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リンカーネーション  作者: 鹿十
第四章 ブレイザブリク応戦編
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奪還

「微弱で醜い術式で焼かれる痛みッ……苦痛でたまらない。陽太といったか小僧ッ」


 ゴルゴンの身体は燃え盛っている。

 先程発動したのは術式ではなく契約儀式。

 何かを対価に何かを得る。

 そのような等価交換でのみ成立する特異な式。

 

 大昔、樹界大戦以前では契約儀式を結ぶことでしか人類は術を行使できなかったらしい。

 現代では廃れ、意義を無くしているもの。

 太古の秘技。

 巫女ヴォルヴァから教わった式である。

 魂を捧げることで発動した式は。

 無限の力を内包する。

 

 僕の微弱なフレアであっても。

 どんな対立術式を編纂しようとも消えることはない。

 強力な奥の手だった。

 発動するごとに魂を一定量削り捧げることになる。

 そのため、連発はできない。

 しかし使わざるを得ない追い詰められた状況だと判断した。


「……覚えておけ、陽太。貴様のような半端者、私は一生許しはしない。術師に対する冒涜だ」


 つい先程までの紳士的な様子とは打って変わって。

 ゴルゴンは激情に駆られた形相だ。

 消えることのない劫火で燃やされつつも、治癒術式を施し続け生存している。

 皮膚が燃え、肉が焼け、皮が溶けると共に、身体の損傷が回復していく様は。

 敵とはいえ見ていて心地の良いものではなく、嫌悪感を催す。


 ゴルゴンはそのまま一時撤退し、術式で姿を晦ませた。

 ほっと一安心する暇もなく、今度は大地に凄まじい振動が走る。


「なんだッ!!」

「これは……」


 上空が紫色で染まる。

 その色の正体が、大きな蛇の鱗であることに気づくには数分の時間を必要とした。

 幽霊都市全体が爬虫類の鱗のような体表に包まれていき、あっという間に夜が訪れたと錯覚するほど周囲は暗くなる。


「何かしらの術か?」僕はスノトラに聞いた。

「いえ、違うのよ……これは生き物……これだけの巨大生物、そしてあの蛇のような鱗……まさか『世界蛇』ヨルムンガンド……⁉」

「『世界蛇』ってあの……神種の」

「だけれど、ずっと休眠状態だったはずなのよ……どうして幽霊都市に?」


 僕らが状況を飲み込めず焦っていると。

 幽霊都市の中心からカッと光の柱が出現する。

 大気中の樹素が急速に街の中心に集まり、集約し光の柱として顕現したのだ。

 その数秒後……中心から街の隙間に衝撃波が走る。


「……何が起こってるんだよッ」


 大勢を低くし、衝撃波で身体が持っていかれないよう下半身に力を込めつつ呟いた。

 隣のスノトラは杖を地面に突き刺し、なんとか耐え忍んでいる。


「きっと『世界蛇』の覚醒と無関係じゃないのだわッ! 街の中心から強烈な内包樹素を感じるのよ……『世界蛇』と遜色無い量……」


 衝撃波が止んだ。

 すると廃墟の上を伝って帰ってきたのはシグルドを探しに行ったフレン。


「フレン!」僕は叫んだ。


 そして近況を報告する。

 ひとまずメデューサの魔獣、ゴルゴンを追い払えたこと。

 しかしその朗報を喜ばず、フレンは下をうつむきながら


「……シグルドの奴、石化してたわ」とだけ告げる。

「そんな……」スノトラは小さく呟いた。


 僕は絶句し言葉が出なかった。


「原生魔獣とはいえ、シグルドがあんな奴に負けるとは思えない。胸元には一本の大きな槍が刺さってた。おそらく石化する直前に投擲されたモノ……間違いない、計画的に殺されてる。それに『世界蛇』が幽霊都市全体を覆っている。外には出れない。完全に外界と遮断されてるわよ、アタシたち。救助は呼べないわ」

