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リンカーネーション  作者: 鹿十
第四章 ブレイザブリク応戦編
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大樹の盟約

【不可侵領域、世界樹イルミンスールの樹木付近から巨大生命体の移動確認】


【13対の神種、その一柱。『世界蛇』ヨルムンガンドの目覚め】


【約400年前の樹界大戦終了時から、観測史上初の行動である】


【とぐろを巻いた身体をゆっくりと動かし、全長100キロを優に超える長体を這いずり、人間界ミッドガルド方面へと向かっている。動くごとに大陸が揺るぎ、森が騒ぎ、山が崩れる】


魔界大陸ムスペルヘイムに身体を置き、先端の尾で人間界ミッドガルドの幽霊都市ブレイザブリクを囲う】


【『世界蛇』は尾の外部に猛毒を散布。体表から漏れ出た毒はこの世のありとあらゆる固形物を融解させる特性をもつ。解毒法は未だ存在しない致死の猛毒。故に幽霊都市に何者も侵入できなくなった】


【『世界蛇』は役目を終えると、また眠りにつき始めた】


【『世界蛇』は神種の中で唯一意思を持たない化け物である】


【故に、『世界蛇』は『世界樹イルミンスール』の意思に忠実に従う】


【故に、今回の『世界蛇』の行動も、神である『世界樹』の意思そのものと言え】


【誰にも糾弾することはできない】



「『龍殺し』の生き血。ヨルムンガンドの不可侵。系譜の魂の破片。そして我が主の神器『グングニル』。舞台は揃った。契約儀式を結べ」


 遠隔で術式を用いて通話するはジギリタス家の当主とその忠実なる手先 フィマフェング。

 胸にグングニルが突き刺さったまま石化しているシグルドを魔法陣で囲い、周りに大量の樹石――樹素が高温高圧化で固体化したもの――を配置。


 指示を受けると、フィマフェングは懐からナイフを取り出す。

 フィマフェングの顔には冷や汗が垂らされている。

 尋常ではない手の震えは緊張によるものか。

 フィマは短剣を持っていない左手で胸の鼓動を抑えるように擦り。

 そして覚悟を決める。


〔『契約儀式』フィマフェング=ジギタリス。ジギタリス家を代表し、ここに前期王家の戴冠を命じる。『大樹の盟約』を新たに結び、ジギタリス家を次代王家と定める〕


 フィマフェングの詠唱と共に魔法陣が赤色に光っていく。

 途方もない、莫大な樹素が、中央のシグルドを中心にして収斂する。


〔主よ『枯死』した華に彩りを与えよ。そして『発芽』せよ。ここに百年の契約を結ぶ〕


〔して――王家 フィマフェング=ジギタリスが『大樹の盟約』をもって命ず!〕


 フィマフェングは大量の脂汗をかき、震えて動悸を乱しながら。

 その場に膝立ちし。

 短剣を両手で握りしめ、その刃先を自分の腹に向け。

 そして覚悟を決めると。

 短剣を腹に突き刺した。

 血を吐きながら、衰弱しながら、それでもフィマは一点を見つめ続け。

 詠唱した。


〔……ここに先程決定しだ王の権利を破棄する! 王権の……破棄は……代表者である……グッ……私……の自死を持って完遂する…………がはッ……代償として…………我が主を復活させたまえッ‼〕


 つい先程契約儀式を結び手に入れた王権の破棄。

 大樹の盟約を直々に結んだフィマフェングに王家の権利は存在する。

 故に、その破棄のためにはフィマフェングの死が必要。


 王権の破棄を代償に、主の復活を希求するのだ。


 瞬間、魔法陣がきらめき発光する。

 そして異世界全土が謎の地響きに襲われる。

 大気中の樹素が急速に失われる。

 そして顕現するは――ジギリタス家の主「『枢軸主』オーディン」。

 その不完全顕現状態。

 四肢はドロドロに融解し、今にも溶け出しそうだ。

 

(無理やりな……方法で復活させたからか……明らかに壊れかけている……)


 顕現するオーディンを間近で見ていたフィマは途切れる視界の中思考する。

 そして地に伏す。


(ああ……くそ……知っていたさ……これが当主様の意向ならば、それに従うまで……)


 フィマは己の過去を回想する。


 ただの盗人に過ぎなかった自分を。

 紛争により捨て子だった自分を拾い、育ててくれたジギタリス家の当主を。

 彼にとって当主は、親以上の存在。

 親の愛など受けたことのないフィマフェングにとってはまさに神の化身だった。

 そんな彼に暖かなスープをくれたのは、『枢軸主』でもなく、ましてや『世界樹』でもなく。

 十三神使族のジギタリス当主。


(ああ、貴方様のためならば、私はいつでも……命を投げ捨てれる……)


