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リンカーネーション  作者: 鹿十
第四章 ブレイザブリク応戦編
70/203

真名

【人間界ミッドガルド北方高原に正体不明の式具を発見】


【『枢軸主』オーディンの神器、『グングニル』これが正体であると断定】


【神器『グングニル』その効力は――――】


「『完遂』だ」


 ジギタリス家の当主はフィマフェングにそう告げた。


「完遂ですか……」

「ああ、グングニルは投擲した者の意思を完遂するために働く神器である」

「つまり……『龍殺し』を殺せと心の中で願い、投擲すれば『龍殺し』の殺害を完遂すると?」

「いいや、神種以上の力を有す者や、樹素とは異なる力を用いる者……系譜などには通用しない」

「……その理屈だと、『龍殺し』は神種以上の力を持っているということになりますが……」


 フィマフェングは冗談を言うように質問をした。

 しかし当主は幾ばくの間、黙ってから。


「ありえん話ではない」とだけ返す。

「それは些か、『龍殺し』を買いかぶりすぎでは?」

「今は、だ。今はあやつの実力は……神種には遥か及ばない。しかし『龍殺し』の潜在能力は計り知れない。将来的に、ゆくゆくは異世界で最強の存在に成長すると見ている」

「……当主様のご判断ならば、それが正しいかと」


 フィマフェングは当主がシグルドに見せる異常な固執に対し疑問を抱いていた。

 たしかにシグルドの力は凄まじい。

 彼一人で王家の軍兵総勢を上回る実力を有している。

 しかしそれは人間界ミッドガルドでの話だ。

 邪神や神種、他にも一部の空想種などの人智を超越した存在には到底及ばない。

 彼らの前ではシグルドなど赤子も同然だろう。


「ともかく、危険因子は早めに潰さなければならない。そのため、『龍殺し』の完封のためにグングニルを用いる」

「グングニルを?」

「系譜の『根源の異なる力』でシグルドを消耗させ、隙を作るのだ。その隙を見てグングニルを投擲させろ。そして原生魔獣の魔眼で完全に石化させる」

「……グングニルを投擲できる者など、存在しません」

「地下にある樹石を使え、何千、何万個でも使用してよい。それでも駄目ならば、残った系譜の力を活用しろ。魂をエネルギー体に還元してグングニルに注入し使用させればよかろう」

「……分かりました……」

「不服か? フィマフェング」


 葉切りの悪い口調を見透かされるフィマフェング。

 彼はゆっくりと丁寧に、見透かされた本心を吐露した。


「当主様は、些か、『龍殺し』に関して、戦力の投入が過剰かと」

「……」当主は闇の中で黙っている。顔は見えない。

「それが当主様の決定ならば、私は従うだけですが……何がそこまで……『龍殺し』あいつは一体何者なのですか?」

「……お前には正直に語ってやろう。『龍殺し』のそのおぞましい正体を……この話を聞けば、お前も納得せざるを得ない。あやつの危険性を」


 フィマフェングは真剣な面持ちで当主の方を向いた。


「『龍殺し』あやつの正体、及びその真名・・は――」



「魂について色々教えてあげる。巫術によるとね、異世界に渡る魂の総量は13人らしいんだ」

「13人……?」

「そう、正確に言えば『根源の異なる力』として利用できる魂は13。その力を用いる者を例外的に『系譜』と呼ぶのだけれど。異世界が終焉を迎えるまでに、系譜が13人現れるって話なの」

「それは誰が決めたことなんですか?」

「決めたことってより、予測だね。ブラギってかみ様が大昔に予想したことなんだ。それを知った世界樹イルミンスールは、13人の系譜に対抗するために13対の神の眷属を作り出した。それが神種しんしゅ。系譜に対抗するために作られた存在だから、『対』と呼ばれるの。まあ樹界大戦っていう400年前の戦いでその内5名が死んじゃったんだけどね」

「死んだ5体のカミサマの名前は?」

「えーっとね、確か、フレイ、オーディン、ヘイルダム、バルドル、テュールの5対だね。だから残りは8対。まあ……その内、神の眷属の自覚があるのはたった数名だけらしいけど……」


 僕はいつも通り巫女の社で巫女ヴォルヴァから訓練と教育を受けていた。

 いつも歴史に出てくる樹界大戦という約400年前の戦争。

 どうやら異世界全土を巻き込む大戦だったらしく、神種も4人死んでしまったらしい。

 ここが異世界での歴史の要であり、重要なターニングポイントでもある。

 人類が魔術を習得し、急成長を遂げたのも400年前の樹界大戦の時と一致している。

 しかし樹界大戦時の歴史はほぼ空白らしく、それを記述してある書物は殆ど残っていないらしい。 

 一体、400年前に何があったんだ? 