「……石化を解く方法はないのか?」


 僕が一言質問すると。

 スノトラが割って入り答える。


「無いことはないのよ。フレン先生はあのメデューサの魔眼を食らったその時、即席で状態異常回復リダイレクションの術を付与していたでしょう? 『石化』の効果が明らかに低速化していたのよ」

「そう、しかもゴルゴンから一定の距離を離れたら術の効力が著しく減少したわ」

「つまり……あのメデューサの魔眼は回避こそ不可能だけどその分術の効力は微弱。ならシグルドの石化だって私やフレン先生なら難なく解くことができると思うわ」

「……そうなんだけど、2つ問題点があった」


 フレンが申し訳無さそうに語り続ける。


「まず1つ、どういうわけか、シグルドに掛けられた石化の術は極めて強力なの。きっと魔眼のせいじゃなくて、シグルドの胸を貫いていた槍のせい……ただの石化の術だったらシグルドに通用するわけないわ。きっとあの槍がシグルドの力を抑え込んでいる。だからそうちょっとやそっとじゃシグルドの石化は解除できそうにないし、シグルドの石化を解除するにはまず、あの槍をどうにかしないといけない」

「「……」」


 僕とスノトラは黙って真剣にフレンの話に聞き入る。

 フレンは中指と人差し指を立て


「2つ。シグルドの周囲に……ある奇妙な老人がいる」

「老人?」

「……そう、きっと盲目の老人、目が見えないのか、杖で地面を叩いてシグルドの周囲を徘徊している」

「その老人が守備してると? フレンから見た感じ、かなり強そうだったのか?」

「……いや全然。だけど……陽太と同じ」

「は?」

「……陽太や須田正義と同じように、内包樹素が全く感じ取れなかった」


 更に絶望的な情報が上乗せされ、僕とスノトラは言葉を発せられずにいた。

 しかしなんとか重たい口を開いた。


「つまり、高確率で系譜だ」

「系譜って何のことなのよ」

「……あー、うん。スノトラは知らないのか。須田正義みたいな特殊な力を使う奴のことだ」

「成る程。系譜って呼ぶのね。初めて知ったのよ」

「そうゆうわけ」

「その老人が系譜だと仮定した場合。僕らは須田正義のような猛者を倒さないとシグルドの奪還は不可能ってわけか」

「孤立無援だし、状況は絶望的ね」


 その場に残されているのは。

 陽太、フレン、スノトラ、そして剣士ミミズク。

 頼りになりそうなのはこの4名だけだ。

 つまりこの4名のみで、系譜を倒し、シグルドを奪還しなければならない。


「それに……もう一つ最悪な情報。北西の方角に剣士をゾンビ化させてる元凶がいる。そいつもおそらくあのメデューサと同じ……邪神候補の原生魔獣だわ。場合によってはそいつも相手しなくちゃならないし、ゴルゴンとかいうメデューサもまだ死んでいない確率が高い」


 無理だ。

 話にならない。

 勝てるはずがない。

 しかしそんなネガティブな本音を吐けるはずがなかった。

 誰もが周知の事実だったからだ。

 わざわざ声に出した所で、この状況が好転することはない。


 そんな時だった。

 廃墟の上をけたたましい速度で虫のように伝っていく影が見えた。

 その影は段々こちらに近づいていき。

 ついには目の前に降り立った。


 白色の剛毛。

 吊り目に野性味溢れる筋肉と豪快さ。

 180を優に超える長身。

 獣人――ガルムの登場である。


「ガルム⁉ どうしてここに?」スノトラが大声を出して叫んだ。

「テメエこそ、やっぱり幽霊都市にいやがったかァ……急にギルドから逃げ出しやがって。どうゆうつもりだァ? ……それに陽太も魔族フレンもいやがるし……それとお前は誰だ?」