 血で地面を赤く染めながら、理想に殉じ自決するフィマ。

 その眼には後悔など微塵もありはしない。

 だって――


「フィマフェング、余の働き、真に感謝する。辛かったろう? すまなかったな、ありがとう」


 術式により遠隔で、倒れゆくフィマの脳内に直接声を伝える当主。

 しかしフィマは穏やかな口調で


「心配には及びません……だって……当主様……貴方様と……彼岸で再び、巡り合うことができますから」


 と語った。

 そう、語った。

 自身の命すら差し出して、当主の願望を実現したのだ。

 あの約束はきっと実現するに違いない。

 しかし当主はどこふく風といった様子で


「ああ……そういえば、()()()()()だったな。そう、そうだ。フィマフェング、我はオマエのおかげで彼岸にたどり着くことができる」

「……え?」

「嘘偽りは言っていない。約束したであろう? オマエが命を差し出せば、彼岸に行けると。『我』が、だがな」

「……私は?」


 当主はフィマフェングの震えた声を聞き、心の底から高笑いをした。

 そして


「まさか、オマエも我と共に彼岸に渡れると本気で思ったのか? これは傑作だ。勘違いも甚だしい。貴様ははじめから我の手駒に過すぎない」

「そ、そんなことはない。当主様、アナタは言いましたよね?! ジギタリス家は家族のようなものだと。あの時、私にスープを差し出し、私に真の寵愛を与えてくださったのはアナタです!」

「あのような詭弁を、まだ信じていたのか。汚らわしく愚かな餓鬼め。……貴様が神聖なる彼岸に我と同行できると思ったか? なんと能天気な……だから親族纏めて村を焼かれても、全く真実に気づけんのだ」

「は……それは……どういう……」

「最後だから真実を話してやろう」


 当主はゆっくりと咳払いをして。

 飄々とした態度で語った。


「オマエの村を焼いたのは我がジギタリス家が命じた魔術師の集団だ。紛争で焼かれたと本気で勘違いしていたのか? オマエに語った言葉の中に寵愛と真実など微塵もありはしない。我は誰も信用しないからだ。呪術を広めたのも、ジギタリス家だ。その罪を、王家の身でありながら愚民に愛着を向ける馬鹿で頓狂なネリネ家に被せただけの話。大体、呪術を用いるために必須な『ルーン文字』は、我が主『枢軸主』の作り出したモノ……ならば、よくよく考えれば、呪術を編み出したのもジギタリス家……真っ先に疑われるべきはジギタリス家が普通だが……愚かな民衆どもは世論に流され簡単に信じてくれたよ。あれほど面倒を見てくれたネリネ家をすぐに断頭台に送り処罰に強力してくれた愚民ども。人間とはつくづく愚かなモノだ。騙されやすく、流されやすく、自分の頭で考えることもせず、おまけに魂をも持たず、彼岸にいざなわれることもない汚れた存在。そんな劣等生物に対し、我が本当の愛などを与えると思うか? 不愉快だ、フィマフェング。その愚かさは己の命を持って償え」

「ッツ……全部ウソだったのですか?」


 当主は何も答えない。

 フィマフェングの顔は青白く絶望の色に染められている。


「全て? 全て、全てなんですか……全て嘘なのですか。あのスープも、あの愛も。あの言葉も。あのぬくもりも……」

「消えろ。フィマフェング。愛などという下らぬ理想論に振り回された馬鹿げた道化よ」

「ッ……!! リーヴッッ!! リーヴ=ジギリタスッ!! 貴様の真意はッどれほど腐っているのか‼……地獄に堕ちろッ!!」

「やかましい。消えろフィマフェング。彼岸に渡れぬ、愚かな命よ」

「あああああああああッあッああああああああああああああッ!」


 フィマフェングは激怒しながら死亡した。

 死人とは思えないほどの形相で、激情しながら。

 この世のすべてを呪いながら、あえなくその最期を遂げた。


 ゲル状の不完全な神種「オーディン」はその軟体な身体を丸め。

 ブヨブヨとした異質な球体状となって眠りにつく。

 まるで孵化する前に、卵から取り出された、雛鳥のよう。

 球体は心臓の鼓動に合わせ、蠢いている。


「…………樹素で作られた模造品、核から生まれし感情……そこに愛はあると言えるのか?」


 当主「リーヴ=ジギタリス」は一人残され。

 もう死亡しているフィマフェングの耳にそう呟いた。



 

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