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リンカーネーション  作者: 鹿十
第四章 ブレイザブリク応戦編
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ブレイザブリク⑨

 コンクリートの道路に温もりを感じたことなど、ただのひと時も存在しなかったことを思い出す。

 視界が塞がれた暗闇の中で、鼓膜の振動ーー聴覚情報だけを頼りに、杖で空間を認識して、歩を進める。

 

 黄色のブロックのみが私の生きる世界のすべてだった。

 否ーーそこにしか居場所が無かったのである。

 軌跡を辿った。

 果てしない荒野を孤独に進む気分だった。

 最悪な居心地だった。


「邪魔だよ、障がい者が」

「ちんたら歩いてんじゃねーよクズ」

「徴兵する価値もねえ。国のお荷物が」


 罵声。

 慣れたものだった。

 止まり、歩く。

 そして進む。ぶつかる。謝る。

 舌打ちをされる。繰り返すーー。


 生前の私に如何程の価値があっただろうか?

 きっと下水道の溝鼠のようなもの。

 いてもいなくても代わりはしない。

 いや、日本、世界があんな状況ならば、いない方がマシだったろう。


 今日も何かしらにぶつかった。

 群衆の往来が激しいスクランブル交差点で。

 そして転び、地面を擦って落とした杖を探す。

 その様子ははたから見れば無様極まりないだろう。

 しかしーー


「大丈夫?」


 肩をかしてくださる方がいた。

 優しい方もいるものだ。この世は捨てたものじゃない。


「……大丈夫です」

「これ、探してるでしょ」


 その御方は女性だった。

 顔はわからないが、女神にような方に違いない。

 私のような人間にも慈悲を与えてくださるのだから。


「……どこに行こうとしているの?」

「実はここに……」

「ああ、そこなら、案内するよ」


 案内され、辿り着いた場所は、我が家。

 やはり介護犬も無しで外を出歩くべきではなかった。

 

「……どうして、私にそこまで優しくしてくださるのですか? 私は徴兵すら免除されているような役に立たない者……」

「それが困った人を助けない理由になるのかな」


 理由を聞きたくなった。

 何故自分のようなものに積極的に手を差し伸べるのか。

 余裕も、贅沢も存在しないこの世界で。

 しかし帰ってきた返答は。

 人を助け、手を差し伸べることに何も疑問を持たないような純真さ。

 思わず、自分の劣等で矮小な思想が恥ずかしくなるほどの。


「……それにね、昔、お父さんに言われたんだ」


 彼女は付け加えるように語りだした。

 私は黙って聞き入る。


「困った人がいたら、助けてあげなさいって。それが巡り巡って。自分のためになると」


 困ったお方だ。

 因果応報は必然ではない。

 情けは人の為ならずーーなど、どこかの高僧が偉そうに語っただけの詭弁に決まっている。

 しかしこのお方は、それを心の底から信じておるのだ。


「……嘘だねって顔してるね。でも本当なんだ、信じてるの」

「顔にでていましたか、失礼」

「ふふっ、いいんだ。この世界ではさ、そうかもしれないけどね。きっと善行は返ってくるって信じてるの。死後の世界って、あると想うから」

「……そうでしょうか。私は、無いと思いますが。輪廻転生や彼岸が存在するとしたならば、私は前世できっと、形容しがたいほどの、悪行を積んだのでしょう。だからカミサマは私の目を潰しなさったのだ」