「王家もずーっと大変だったらしいよ。十三神使族も巻き込まれて、その因縁が今でも続いてる」

「因縁……?」

「ああ陽太くんは知らないんだっけ? 王家候補の13の神使族と呼ばれる名家は、それぞれ主として神種を祀っているんだよ。例えば……そうだね、十三神使族でも現在最も派閥の大きいジギタリス家なんかは、オーディンを祀る一家なんだよ」

「へえ……なるほど、でもオーディンって確か……」

「そう400年前の樹界大戦で死んじゃった。だからジギタリス家は、今でも主であるオーディンの復活を悲願しているんだ」

「……そうだったんすか。だから神使族って奴らも神の眷属と同数の13家いるんすね」

「そう、太古の時代、世界樹が調和をかき乱す13名の系譜に対抗して生み出したのが13の神

種であり、それを崇拝している名家の末裔が十三神使族だから」

「となると、俺が戦った須田正義も系譜の一人なのか……」

「そ、で、君は系譜の一人を倒してしまった。本来なら勲章ものだよ。神種から直々にご褒美をもらってもいいくらいの偉業」

「なのに、王家の人たちは僕たちを捕らえて極刑にするつもりだったなんて酷いっすよほんと」

「……そうだね。可哀想だから、私がその分、ご褒美をあげたの。だから色々教えてるんだよ?」


 巫女に見つめられ心臓の鼓動が早まる。

 やはり似ている。

 性格はまるで違う。活発で外交的で優しくて可憐。

 千歳緑とは似ても似つかない。

 けど、何故だろう。

 面影が千歳と重なるのだ。

 細かい所作の中に、千歳の面影を感じる。

 その都度、ドキリとして緊張してしまう。

 そして同時に、千歳を思い出し、心が寂しくもなる。


「ちょっと~~~ヨータ!! どこにいるの!!」


 二人の静止した時間を割って入り込んできたのは、金髪の少女フレン。


「あ、いたいた。……アンタたち、今もしかしてキスしようとしてた?」


 フレンが軽蔑するような視線をこちらに向ける。

 気づけば、僕とヴォルヴァの距離は目と鼻の先にまで接近していた。

 それに気づいて、お互いに顔を赤らめ視線をそらす。


「まあいいわ、ヨータ。アンタとアタシ、上の連中に呼ばれてるわよ?」

「はあ? 何のようだ?」

「知らないわそんなの。取り敢えず行きましょう」


 フレンが僕の手を取り強引に動かす。

 持っていたペンをその場に放り投げ、フレンに運ばれるまま豪華な面会室へとたどり着いた。

 二人でしばらく待っていると、ある男が現れる。

 切りそろえられた顎髭とロン毛が特徴的な男だった。


「やあ、君たち、王都での暮らしはどうかな?」

「ふん、もうちょっとまともな飯をよこしたらどう?」


 フレンが噛みつくように言う。


「それは悪かったね。人間の料理は魔族の口には合わなかったかな?」

「それより……何のようですか?」僕は率直に質問した。

「ああそうだね、まず自己紹介から、僕の名前はフィマフェング、ジギタリス家の人間だ。今回、君たちを呼んだ理由は、一つ。ブレイザブリクの紛争に加勢してほしくて呼んだ」

「はあ? なんでアタシがニンゲンの争いに巻き込まれなきゃいけないワケ?」

「君たちの死刑は、巫女ヴォルヴァ様の司令によって取り消された……といっても、一時的なものでね。王家亡き今、巫女様に逆らえる者はいないとはいえ、十三神使族も、大型ダンジョンを攻略した者たちを野放しにするほど馬鹿じゃない」

「何が言いたいんですか」

「……君たちに反抗の意思がないことを表明してほしいのさ。そのためにブレイザブリクの戦争に参加してもらう」


 どうゆう風の吹き回しだ?

 ブレイザブリクで戦争してるって噂は聞いてたけど、犯罪組織集団を収めるため大規模の軍兵が戦場に投入されたはずではないのか?

 ならば無関係な僕たちに頼る動機も意味もないはずだ。


「参加するのはいいですが、必要ですかね? 僕たちが」

「……ああ今は猫の手も借りたいほどだ。深刻な人材不足、王都には兵は殆ど残っていないし、先日、『龍殺し』や残された『熾』の階級の剣士も戦場に導入されてしまった。つまり今現在、魔族フレンや立花陽太くん、スノトラ=ド・ノートルダムなどを抑える者がいない状態なんだ。そんな状態で君たちに反乱でも起こされてしまえば簡単に王都は危機に瀕する」


(……戦力の過剰投入……ってことは、ブレイザブリクの戦争は思ったよりも軍兵が追い詰められてる状況にあるってことか……妙だな。何か関与してるんじゃないか?)


「おかしいですよね。軍兵はプロです。犯罪組織に負けるなんて、あり得ないって聞きましたけど」


 僕はフィマフェングを疑う目で見る。

 するとその視線に当てられたフィマフェングが自ら語りだした。


「ああ、立花陽太くん、君は中々に勘が鋭いね。君はこのブレイザブリクの紛争に何か大きな介入が加わっていると予想しているわけだ。そしてその視線……ジギタリス家を疑っていると?」

「……いいや、あくまで予想です、すみません」

「いいや、いいんだ。実を言えば、僕もそう見てる」

「!!……つまり?」

「本音を話すならばね、ブレイザブリクの紛争、裏で十三神使族のいずれかが関与していると見ている」


 重要な情報をいきなり話始めるフィマフェングに圧倒され、僕は思わず口を開ける。

 フレンは話がわかっていない様子だった、ずっと金色の髪を手先でくるくる巻いて遊んでいる。


「……そんな重要な話を僕らにしていいんですか?」

「いいよ、それくらい王都は今、逼迫した状況にあるってことを理解してほしいのさ」

「……どこの神使族だと思っているんですか、フィマフェングさんは。どこが裏で操っていると?」


 するとフィマフェングの表情に「よくぞ聞いてくれた」と言わんばかりの笑みがこぼれたのを僕は見逃さなかった。

 少し違和感を感じたが、スルーしてフィマフェングの話を聞く。


「それはね……悪名高い一家だ、知っているかい? 裏切りの神使族、ネリネ家について」


 ねっとりとした悪意が、フィマフェングの語る言葉の中には含まれていた。



 

 



 


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