、オマエも強力してくれるとありがたいんだけどッ」
「それは無理な話だッ。息子の頼みといえど、主君リーヴ=ジギタリス殿の命令には逆らえんッ!!」
「……リーヴ……ジギタリス??……」
陽太はジギタリスという家名に違和感を覚える。
どこかで聞いたような……そうだ、13神使族の一家だ。
何故、零式の口からジギタリス家が出てくるんだ?
「しかしッ、それだけではあまりに不憫だ。そのため助言だけしてやるッ」
陽太の思考を遮り、零式は一方的に大声で語る。
「封印されし剣士の胸に突き刺さった槍は自分が投擲したものだッ。並大抵の力では抜けん!! しかし……この世の者ではない陽太、貴様ならば簡単に引き抜くことが出来るだろうッ!」
「だから、引き抜くっつったって、あの老人の系譜が護衛してて無理なんだってッ」
「……案ずるでない。一つ、助言をしてやると言ったろうッ!!」
ひと呼吸間を置いて、胸いっぱいに空気を吸い込んでから零式は
「樂具同は。盲目だ。つまり目が見えていない。己の力で空間を把握し力場を操作しているに過ぎない。そこが弱点だッ。以上!! 後は貴様の根性次第だッ! これくらいの壁を超えていけよッ?! 貴様も日本国民だろう。ではさらばだッ!!!」
とう! という一声と共に。
軍服の系譜ーー零式は空高く飛翔し、そのまま消えていく。
一人残された陽太は。
折れた指、胸にくらったレーザーによる大打撃。
これらに不慣れな治癒術式を付与し何とか回復させながら。
零式の助言を反芻し、意味を噛み砕きつつ。
スノトラとフレンの元へと歩き出した。
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