「なら、今世では、なるべく幸せに、楽しく、皆のために生きなくちゃね」


 きっとその御方は満面の笑みを浮かべていただろう。

 その笑顔が見れなかったことが、現世の唯一の心残りだった。

 ならば、彼女にまた出会うために。

 私は旋律に従おう。

 いずれはきっと、私の道が、彼女へと繋がるように。

 私の魂は異世界で費やし。

 いずれは、彼岸で、彼女と出会えるように。



〔隔離〕


 老人の詠唱と共に力場が展開される。

 絶対厳守の法則を強制する力場。

 異世界でも、此岸でも、彼岸でもない。

 その3世界を、隔離し、完全独自の世界を展開する。

 どこにも属することのない、新たな世界を構築する力。

 それが系譜の「根源の異なる力」


【13人の系譜の一人。樂具同がらきぐどうの「根源の異なる力」】


【己を中心に半径13メートル以内の球体型の道路上の区域を形成する】


【その区域に侵入した者は樂具同の術中下に置かれる】


【樂具同の詠唱指定した道路標識に従った力場が形成され、区域内の物体は標識記号に沿ったベクトルで運動を強制される】


【「警戒」「規制」「指示」の3つの標識記号が存在し、これらを切り替え、又は組み合わせることで運動の指向性が決定される】


【力場にはーー此岸の「()()」が用いられており、外解樹素を魂で重力子に変換することで力場を構築するのが樂具同の「根源の異なる力」である】


〔『規制標識』指定方向外進行禁止 北〕


「うおっ」

「ンだこれはッ」


 僕とガルムの身体に衝撃が加わり、北の方向へ吸い寄せられていく。

 まるで天地がひっくり返り、北の方角に重力で引きずられているような感覚。

 落下地点には、廃墟が存在していた。

 このままでは叩きつけられ、身体を強打して動けなくなってしまう。


〔『式』系統は魔素ーーフォルテ・フォートレスッ!!〕


 僕は急いで詠唱を行い、保護術式を身に纏った。

 しかし威力は減少することはなく、北の方角にそのまま引っ張られ、ガルムと共に岩肌に身体を強打した。

 身体と廃墟の間に右腕を挟んだせいか、激痛が右手に走る。

 

「ッ……いてぇッ!」


 急いで身体を起こした。

 痛みで頭が正常に働かない。

 右手の小指は外側に曲がっている。

 おそらく骨折してしまっていた。


(おかしいだろッ……僕は今、確実に保護術式を掛けたはず! 落下速度と距離から推察するに……3階の階段から落ちたくらいの衝撃なはず……なら、保護術式で確実に威力を軽減して無傷であるはずだ。しかも強化版の保護術式だぞ!? 中、上級魔獣レベルの攻撃なら無効化できるほどの術なのに。なんで僕は骨折してるんだ?)


「ッ……いてえなクソ。意味不明だなア。明らかにいてェぞ」


 横を見ると、ガルムも強打した腰を痛そうに擦っていた。

 ガルムの肉体は鋼鉄よりも硬く、とんでもなくタフだ。

 スノトラの本気の術を食らってもケロっとしているほど。

 しかし今のガルムには先程の攻撃で明らかにダメージが入っている。

 

「……陽太ァ、気イつけろ。あのジジイの攻撃、なんかおかしいぞ」

「ああ……ッ……多分、あいつの力場操作能力は防御や保護術式を貫通してダメージが入る」

「それに、ただの力場操作の術式じゃねェ。樹素を見たこともない系統に変換してやがる。ありゃ対立術式も組めねェぞ」

「ああ」


(規制標識とか言ってたな、あの爺。おそらくアイツの能力は、標識記号で指定した力場を強制する力だろうな。分かったはいいが……対処法がない。保護術式を掛けても意味がないなら、避けようがないな、でも……)


 僕は系譜の足元に注目した。

 地面の色が代わり、コンクリートのような材質に変化しており、横断歩道らしき模様が走っている。

 それが系譜を中心にして半径十数メートル、円形に展開されていた。


「ガルム、あいつの力場操作能力は、おそらくあの灰色の領域でしか発動しない」

「ってことは近づいたらアウトだってことだなァ」

「それか、あいつが詠唱する速度よりも早く急接近して、叩くか、だ」

「そういうことなら話がはェえ」


〔鉄鎖離脱〕


 ガルムは四足歩行になり、系譜の老人の下へ急接近した。

 老人は詠唱で対応できず、腕に一線の引っかき傷が加わり流血する。

 

「なンだ、ちょろイぜ。高速で移動すりゃア、問題ねェ……ん?」

「う~む。中々の速度……しかし、考えが甘すぎますな〔一時停止〕」


 ガルムの身体が全く動かなくなる。

 彼の頭上を見ると、逆三角形型の「止まれ」と記載された赤色の標識が4つ連なって浮上していた。

 そして老人は、足元に転がっていた石を手に取り


〔最低速度30〕

 

 詠唱を行うと、老人の手から石が飛び出し30キロほどの速度で一直線に加速する。

 そして停止したガルムの脇腹にクリーンヒットした。


「がッ」


 ガルムは口から唾を垂らしながら、苦しむ。

 4秒ほど経過するとようやくガルムの束縛が解ける。


(迂闊だった。あの領域内に侵入しても、詠唱する前に攻撃してしまえば力場操作は発生しないと高を括っていた、違う。侵入してもガルムみたいに、停止させられてしまうんだ)


 ガルムは廃墟を四足歩行で駆け巡り、僕の横へ戻る。

 そして


「で、どうやって勝つんだよ、あのジジイに」


 とだけ呟いた。

 


 

 

 



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