ネリネ
【ネリネ家。それは裏切りの神使族】
【400年前の樹界大戦時、神種はある2つの派閥に別れ相克した】
【特定排斥種(仮名)を除く、全九種族のうち八種族――神種、巨人種、空想種、魔種、獣人種、人類種、小人種、森霊種もこの争いに巻き込まれ、樹界大戦は異世界全土を巻き込む最大規模の戦争へと波及していく】
【そんな時、特定排斥種と手を組み、外界との不干渉体勢を取り続けたのがネリネ家である】
【ネリネ家は特定排斥種とパイプラインを設け、彼らから受け継いだ呪いなどの含蓄を研究、発展させ、当時は辺境の歴史の浅い術でしかなかった“呪い”を呪術という術式に昇華させた】
【ネリネ家は樹界大戦中、協定を結び互いに不侵攻を締結していた他の神使族の長男や跡継ぎを呪術により呪殺。その上で、とある呪術を大規模な式で成立させ、過去の王都に呪いの『疫病』を流行らせ、20万弱の人間を呪殺した】
【ネリネ家は樹界大戦終了時にその責任を問われ、王家の継承権を永久に剥奪。13神使族の追放、一家の公開処刑まで話が広がったが、結局はそこまでの処置が取られることはなく、当時のネリネ家の当主が断頭台で死刑にされるのみの刑罰で済んだとされている】
【この事件により、当時の王都は崩壊、精霊の加護を受けるとされる神聖な地『ギムレー』に遷都され『ギムレー』は以後、王都と呼称されるようになった】
【対照的に呪術の大事件により多くの犠牲者を出し、形骸化したかつての王都『ブレイザブリク』は『幽霊都市』と呼ばれ忌み嫌われるようになり、汚れた大地とされ人が寄り付かなくなった】
*
「そうゆうことで、君たちを追加戦力もとい安全に隔離するために幽霊都市へ移動して欲しい。何、いきなり前線に出ろとは言わないさ。君たちは主に補給の役割を負うことになるだろう」
「どういうことでしょうか……」
僕がフィマフェングに問いをぶつけようとする。
するとフィマフェングが口を開く前に、僕の横で腕組をしていたフレンが呟いた。
「つまりアタシたちの内包樹素を供給しろってことでしょ」
「……そうだ。魔族フレンとスノトラ=ド・ノートルダム。2名の内包樹素量のみで並の人間の数百倍の量を誇っている。戦場の負傷者を助けるために治癒術式を組む援護部隊がいるんだが、治癒術式は莫大な樹素量を必要とする。君たち二人の内包樹素を彼らに供給してほしいんだ」
「……まあアタシは別にどうだっていいけど」
「私はもう少し、この王都で研究をしたかったかしら。新しい術式を研鑽したいのだけれど」
スノトラとフレンは両者共に僕の顔を見つめる。
どうやら決定権は僕にあるようだ。
どうする? 特別、幽霊都市に行くための理由はない。
そんなことをしているよりも、巫女ヴォルヴァの元で魂や境界門について学んでいたほうが有意義だろう。それに戦場は危険だ。行く必要もないし、行きたいと思わない。
しかし……僕の要求が通るはずもない。
相手は13神使族、それもジギタリス家だ。
人間界実質的な権力の中核を担う存在。
「……本当に危険はありませんか?」
「ん、そうだな。無いとは断言できないが……特に立花陽太、君なんかは……言い方は悪いが戦力としても供給要因としても心もとないのだから、まず前線に出されることはないだろう」
「違います」
「ん?」
フィマフェングは首を傾げる。
「僕の身の危険ではなく、フレンやスノトラの身の危険はないかと聞いているんです。僕だけが無事で安全でも意味がありません。特にフレンなんかは、ただでさえ魔族として追われてる身だ。上層部の人たちからすれば目の上のたんこぶのようなもの。幽霊都市の内戦にまぎれて、フレンを暗殺するなんてことを企んでいてもおかしくない」
強い眼差しでフィマフェングを見つめる。
彼は鼻で笑い飛ばし
「ああ、約束しよう。魔族フレンを魔種というだけの理由で殺しはしない。まあ状況によっては前線に出てもらうことはあるかもしれないが。それは最悪の場合だ」
「そうですか……」
「君たちが幽霊都市でそれなりの活躍を見せれば、ジギリタス家から名誉の勲章を送り、内戦が終了そたら刑罰を正式に免除してやろう」
「……分かりました。提案に乗ります」
僕が同意を示すと、フィマフェングはニヤリと笑い。
「では、勲章に見合った働きを期待している。君たちの英断に感謝するよ、下がりたまえ」
こうして陽太とフレン、スノトラは三人とも幽霊都市の内戦に巻き込まれることになった。
そんな時、陽太の心の中には巫女が語った言葉が反芻していた。
【君は絶対に巻き込まれる。そうゆう定めにある。因果の旋律が物語ってるから】
どのような因果だろうが、捻じ曲げてやる。
彼岸花を手に入れるその時まで、僕が死ぬことはない。
そう心に決心する陽太。
出発は一週間後。
それまでの間に、巫女から教えてもらった知識と術式を用いて。
自分のゴールを掴み取ってやろうと決めた。
*
「当主様。ド・ノートルダムの子孫と魔族フレンの王都からの追放が決定しました」
フィマフェングは敬意を示すように軽く会釈をしながら語る。
暗い闇の向こう側で、王座につくジギタリス家の当主は問う。
「立花陽太といったか……」
「? 当主様はあの者が気になりますか?」
「おそらくだが、あやつも系譜と同じ……あちらの世界からの訪問者だろう」
「!! つまり立花陽太も魂を2つ所有していると?」
「いいや、旋律書にはそのような記載はない。おそらく、ただこちら側に漂流してしまった者か……何はともあれ正当な手順を踏まず場違い的に転移してしまった者だろう」
「転移者も多くなりましたね。ここ最近、急に数を増してきている。立花陽太も厳重警戒が必要ですか」
「いいや、あの者は何もできまい。ただの一般市民かそれ以下だ。それよりもド・ノートルダムと魔族フレンの動向を見張れ」
「はっ」
フィマフェングはその場から動き、早速指示に従う。
一人残された当主は手にしている石板――レーク碑文を大切そうに擦りながら。
「立花陽太……此岸からの転移者か。旋律を乱した悪魔どもめ」
怒りのこもった声で闇の中に呟いた。




