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リンカーネーション  作者: 鹿十
第四章 ブレイザブリク応戦編
73/197

弱点

 陽太とフレン、スノトラは王家の馬車に揺られていた。

 距離が近づくにつれて死臭の匂いが漂う。

 戦場の味。死体の音。運命の香り。

 味わえはしない。聞こえもしない。かぎたくもない。

 しかし、幽霊都市へと確実に迫っている。

 その事実が陽太の鼓動を早める。


「……スノトラはさ、さっきから何を読んでるんだ?」


 自分の不安や緊張から目をそらすために、本とにらめっこをしているスノトラに話をふる。

 スノトラは本から目を離さずに


「術式の勉強よ」と答えた。

「スノトラはもう全部の術式が使えるだろ。今更何を勉強することがあるんだ?」

「……はあ、陽太は何もわかってないのよ。この本は私の由緒正しい素晴らしき先祖の遺書『アグネの記録』よ」

「なんだその……アグネってのは」


 そんなことも知らないの? と言いたげな視線で僕を見た後、スノトラはため息をはく。

 すると話に食いついてきたのはフレンだった。


「アグネって、あの魔術革命のニンゲンでしょ?」

「さすが、フレン先生は知ってらっしゃるのね?」

「まあね。ニンゲンの有名人なんて全く知らないけど、さすがにアグネなら他の種族でも知ってるわ。それより……やっぱりスノトラってアグネの……」

「そう、子孫なのよ」

「えー!! 凄いわそれ! だからスノトラってそんなに才能豊かなのね!」

「フレン先生ほどじゃないわよ」


 二人して僕を抜きにして盛り上がっている。

 そんな中に割って入り、僕は聞き直す。


「で、アグネって誰なんだよ」

「アグネは、魔術革命を行った偉人かしら。つまり人類の術式の祖を作り出した者なのよ」

「へえ~すっげえ人なんだな、よく分からんけど。スノトラはその子孫ってことか」

「まあ、そうよ。そうなるわ。まあ、別に? 自慢みたいになるから言わなかっただけかしら。でもまあ、そこそこ凄いことは間違いないのよ、だってあのアグネの子孫なのだから。そりゃ魔術師としても一流で、貴女としても一流、で血縁も一流とか、逆に私は何を持ち合わせてないのかって話になるから、自慢っぽくて言ってなかっただけなのよ」


 スノトラはいつも通り、ドヤ顔を浮かべながら自慢を語りだす。

 こういう時だけは、いつものやる気なさそうなジト目がキラキラ光るからたちが悪いと思う。


「で、そのアグネの記録ってやつには何が書いてあるの?」

 

 フレンが本を覗き込みながら話す。


「それが解読が難しいかしら。私でも見たこと無い言語体系がちょくちょく出てくるのよ」

「どれどれ」


 フレンがスノトラから本をひったくって読み始める。

 が、数秒後、解読できなかったようで本を静かにスノトラの手に戻した。


「スノトラ先生でも解読できないってことは、やっぱり魔族の言葉でもないのだわ」

「う~ん。私も結構、古い言葉とか他種族の言葉は魔術関連なら知ってるんだけどな~」

「僕にも見せてみろよ」

「キシシ! スノトラとアタシに読めない言葉を陽太が読めるわけないじゃない! だってアグネすら知らないんだし!」


 金色のサイドテールを揺らしながら小馬鹿にして笑うフレン。

 俺はやっけになって、なんとかして解読してやろうと本を覗く。

 まあどうせ、無理だろうが。

 そう思って覗いてみると。

 自分でも馴染みのある言葉が、そこには書いてあった。


「……重力?」

「え」

「ん?」

「だから重力って書いてあるぞ」

「「……」」


 フレンとスノトラは「そんな馬鹿な」と言いたげな顔で見つめ合う。


「嘘っぱちよ。じゃあこの部分なんて書いてあるか訳してちょうだい」

「ああ、ここは……『異世界には存在しない重力を模倣する。そのために外界の樹素を崩し、魔素ではなく異なる媒質に変換し再構築する』って書いてある」

「……どうなの? スノトラ」

「……成る程、ここの部分は樹素の変換について記載されている部分なのね、確かに前後の文脈と辻褄が合うわ……じゃあここは?」


 更にスノトラが指を指したところを解読する。

 解読というか、日本語で書いてあるからその文を音読すればいいだけなんだけど。

 一通り解読し終わると、スノトラは狂ったように手にしていたメモ帳に何やら難しげな言葉を羅列して書き始める。

 フレンは僕に疑うような視線を向け。


「やっぱりアンタって変だよね。絶対、何か変だわ。外界樹素も乱すし、アグネの記録も解読できるし、おかしいわ」

「そんな事言われてもなあ」

「……術式も通用しないし」

「ははっ、僕の特別な体質が羨ましいのか? フレン」


 やり返すように小馬鹿にして言い返してみると。

 フレンはカーっと怒りだし。


〔『略式』〕


 短文詠唱で小さな火の粉を発生させ、それを僕の鼻先に当てようとしたが。

 やはり火の粉は僕に到達することはなく、消えていく。

 巫女が言っていたことだが、どうやら転移者は異世界と隔離された異物。

 そのため存在しているだけで周囲の外界樹素を乱し、術を不発させることができるのだとか。

 つまり僕は術式に対して無敵だということだ。


「そんなもん効かねってば」


 いつもフレンに顎で使われバカにされていることのやり返し。

 僕は盛大にフレンを煽る。

 するとフレンは、ため息をつき。もう一度


〔『略式』〕


 短文詠唱で火の粉を放った。

 当たるわけがないだろ。

 そう思って回避せずにその場に体育座りを続けていると。

 ジュっと。

 焼ける音がなった。

 鼻先の皮が火傷している。


「あっつッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 大声で叫びながら、僕はその場に転がりまわった。


「キシシ、やっぱり~!! アタシの思った通りだ」

「な、なんでだよ、なんで術式が当たるんだ?」


 火傷して赤くなった鼻先を擦りながら涙目になってフレンに問う。


「アンタが乱すのは外界樹素だけ、普通ね、術者ってのは外界樹素と内包樹素両方から樹素を拝借して術式を発動させるのよ」

「そんな事知ってるよ。僕は内包樹素が零だから、外界樹素からしか発動できないけど」

「アタシも内包樹素の消耗を抑えるために、いつもはある程度外界樹素をブレンドして、術を発動させてるの。外界樹素は制御が難しいから、なるたけ頼りたくないのだけれど」

「それがどうしたってんだ」

「最初はいつも通り、ある程度外界樹素をブレンドして術を発動した。だけど二回目はアタシは、自分の内包樹素を用いて術を行使した、つまり外解樹素を全く使ってないの」

「……つ、つまり?」


 フレンが仁王立ちしながら笑って言う。


「アンタが無傷でいられるのは、外解樹素が関与した術式のみ。今みたいに内包樹素100%で発動した術に対しては全くの無力! アタシのフレアで即死亡ってわけ」


 弱点見つけたり。

 と言わんばかりにフレンは僕を見下す。


 内包樹素だけで発動した術に対しては無力も同然…

 そんな大事な真実を、これから紛争に向かう自分に伝えてほしくなんて無かった。

 陽太の不安は更に倍増する。

 幽霊都市まで残り20分ほど。

 死がぐっと近づいた気がした。


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