 ガルムは後方で独り佇んでいた剣士ミミズクに声をかける。


「あ、俺はミミズクっす」

「なんだこいつは」

「剣士よ。王都から派遣された。あいつのことはどうでもいいわ、それよりガルム聞きなさい」

「どうでもいいって言われた……」


 ミミズクはショックを受けて硬直した。

 その間に、ガルムに事の顛末を話す。


「成る程ォ。つまり俺らはシグルドを奪還すりゃいいンだな! 楽勝~~」

「何が楽勝なのかしら。本当にガルムはアホなのよ。フレン先生、多分ガルムはさっき語ったことを全く理解してないのかしら」

「だって話が長ェんだもん。取り敢えず、その老人をブッコロしゃいいんだろ?」

「まあ、ガルムはこれくらい単純な方が逆にいいからさ」


 僕はフォローを入れるように言った。


「でもガルムが来たなら話は別だ。取り敢えず2手に別れよう」


 僕は提案する。


「なんでなのよ。ただでさえ戦力不足なのに」

「シグルドの奪還の他にもやるべきことがある。さっきフレンが言ってた、北西の方角にいるゾンビ化の力を持つ魔獣の討伐だ。それを止めないと、もっと被害が拡大してジリ貧だ。だからどっちも並列で進行させなきゃならない」

「成る程。一理あるわね。で、どいつがどっちに行くわけ?」フレンが聞いた。

「取り敢えず、僕は老人の系譜の方を担当するのは確定だ。須田正義と同じ力だとしたら……」


(確実に系譜の力は、現実世界に関連した法則を有しているはず)


 頭の中で須田正義のゲーム。

 そして大月の木の柵の力の2種を想像した。


「私は絶対にフレン先生と一緒がいいかしら」

「……そんなにスノトラはフレンと一緒にいたいのか、まあいいけど」

「それもあるけれど……フレン先生に手伝って欲しいことがあるのだわ」

「ああ、あの……術式のことね。いいわ、賛成」

「じゃあ、俺ァ、陽太の方に決定だな。陽太独りでどうにかなるはずねえし」

「えー……俺はどこっすかね?」


 ミミズクが話に割り込んできた。

 申し訳無さそうな態度で。


「…………じゃんけんで決めよっか」


 フレンがぼそっと提案した。



 シグルドを中心に。

 大きな魔法陣が展開されている。

 そしてシグルドの真上には。

 正体不明の肉の塊が浮かんでいる。

 まるで羽化する直前の繭のように、どくん、どくんと鼓動している。

 血管のような肉の糸を廃墟の四方八方に吸着させ、空中で静止されている。

 明らかに生き物だ。

 それも……おそらく、とんでもない化け物の。


 コクリ、コクリと。

 石レンガの上に腰を掛け、杖を地面に刺し。

 眠っているのは、紛れもなく独りの老人。

 しかしその服装は、僕が見慣れたもの。

 異世界ではあまり見られない特殊な服。

 そう、現実世界の服装だ。


 つまりこの老人は、現実世界――此岸の住民。

 僕と同じ転移者だ。


 そこへ表れたのは。

 ガルムと、僕と、そして剣士ミミズク。

 三人の顔を見ると、眠たい目をこすりながら起き上がり。


「どっこいしょ……はーやれやれ、お兄さん方、どうやらここを通るつもりなようで」

「ああ、通らせてもらうぜジジイ。怪我したくなかったら早くどきやがれェ」


 ガルムが啖呵を切るが。

 老人は全く動揺しない。


「やれやれ、年寄をあまり無碍に扱うでないぞ、小僧」

「弱いフリしてるだけのジジイが。早く本性を見せやがれ」

「ほほ……生きが良いことだ。さて、では、約束通り、『龍殺し』を守らないとねえ……」


〔隔離〕


 哀愁漂う詠唱を皮切りに。

 僕らは三度、異世界から隔離される。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定が次々と明らかになっていってワクワクします [気になる点] 前から少し気になっていたのですが、主人公の外界樹素を乱して術を無効化する体質は系譜や漂流者にも共通するものなんでしょうか?術…
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